奪取してダッシュ
「いくよ」
エリオたちが勢いよく飛び出すと魔造人形も動き出す。その半数は術者を守り、半数は魔道具のある陣の前に集まってエリオたちに向かってきた。
レミとマルクスが左右に広がって数体を引きつけ、わずかに手薄になった魔造人形の群にザックが大盾を構えて突撃する。四体を受け止めたところで彼の突進は止まるのだが、ハルカは不自然にならない程度の力でザックの背中を支えて押し返した。
「エリオ!」
ザックの合図を受けたエリオが彼の肩を踏み台にして跳び上がり、王具の能力解放を促す式句を口にする。
「グレン、リリース・トゥルーアビリティ」
グレンの鍔から広がる揺らめくオーラに包まれたエリオは、跳び越えた群の後方にいる二体を蹴散らした。しかし、あまりに強固すぎるために破壊には至らずもたついてしまったことで、魔族を護っていた魔造人形の一部がエリオに向かって動き出した。
(エリオさんが危ない)
「ザックさん。全力で押してください!」
ハルカの檄を受けてザックが叫ぶ。
「ボアランジ!」
脚力強化の闘技によって押し返すザックの背中をハルカが後押しすると、四体の魔造人形を物ともせずに彼の足は踏み出された。そのままエリオのところまで突き進んだザックは、魔造人形と共に魔術陣の中に押し込んだ。
「ん、なんだ? 貴様ら何を!」
その叫び声にマルクスとレミは身を固めるが、ザックとエリオは止まらない。魔造人形に組み付かれて団子状態ながらも、陣の中に入ったエリオは腕を伸ばして魔道具を掴み取った。
「よし、撤退だ!」
エリオの指示を受けてレミとマルクスは身をひるがえして逃亡を開始。ハルカとザックも身を引いた。エリオは魔造人形を引きはがして揉みくちゃの状態から抜け出すと、その脚力にものを言わせて走り出す。
魔術陣は消失して儀式が中断された。術式に使っていた力が行き場を失うと、流れくる龍脈と合わさって、その渦中にいる術者に大きな負荷をかける。ザックが言ったとおり儀式のために使われていた魔力が暴走したのだ。
彼は薄い残光が灯る陣の中に膝を突きながら震える拳で地面を叩き、ぼやける視界の中で逃げていくエリオたちを睨みつけた。
「あいつら……ゆるさんぞ!」
心身に大きな負荷を受けて酷く消耗しながらも、エリオたちの背に手を伸ばして魔造人形を操り追わせるのだった。
「エリオ、振り切れないよ」
石で構成されている魔造人形は動作が鈍いだろうというエリオたちの予想は裏切られ、多少の障害物など蹴散らしながら猛追してくる。
先頭を走るエリオから離れること四十メートル。山を下っているとはいえ、重装備のザックはかなり遅れてしまっていた。彼も魔造人形と同じように多少の草木は物ともしないが、明らかに走力が足りていない。
「どうするんだ。俺たちは逃げ切れてもザックが……」
マルクスが切った言葉の先をエリオは想像し、向かう先を右手に変えた。
「こっちだ」
エリオが向かう先は、領地拡大のために木々が伐採されて開けた場所。
「どうしたの? なにする気?」
レミの戸惑いの問いにエリオは振り向き叫んだ。
「魔造人形を迎え撃つ」
「だけど、万が一あいつが追ってきたらどうするんだよ」
たとえ儀式の強制終了による負荷によって動けなくなるにしても、相手が魔族であるかもという恐怖がリオーレ兄妹を不安にさせているのだ。その不安を払拭することをエリオが言った。
「あいつは魔族じゃない。魔族を象徴する角がなかった」
魔造人形を迎え撃つためにやってきた場所は、伐採によって四十メートル四方に切り開かれて崖まで続いている。切り株まで引っこ抜かれた足場は多少荒れてはいるが、武器を振り回すには申し分ない。
エリオとハルカに続いて到着したマルクスとレミは、武器の柄を握りつつエリオの横に並び立つ。間髪入れずに抜き放ったマルクスは長剣の切っ先を小刻みに震えさせ、レミは円形の小盾の後ろに身を縮めた。
陽光に照らされたこの場には静かに風が吹き、一見すれば休息するには打って付けの憩いの場所に思える。だが、不自然に区切られた森との境界からは、黒い気配が漏れ出しているように思えて彼らの精神は張りつめていた。
瞬きすることを忘れて見ていた境界からザックが現れると、ハルカは素早く白魔術を行使する。
「包め、流れる風よ。流せ、降り注ぐ脅威を。エルスシェルト」
風の護りが仲間たちを包むと同時に魔造人形が次々に飛び出してきた。
「ザック!」
エリオの呼びかけだけで意図を理解したザックは背負った大盾を腕に通した。滑りながら制動をかけ、反転した勢いで魔造人形一体を払い倒すと、そのままザックとエリオは前衛を担って戦闘が開始される。
マルクスとレミを中衛に、後衛のハルカを護る陣形で可能な限り一体ずつ相手にする。だが、魔造人形の動きが思いのほか良く、石とは思えない強度のため苦戦していた。
「グレン、リリース・トゥルーアビリティ」
エリオの持つ片刃直剣の王具グレンの鍔から赤いオーラが噴き出した。『能力解放』の式句を受けたグレンが持ち主の闘気や魔力を吸い上げて攻撃力を向上させる。さらに、フィードバックした力が使用者の体を覆い、いくらかの肉体強化をおこない防御幕を形成した。
その効果によってエリオは魔造人形を一方的に斬り叩く。
(さすがエリオさん。みんなを護りながら立ち回ってる。わたしも頑張らないと!)
遅れてやってきた魔造人形の動向を察したハルカは、握りしめていた杖を向けて法名を叫んだ。
「ファイムブラスト」
仲間たちの後方から放たれた大剛球の爆裂弾が魔造人形を破壊する。飛び散る石片と爆炎で周辺の森の木々と数体の魔造人形が吹き飛んだ。その直後に「あっちー!」と叫んだのはかなり離れた場所で戦うマルクスだ。
「ごめんなさいっ!」
二十メートル以上離れた場所からの爆風と熱波が仲間に届き、ハルカは慌てて謝罪した。
(もう、強弱が効かないから援護がしづらいわ)
「マルクス、わかったろ? この数の魔造人形が乱立して動き回っていたら魔法での攻撃は難しい。高ランクパーティーでも魔法を絡めた連携は容易じゃない。ましてやハルカの魔法の規模じゃ巻き添え必至だ。期待するな」
「し、してねぇよ!」
背後の仲間を気遣いながら戦うザックは、ハルカの魔法に期待しているマルクスに気づいていた。
白魔術士を自称するハルカだが、彼女の魔法はそこらの魔法士を大きく超える威力がある。一般の魔法士でも魔法の運用には気を使うのだから、混戦の中でのハルカの大魔法は使いどころが限定されてしまうのだ。
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