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LOST ANGEL  作者: 嘘猫
6/8

Stage5:特待生

3/8にStage4の最後の部分を少々編集しました。

先にご覧下さい

 結唯が西桜学園に転校してから一週間が過ぎたある日――


「おっす、結唯」

 結唯が教室に入ると直ぐ、窓際の方から声が掛かった。

 見ると、一樹が手を挙げている。

「おはよう、結唯くん」

「おっはよー」

 結唯の姿を視界にとらえ、傍にいた湊と京子も続けざまに声をあげた。

 小さな頷きで返答をした結唯は、彼らの方へと歩みよった。


 結唯が一樹達に出会ってからまだ一週間。

 西桜学園は土日が休日となっている為、実際に顔を合わせているのは五日程でしかないが、結唯は一樹達と随分親しい仲になっていた。

 これは、結唯が積極的に彼らに話し掛けたから、という訳ではない。

 もともと人付き合いを苦手としていた結唯は、クラスメートに話し掛けられてもただ返事をするくらいで、自分からという事は滅多に無かった。

 では何故、一樹達と親しくなる事が出来たのか?

 それは、間違い無く彼らの性格によるところだろう。

 一樹と京子の、明るく、少々強引とも思えるくらい積極的な性格が、結唯には返って有り難かった。

 湊も、どちらかと言えば内面的な性格だが、親しい者に対する優しさと人懐こさは、結唯を温かく迎えてくれた。

 今まで、他人を信じず、ひたすらに強さだけを求め続けていた結唯には、ただ友人として自分に接してくれる彼らの存在が、とてつもなく愛しく思えた。


*‡*‡*‡*


 放課後、結唯は一樹達の案内で学園内の施設を見て回る事になった。

 転校から一週間も経っての見学は、少々遅すぎるようにも思えるが、実のところ、結唯は昨日も彼らと共に学園内を案内してもらっていた。

 ただ、学園内の全ての施設を訪れるには、一日では短かったのだ。

 それほど西桜学園の敷地面積は広い。

 食堂、図書館、体育館、闘技場、演習場と施設の名前を挙げるとキリがないが、演習場だけでも、様々な状況を再現して造ってあるため、かなりの数になっているのだ。


「そんな訳で、本当言うと僕達もまだ行ったことのない場所が結構あるんだ」

 湊の簡単な説明を受けて、結唯は改めて西桜学園の凄さを思いしった。

 これほどの設備は、例え軍の施設であってもそうは無いだろう。

「だから、急いで見て回らないとね」

 そう言って、結唯達は今日の目的地である第一演習場へと歩を進めた。


「…にしても、本当お前って人気者だな」

 しばらく歩いていると、すれ違う生徒の視線が気になったのか、徐に一樹が結唯につぶやいた。

 先程から大勢の生徒が結唯の事をジロジロと見ている。

 恐らくは、噂の転校生がどんな奴か気になったのだろう。

 だが、そんな好奇の目の中に、明らかに違う意図の、敵意の目を向ける生徒がいる。

 ピンク色の水晶を胸に輝かせている生徒――『特待生』達だ。

「俺、何かしたかな?」

 結唯は溜め息まじりの声をもらした。

「特待生のプライドってやつでしょ。

 随分安っぽいプライドだこと」

 悪びれる様子もなく呟いた京子に、結唯は思わず苦笑いを返した。

 結唯が倖斗の誘いで西桜学園に転校してきた事は、既に全校生徒が知っている。

 その事実が、特待生には気に食わないようだ。

 特待生の間には、自分達がエリートであるという一種のプライドがあるらしい。

 世界でもトップクラスの評価を受ける西桜学園の『顔』なのだから、彼らがエリートであるというのも、まんざら嘘ではないのだが。

 だが、倖斗が自分達ではなく、結唯に興味を示したのには、当然彼らのプライドは傷つけられたのだろう。

 尤も、だからといって自分に敵意を向けられたとしても、結唯には迷惑以外の何ものでもなかった。

「けど、同じ特待生でも、女子の間では結唯くん人気あるんだよ」

 意外な言葉を口にした京子に、結唯は小さな驚きの表情を向けた。

「だってほら。

 結唯くんって、イケメンだから」

「あー、確かに」

「分かる分かる」

 突然の褒め言葉に、結唯は曖昧な表情を浮かべるしかなかった。


*‡*‡*‡*


 十分程をかけ、結唯達はようやく第一演習場に辿り着いた。

 第一~第四演習場は、数ある演習場の中でも地面がコンクリートで固められているだけの最もシンプルな造りになっている(周りは観覧席付の壁で囲まれており、大きさはそれぞれ違う)。

 普段は部活や訓練で放課後も使用されているらしいが、この日は偶然にも誰もいないようだった。


「せっかくだし、ちょっと使わせてもらおうよ」

 一通り演習場の周りを見終わると、京子はそう提案した。

「よっしゃあ!

 結唯、勝負しようぜ!」

 真っ先に賛成の声をあげたのは一樹。

 隣では湊も頷いている。

「分かった」

 結唯も一樹達の魔法はまだ見た事がなかったので、良い機会だと了解した。

 胸ポケットの学生証を取り外し、入り口に備えつけられた識別モニターにかざそう(学内施設では使用する前に必ずこうする)とした、その時、背後から声が掛かった。

「そこどけよ、お前ら!

 ここは今から俺達が使うんだ」

 振り返ると、そこには数人の少年の姿があった。

 制服からみて、全員一年の特待生のようだ。

「何よ、アンタたち」

 京子が問い返すと、先頭にいた少年が荒々しい声で応えた。

「そこを使うって言ってんだよ!

 一般生は他を当たれよ」

「お前らが違うとこ使えばいいじゃねーか」

 特待生には確かに学内施設の優先利用の権利が与えられている。

 だがそれは、あくまで混雑している時に限られた特権だ。

 この状況では、彼らの言っている事は単なる横暴でしかなかった。

「いいからどけよ!

 どうせお前らみたいな連中が練習したところで、高が知れてるんだ」

 特待生の少年は一層の剣幕で怒鳴りだした。

 そんな騒ぎが聞こえたのか、辺りには次第に生徒達が集まり始めた。

 いい加減大事になる前に此処から離れようと結唯は考えたが、京子達の方も少々熱くなってしまっているようだった。

「そんな事言って、どうせ結唯くんの事が気に入らないだけなんでしょ?

 本当小さい男ね」

 京子が嘲笑を込めた表情で馬鹿にする。

「はんっ!

 どうせコイツも大した事ないんだ」

「初対面の結唯くんの事をそんな風に言うなんて、ヒドいよ!」

 いよいよ湊まで参戦してしまった状況に、結唯は困り果ててしまった。

 これも彼らの優しさなのだろうが…。

「だったら、試してやる!」

 そう言って、特待生の少年はベルトに付いていたデバイスを構えた。

 だが、彼が魔法を発動するより先に京子の魔法が少年のデバイスを撃ち落とした。

 意外な事態に慌てる特待生の少年達。

 そんな彼らの前で京子は勝ち誇ったように微笑んでいた。

「このヤロー!」

 もう一人の少年が再び魔法を発動する。

 狙われたのは一樹だった。

 魔法陣が展開され、僅か二メートルの距離の一樹に魔弾が襲いかかる。

「おっと」

 それを、一樹は見事なまでの動きでかわしてみせた。

 即座に軌道を読み、最低限のアクションに留める完璧な立回りだった。


 ――だが、この時一樹は魔弾をかわすべきではなかった。

 もっと他の対抗手段をとるべきだったのだ。

「危ないっ!」

 そう誰かが叫んだ。

 見ると、一樹がかわした魔弾が一人の少女に襲いかかろうとしていた。

 一樹の体に隠れて、魔法が発動したことに気付かなかったのだろう。

 その少女は、自らの身を守ることも出来ずに、ただ自分に向かってくる魔弾を見つめる事しか出来なかった。

 もうダメだと、その場にいた誰もが思った。

 次の瞬間、彼女の視界は誰かの陰に覆い尽くされた。


 彼女の前には、人々の視線の先には、結唯の姿があった。

 結唯が指を鳴らすと、彼女を襲った魔弾は跡形もなく消え去っていた。

次話は少し遅くなるかもしれません。

あくまで、かも、ですが…。

何卒、ご了承下さい。

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