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「じゃあセット内容は、1ドリンク&プレートに3品チョイスでいいですか?」
「はい、ただ価格はもうちょっと上げれません?
手間と利益が合わないような……」
2人であーだこーだ議論して……
「気軽に立ち寄れたり、行きたいと思わせるには、これがギリギリだと思います。
なのでチョイスするフードやドリンクを工夫して、手間やコストを抑えたり、追加オーダーを狙って下さい」
「なるほど」
あたしの意見はあっけなく砕かれる。
「余裕があれば、食べ終わる頃に一声かけて販促するのも効果的だと思います」
「反則っ?
え、それはどーいった感じで……
なんか裏技的なものがあるんですか?」
「それは新井さんを参考にして下さい」
店長っ?がそんな事してたっけ……
キョトンとするあたしに、近くにいた店長が一言。
「松本、販売促進な」
ぐはあ!そっちの販促……
くっそ恥ずかしんすけどっ。
「あ、あはは~」
チラと白濱さんに視線を向けると。
はいっ、呆れた顔でため息をひとついただきましたー。
なんかもう、メンタルがまじでガリガリ砕かれる。
けど、確かに店長は……
〈美味しいスイーツもあるんで、良かったらどうぞ~。
あ、オススメはねぇ〉
と、食後のお客様にフレンドリーに話しかけたり。
グラスが空いたお客様には……
〈あ、同じの作りましょーか?
それとも冒険しちゃいます?
好みのテイストを言ってくれたら、腕によりをかけて作りますよ~〉
そうやっていつも積極的にプロモーションしてる。
白濱さんはちゃんとそんなとこもチェックしてたんだなぁ……
いやほんとやり手だわ、優秀。
「あの、聞いてますか?」
「あぁはいっ、すみません」
いや聞いてなーい!
こーなったらせめて足引っ張んないよーに頑張んなきゃ。
そうして、今度は夜カフェのチョイスメニューを決めていく。
本日のパスタやピザ、定番のから揚げやポテト、そしてサラダやデザートは当然加えて。
あとは……
「手間やコストがかかんないものでいんですよね?」
「はい、ただ目玉となるメニューもいくつか必要です。
女性客を狙うなら、それなりに魅力的な内容にしないと」
「でも週末はほんっとに忙しんです。
夜カフェセットでお客様が増えても、対応がおろそかになったら意味ないですっ」
それで既存のお客様にまで迷惑かけたら元も子もない。
「じゃあ夜カフェセットは平日限定にしましょう」
「えっ、あぁ!なるほどっ」
それなら平日の集客だけピンポイントで狙える。
柔軟に機転が利くなぁ……
「なんか、さすがです白濱さん」
「いえ、まだ週末に来店出来てなかったんで僕のミスです。
状況も把握せずにすみません」
意外に素直っ。
なんだか可愛く見えてきた。
「でもこれでメニューは攻めれますよね?」
「え」
「まず女性に1番人気のアボガド料理は絶対入れましょう。
サラダは数種類あった方がいいと思うんで、それでも構いません」
「あぁ、」
「あとカプレーゼやアヒージョも女性ウケがいいので入れたいところです」
「いやアヒージョはうちのメニューにないんで」
「夜カフェでしか食べれないメニューがあるのも特別感があっていいと思います。
ココットやグラスに入れてプレートに乗せれば、少ない量でコストも抑えられるしオシャレです」
「なるほど」
じゃなくてまてまてまてまて!
「それと、」
「あの白濱さん!
そっち目線ばっかで話を進めないでくださいっ」
「すみません、ついて来れませんでした?
でも僕目線じゃなく女性目線での話をしてたつもりです。
むしろ松本さんは、もう少し女性目線になってもらえると助かります」
こんっの男わ~!
可愛くないっ、やっぱ全然可愛くないっ。
でも……
女性目線で話を進めるためにこの役目を任されたのに、情けない。
「ではこのメニューでコストを割り出して、新井さんのOKが出たらサンプルを作って下さい。
その時に写真も撮りたいんで、盛り付けはオシャレで鮮やかにお願いします」
「はい、了解です……」
まさに身を砕いた打ち合わせが終わって、疲れがどっと押し寄せる。
「あ、じゃあフローズンカクテル作りますね。
どれがいいですか?」
「いえ、お疲れのようなので次回いただきます」
「いーえぜんっぜん余裕ですっ。
どれにしますっ?」
役に立たなかった分、これくらいはさせてください~。
「……じゃあ、オススメのもので」
またオススメっ?
この前はさっぱり甘口だったから、今回は……
そこでふと、今日副店と話した好きなキャラクターの犬種が浮かぶ。
さっそくジンベースのその材料と、クラッシュアイスをブレンダーにかけて……
「どうぞっ、ブラッドハウンドです」
まるでその犬みたいに、あなたはお客様を捕まえる優秀な猟犬です。
なーんて。
「……すごく、可愛いらしいですね」
「ですよね~」
苺が飾られたそのキュートな赤いカクテルは、クールな白濱さんに似合わなくて。
思わず笑ってしまいそうになる。
「どうですか?」
ひと口飲んで固まってるその人に尋ねると。
「……すみません」
まさかのお口に合わなかったっすかー!
「今回、これでいっていいですか?」
「はい?」
次に白濱さんから発せられた内容は……
なんと、この期に及んで企画を変更したいとゆう!
ええー!
さっきまでの打ち合わせは何だったのっ?
「じゃあ夜カフェセットはどーなるんですかっ?」
「それは他の月にさせて下さい。
今回は7月号に載るんで、このフローズンカクテルをプロモーションするのが最適です」
キリッと冷たいシャリシャリ食感と、爽やかで華やかな見た目は、涼を誘って夏の雰囲気を盛り上げて……
この時期に売り出さない手はないそうだ。
「読者の興味を大いに惹くと思いますし、女性ウケもいいと思います」
「まぁ、確かに」
それから白濱さんはブラッドハウンドを飲み干して。
「では、新たなプランを打ち出してまた来ます。
松本さんは、オシャレで見映えがいいものをピックアップしといて下さい」
そう言い残して帰って行った。
「話はまとまった感じか~?」
「いえなんか、ふりだしに戻った感じです」
「ふりだし!
それはそれは……
まぁでも、色々と勉強になるだろ~?」
「ですね、おかげでメンタル粉々っす」
もはやあの男はあたしのメンタルクラッシャーだ。
でも、そのひらめきや臨機応変さや潔さは素晴らしいと思う。
いいですともいいですとも!
うちの店の利益になるなら、とことんお付き合いさせていただきますっ。