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LOST ANGEL  作者: 嘘猫
3/8

Stage2:招待状

 一瞬の出来事だった。

 辺り一面が強烈な光に包まれたかと思うと、次の瞬間には、魔弾は跡形もなく消滅していた。

 ナイフで襲いかかった男達も、一人は遥か後方に弾き飛ばされ、一人は結唯の足下に倒れ伏している。

 予期せぬ状況に、魔法を放った者も、反撃に備えていた者も、そしてまた、恐らくは何らかの攻撃を受けたであろう男達も、戸惑いの色を隠せていなかった。

 一体何が起きたのか、この少年は何をしたのか、地べたに這いつくばされた男は、困惑の面もちで目の前の少年を見上げた。

 そんな男達の視線を他人事のように受け流しながら、結唯は右手を近くの男へと向けた。

「『主』とか言ったな。 お前達に命令を下した者は今何処にいる?」

 先程までと変わらぬ口調で、しかし、明らかな殺気を纏わせて、結唯は再びの質問を浴びせる。

「答えろ。さもないと…」

 そう言って、結唯は開いた右手に力を込めた。


 魔法の精度・効力が発動者の精神状態に大きく左右される事は、既に周知の事となっている。

 これは、研究の結果というよりも、経験的事実によるものだ。

 そしてまた、魔法を発動するにあたり、発動者の想像イメージが重要な鍵となることも同様の事実。

 そのため術者(魔法の発動者)は、発動の際に何らかのアクションを用いて、イメージを補完する事が多い。

 何せ魔法は、普及はしたと言えども、まだ完全には解明されていない未知の能力。例え術者本人だとしても、魔法と、その結果を完璧に想像することは難しいのである。

 そして、手を使うというアクションは、数あるイメージ補完方法でも代表的なものだ。

 つまり、術者に手を向けられるという事は、拳銃を突き付けられるのと同じような事なのだ。


 その意味を知ってなのであろう、右手を向けられた男の顔は緊張と恐怖に歪んでいた。

 だが男達は、この状況でも尚、『主』の事を口に出そうとはしなかった。

 強い忠誠心と任務遂行の責任感が彼らにそうさせていたのだ。

(本当によく訓練されている)

 結唯は自分を襲った者達に、小さな感心を覚えた。

 けれど、このまま見逃す事など出来る筈もない。

 少々惜しくも感じたが、結唯は魔法を発動しようとした。

 ――彼らを殺すために…。


「そこまでだよ」

 刹那、声が響いた。

 優しげな、それでいて凛々しさの感じる男の声。

 慌てて結唯が振り返ると、そこには、恩人の――春名倖斗はるな ゆきとの姿があった。


*‡*‡*‡*


「う~ん、やっぱりコーヒーはミルクをたっぷり入れた方が美味しいよね」

 倖斗はコーヒーを口に運ぶと、そっとカップをテーブルに置いた。

 倖斗の向かい側には結唯が座っている。結唯の前にはコーヒーとサンドイッチのプレートが置かれていた。

 彼らがいるのは、大通り沿いの小さな喫茶店。

 そろそろ昼食の時間帯というのに、ほとんど客もおらず、あまり繁盛はしていないようだった。


「僕は、こういう静かな所も結構好きなんだけどね 」

「はぁ…」

 一方的に話し始める倖斗に、結唯はどう答えていいか分からず、適当に相槌を打った。

「四大家の当主である御方が、昼間からこんな所に居ていいんですか?」

「まあね。

 君の成長ぶりを見たかったんだよ」

 そう言って、倖斗はまたカップに口をつけた。


 魔法の才能は遺伝によって受け継がれる事が多い。

 その中で、日本における最も濃く、強い血を継ぐ一族、それが四大家だ。

 その始まりは二百年程前になる。

 かつて、日本では人間と魔族の間で大きな争いが起きた。

 『終焉の日』より共に力を合わせて生きてきた両者だったが、復興が進むにつれ、一部の者達の間に意見の食い違いが見られ始めたのだ。

 魔族は、自分達こそが新たな種であり、これからの世界を担う者達だと主張し、また人間達も、魔族は人間ではない異なる種として軽蔑し始めた。

 当然、共に歩む道を選ぶべきだと考える者も、少なからず双方にいたのだが、一度点いてしまった争いの火は、そう簡単には消えなかった。

 そして、ついに内戦状態へと突入してしまった(この動きは当時の他の国々でも多く見られた)。

 強大な魔力を有する魔族側と、数で勝る人間側。

 両者の戦いは想像を絶する程悲惨なものだった。

 戦局は疲弊し、数年にも及んだこの争いは、結果的に人間側の勝利として幕を閉じた。

 

 この時、人間側を勝利に導いた四人の魔術師達。

 戦いを終わらせた彼らの功績を讃え、国は彼らに新たな姓を贈った。

「春名」「夏目」「秋山」「冬蔦」

 これが四大家の始まりなのである。

 以降四大家の人々は、国民を、日本を守る守護者として裏社会を支えてきたのだ。

 春名倖斗は弱冠二十歳でその四大家の一つ、春名家を継いだ天才児。

 中性的で優しげな顔立ちからは想像もできないが、世界最強の四十九人の魔術師『ナンバーズ』の中でも、シングルナンバー(No.4)を与えられている実力者なのである。

 そして、結唯が八歳の頃、一人で生きていく事を余儀無くされた彼を拾い、家族同然に面倒をみてくれた恩人でもあった。


「それにしても、少し見ない間にまた一段と強くなったね、結唯くん」

 しばらくの間を空けて、再び倖斗は話し始めた。

「あの五人は、個々の強さなら春名家の中でも中の上くらいだけど、五人揃っての任務成功率はほぼ百パーセントだったのに」

 そう言った倖斗の顔は、どこか満足げといった感じだった。

「…嬉しそうですね」

「もちろん。

 君は僕の大切な友人なんだから」

 尚も柔らかな笑顔で答える倖斗。

 だが、結唯の表情は対照的だった。

「…そう思って貰えるのは光栄です。

 でも、自分は…ただの人殺しです。

 春名さんの友人である資格なんてありませんよ」

 俯き気味で言った結唯の言葉に、倖斗は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「…その仕事を君に頼んでいるのも僕なんだけどね…。」

 重くなってしまった空気のまま、しばらく無言の状態が続いた。


「それで、今日はどんな御用ですか?

 まさか本当に、俺の様子を見に来ただけという訳ではないんでしょう?」

 沈黙を破ったのは結唯の方だった。

 それを聞いて、倖斗は思い出したように傍に置いていた茶封筒を手に取ると、結唯の前に差し出した。

 情報通信手段が発達した現代で、印刷物を使うのは珍しいと言える。

 少し不思議に思いながら、結唯は茶封筒の中身を確認した。

 中に入っていたのは、とある学校のパンフレットのようだった。


 ――私立西桜学園せいおうがくえん

 倖斗が理事長を務める、日本で、いや世界でもトップクラスの魔法学校だ。


「これは?」

 いまいち意図が理解出来ず、結唯は倖斗に説明を求めた。

「実はね、結唯くんにここに転校してもらおうと思ってるんだ。

 もう新しい家も用意してあるから、明日にでも引っ越して貰えるかな?」

 返って来たのは実に簡単な説明だった。

「きっと結唯くんも楽しんでくれると思うよ」

 意外な言葉に唖然としている結唯を尻目に、倖斗は爽やかな笑顔で話しを進めた。

お読み頂きまして有り難う御座います。


意外と早く投稿でき、作者自身も安心しております。


次回では、ようやく物語のメインステージとなる学園・街へと移動します。


なるべく早く投稿出来るよう心掛けますので、これからも宜しくお願い致します。

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