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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
ブラッドハウンド
6/51

 そして火曜日。


「粋、このあとPlusの打ち合わせだろ?

店ん中の事はなるべく俺がやるから、粋はそれに集中していいよ」


「ほんとにっ?ありがと~」

うわー、なんて優しいの翔くんっ。


「いやそこは甘やかしちゃダメでしょ」


「え、でも振り出しとかあんまりだし」


 わわ、副店に楯突いてまでっ。


「いーのいーのっ、あたしなら大丈夫だからその優しさだけもらっとく」

やっぱ翔くんに迷惑かけたくないしね。


「え、翔くん優し~」

「いーな、私もここでバイトした~い」


 おっと、ファンのお客様から嫉妬を買っちゃう。

でもほんと、一緒に働けて幸せだから頑張るぞ!



 そうして。

「あの白濱さんっ。

一応フローズンカクテルはピックアップしたんですけど。

他にトロピカルカクテルとアイスカクテルも、オシャレでこの時期ぴったりですよっ?

SNS映えもするし」


 あたしもちゃんと女性目線考えました!


「そうなんですか?

じゃあ特に見映えがいいものを1杯ずつ作ってもらえますか?」


 トロピカルカクテルとは……

クラッシュアイスを敷き詰めたゴブレットグラスに注いで、フルーツや花を派手にデコレーションしたフルーティなカクテル。


 そしてうちの店のアイスカクテルとは……

お酒の材料とクラッシュアイスとアイスクリームをブレンダーにかけて、それにチョコソースや生クリーム・フルーツなんかをデコレーションした甘いカクテル。


「どっちもすごくいいです。

これも今回の企画に加えましょう」


 わーい白濱さんに褒められたっ。

カクテルがだけど。


「すみませーん!」

「はーい、すぐお伺いしまーす」


 そしてあたしが店内業務にあたってる間、白濱さんはそれらの写真を撮っていて……


 打ち合わせに戻ると、新たな企画内容が告げられた。


「今回はシンプルに、ビジュアル戦略で行こうと思います」


 それは涼感カクテルフェスと称して、目を惹くカクテルを並べるといったもの。


「そこで松本さんの案を応用して、スタンプラリーをしたいと思います」


「スタンプラリー!?」


 本来はひんやりフローズンフェアと称して、それを8杯飲んだら~といった設定にするつもりだったらしいけど。

あたしが他のカクテルも提案した事で。

フローズン・トロピカル・アイスのカクテルをそれぞれ3杯制覇したら、お好きなフードを1品サービスといった設定に変えたそうだ。

もちろんお好きなフードは、例のごとくそれ専用のメニューで。


「松本さんのおかげで、よりいい形になったと思います」


「マジっすか!」

おっしゃ今度こそあたしが褒められたっ。


「それで、期限は発行から1ヶ月にしたいと思います」


「1ヶ月!

短くないすかっ?」


「フェスなので、その集客をピンポイントで狙います。

それに、魅力的なお店は沢山あるんで、長く期間を与えれば財布の肥やしになるだけです」


「確かに……」

なってます。そして気付けば期限切れになってますっ。


「ちなみにフェスタイトルは、他にいいものがあれば変えても構いません」


「えっ……

今はちょっと思いつかないんで、あとで店長にも聞いてみます」


「ありがとうございまーす」

その時カクテルを作ってた店長が、お会計のお客様に声掛ける。


 翔くんは提供中だったから、当然あたしがレジ業務にあたって……


 白濱さんの所に戻ると。

今度はピックアップしたフローズンカクテルから、特に見映えがいいものを一杯頼まれる。


「これも写真撮るんですか?」


「はい。あとトロピカルとアイスのカクテルも、ピックアップしてもらったのは全部撮ります。

でも1人じゃ飲み切れないんで、週末に誰か連れてまた来ます」


「え、無理に飲まなくていいですよっ?」


 とっさにさっき作ったカクテルに目を向けると、いつのまにか2杯とも(から)になってた。


「いえ、作ってもらったからにはいただきます」


「や、でも企画のために作ったものだし、飲んじゃうと料金も発生するかもしれないし」


「それは別に構いません。そのつもりだったし……

まぁ、恩も売っときたいんで」


 サラッと腹黒発言!


「あはは~。

じゃあせめてノンアルに出来るものはそうしましょーか~?」


「え、そんな事出来るんですか?」


「出来ますよ~。

スピリッツを抜いたり、ノンアルリキュールで代用がきくものは」


「じゃあ、それで。

……助かります。

ありがとうございます」


 おっと急にしおらしい。

まぁ……

腹黒発言は、くっそ面白くない冗談かもしれないし。

クールでトゲトゲしたところはあるけど、真面目で不器用なだけかもしれないし。

1コしか変わらないのにこんなに色々とすごいのは、それだけ頑張ってるって事で……

実はけっこういい人なのかもしれない。


 そしてあたしは、そーゆう頑張ってる人に弱い。

そう、翔くんや初恋の人みたいに。


 そこで、伏目がちな白濱さんの長い睫毛が……

パッと上がって、バチっと目が合う。

その目にも弱いあたしは、不覚にもドキッとしてしまう。


「……あの」


「はい、なんですかっ?」


「こっちのセリフです。

人の顔ばっか見てないで、早くカクテル作って下さい」


 はいはいはいはいすみませんねえ!


 それから白濱さんは、ノンアルとそれがムリなものを1杯ずつ飲んで帰っていった。




「うん、いんじゃないか?」


 その日店長に企画を話すと、あっさりOKが出た。


「ほんとですか!?

じゃあピックアップしたカクテルも、これでいっすかっ?」


「どれどれ~?

うん、うん……

でもあれだな、その企画にするからには電動クラッシャーを買わなきゃな」


「っ、マジっすか!」


 ありがとう白濱さん!

これも企画変更のおかげです。

メンタルクラッシャーとか思ってすみません、あなたさまは電動クラッシャーの方でしたっ。


 だけどそれを買ってもらえるからじゃなく、改めて思う。

今回の企画変更のように……

ニーズを鋭く嗅ぎ分けた白濱さんは、まさに犬の中で一番嗅覚が優れてるブラッドハウンドだと。


 さっそくそのワンちゃんに、企画が通った事を報告したかったけど……

深夜だったから、次の日に電話した。



「涼感カクテルフェス、店長のOKが出ましたよっ」


「よかったです。

フェスタイトルもそれでOKでしたか?」


「はいっ、それでお願いします」


 あのあと2人で考えてみたけど……

サマーカクテルカーニバルとか、納涼カクテル祭りくらいしか出てこなかったとゆう。


「それと白濱さんっ、ありがとうございます!」


「……は?何がですか?」


「はい、この企画のおかげで電動クラッシャーを買ってもらえる事になったんですっ」


 すると電話の向こうから小さく吹き出す声が聞こえた。


「よかったですね。

僕も松本さんに恩が売れてよかったです」


「はいっ?」

今なんて言いましたあ!?


「なので、スタンプラリーのカードはうちに発注いただけると助かります」


 他の営業に繋げやがったー!


「あはは~、あたしの判断じゃちょっと~」


「ですよね。

では特典のメニュー表はサービスで作成するんで、カードの方の斡旋だけお願いします」


「はは、頑張りまぁす……」

抜かりないワンコめ~。


 だけど。

小さく吹き出してた白濱さんは、懐かない犬が一瞬懐いてくれたみたいで……

なんだかちょっと嬉しかった。



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