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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
溺愛カクテル
50/51

 うそ……

もういいって、フラれたって事?

いや、当然だよね。

いくら誤解でも、悠世くんにこんな惨めな思いさせて。

あんな辛そうな顔させてっ……

ぶわっと涙が溢れ出す。


 何やってんのあたしっ……

もう傷付けたくなかったのに。

頑張るって決めたのに。

呑気に甘えてないで、さっさと付き合ってるって公表してれば、こんな事にはならなかったのに!

むしろ、さっきカミングアウトすればすむ話だったのにっ。


 きっと言い分を聞こうともしてくれなかったのは……

いくら思い付かなかったからって、あんな場面でもカミングアウトしなかったあたしに。

恥ずかしいにもほどがあるだろって、愛想つかしたのかもしれないし。


 今まで言えなかったのも、今言わないのも。

翔くんに未練があるからだろって、あたしが信じられなくなったのかもしれないし。

見たものや聞いた事から……

翔くんに乗り換えたんだと判断して、言い訳なんか聞きたくないって思ったのかもしれない。


 なんにしても、どれだけショックだっただろう!

ごめんね悠世くん……

もう謝っても謝りきれないよっ。



「粋、あいつの事……」

後ろから翔くんが、切なげに声かける。


 その続きが何かわかったあたしは、大きくコクンと頷いた。


「ごめん翔くん……

あたし、悠世くんが好きなの。

もう悠世くん以外、考えられないのっ……」


 今さら口にしたって遅いけど。

それを1番に伝える相手が違うけど。

もう恥ずかしいとか逃げてらんないし、ちゃんと言わずにはいられなかった。


「やっぱそーだよな……

ごめん、わかってて邪魔した。

そしたら俺にもチャンスあるかなって。

けど、粋の事そんな泣かせるとか思わなくて……

ほんとにごめん」


「ううん、翔くんのせいじゃない。

あたしが自分でダメにしたんだよ」


 ほんの数時間前の、あの幸せそうな笑顔も幸せも……

また自分で壊してしまった。


「……そーゆう、人を責めないとこも優しいとこも、ほんとにすげぇ好きだった。

俺、粋が吹っ切れるまでいくらでも待つけど……

どーしてもダメ?」


「……ごめん。

あたしはそんないい人間じゃないし。

翔くんとはこれからも、いい仕事仲間でいたい」


「……わかった。

てゆうしかないよな。

いい仕事仲間でいる自信ないけど……

邪魔したお詫びに、頑張ってみるよ」


「……ありがとう、翔くん」


 こんなあたしを好きになってくれて。

勝手な要望に応えようとしてくれて。

そして……

そんなふうに、諦めない姿勢を教えてくれてありがとう。


 そうだよ、フラれたからってなに?

だからって諦められるわけがない。

また傷付けちゃうのは嫌だけど。

それでも何度だって、今度こそ傷付けないように頑張りたい。

なにより、まずはちゃんと謝りたい。


 だけど携帯を失くしてるぽいし、さすがに今日は遅い時間すぎるから。

いつどう謝ろうかと、頭を悩ませながらチャリ置場に向かってると。

そこを目前にした、ひと気のない脇道に入ったところで……


「浮気者」

その言葉と同時に、本日2度目のバックハグをくらう。


 思わずビクッと、心臓が飛び出すんじゃないかってくらい恐怖したものの。

その声はよく知ってる大好きな……


「悠せっ」

振り向いた途端、頬に手を添えられて唇が塞がれた。


 そしてグイと侵すように入って来た舌に、瞬時に身体が溶かされる。

だけど外だからか、すぐに解放されて。


「……なんで、いるのっ?」

あたしフラれたんじゃなかったのっ?


 少し息を切らしながら、切なげに見つめる悠世くんに……

涙ぐみながら問いかける。


「や、今日終わるの遅かっただろ?

いつもんとこで車停めて待ってたら、近くの飲み屋に怒られてさっ。

急いで駐車場に停めに行ってたんだけど、ちょうど粋が帰ってたから走って追っかけてきたんだ」


「えっ、今日迎えに来るなんて一言もっ……」


「うん、疲れてたから仮眠取って起きれるか自信なかったし。

そんな状態じゃ、心配して断われると思ったから言わなかったんだけど。

起きたのギリギリだったから、慌てて携帯持って来るの忘れてさ」


「え、失くしたんじゃなかったのっ?」


「うん、取りに帰ってすれ違ったら困るから、そのまま待ってたんだけど。

なかなか来なかったから心配で、失くしたって口実で様子見に行ったんだ。

それなら携帯がないって事も間接的に伝えられると思ったし」


「なるほど……」

って。

あまりにいつも通りな悠世くんに流されたけど、そうじゃなくて!


「それよりっ、さっきはごめんなさい!」


「や、別にっ……

浮気者って言ったのは、妬きもちで言っただけだしっ」


「いやそれ以前にっ、怒ってないの?」


「なんで?

告られたんだろうけど、ちゃんと断ったんだろ?」


「うん、そーだけど……

なにも疑ってないの?」


「まぁあんな場面見た瞬間は、こんな時間まで2人で残って何してんだよって思ったけど……

でも今度こそ、粋の気持ちを信じ抜くって約束しただろ?」


 そう言われて、ぎゅっと胸が締め付けられる。


「もう、フラれたのかと思ったよっ……」


「はっ?

いや振るわけないだろっ。

誰にも渡さないし、絶対手離す気ないって言ったよな?」


 うっわ嬉し!

嬉しすぎるけどっ……


「だって、もういーからって怒ってたじゃんっ」


「あぁ、あれは……

もう無理しなくていーからって言いたかったんだけど、エレベーター閉まるから短縮してしまって」


「いや、無理しなくていいってどーゆう……」


「だから、俺との事バレるの恥ずかしいだろ?

無理して弁解しなくてもわかってるから、って意味だったんだけど」


 その瞬間、ぶわっと涙が溢れ出す。


 あたしはまた悠世くんを傷付けたのに。

あんな惨めな思いをさせたのにっ。

悠世くんは、カミングアウトしなかったあたしに愛想つかすどころか。

言い分も聞かずに足早に帰ったのは、あたしに恥ずかしい思いをさせないためで……


「ごめん……

我慢させてばっかで、ほんとにごめんっ。

あたしがもっと早く話してれば、そんな思いさせずに済んだのにっ……」


「なんでだよっ。

俺が全部受け止めたいだけなんだから、甘えとけばいんだって。

それに俺も、いきなり抱きついて怖がらせたと思うし。

これでおあいこな?」


「もおっ、なんでそんなに優しいのっ?」


「別に優しくないって。

内心嫉妬だらけだし。

あいつには、俺の女に触ってんなよってめちゃくちゃブチ切れてるし」


 俺の女!

うわーうわあ、それヤバいっ。

てゆうかブチ切れてたのっ?


「そ、そーなんだっ……

あの時は冷静そうだったのに」


「当たり前だろ?

粋の大事な仕事仲間にキレる訳にはいかないし。

粋の仕事ぶり見てたら、あの店が大好きなのが伝わってくるし。

だから俺も、その大好きな場所を大事にしたいんだ」


 この人はどこまで……

どこまであたしの事ばっかなんだろう!

自分はどんなに傷付いても、惨めでも辛くても……

どこまで大事にしてくれるんだろうっ。


「ううっ……」

どうしょうもなく想いが溢れて、涙が後から後から溢れ出す。


 だけどもう涙じゃ間に合わなくて。

膨らみすぎた気持ちは爆発しそうで。

恥ずかしさなんか吹き飛ばすくらい膨大で……

もう口から飛び出さずにはいられない。


 そんなあたしを、ぎゅっと抱きしめてくれた悠世くんに……

あたしもぎゅううと抱きついた。


「好き……

悠世くんが大好きっ。

もう好きすぎて限界だよっ!」

ずっと伝えられなかったその言葉を、涙ながらにぶつけると。


 悠世くんは一瞬固まって……

すぐに痛いくらい、その腕に締め付けられる。


「ヤバい俺、死にそうなくらい胸が痛いっ……

なんだよその破壊力」


 いやあたしの身体も破壊されそうっ。

だけどハッとした様子で「ごめんっ」と腕を解かれて。

覗き込んできた吸い込まれそうな目にパチリと捕まる。


 ドキッとして、好きの告白が今さら恥ずかしくなったあたしは思わず俯く。

うわ顔熱っ。

絶対真っ赤だ、暗くても恥ずかしい!


 するとそれを隠すように、今度は優しく抱き包まれて……


「ん、俺も限界……

粋、愛してる」


 愛しくてたまらなそうに、その顔があたしの頭に擦り付けられる。


 愛っ!?

いやいやいやいや、ええっ!?

うそなにそれ、どーしよう!!

もう身悶えするほど、感激で愛しすぎて……


 あたしたちは寒空の下。

お互いの想いを噛み締めるように、しばらくぎゅうっと抱き合ってた。



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