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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
シンデレラ
43/51

 その途端、ぐっと悠世くんの腕の中に取り込まれる。


 え、ええっ!?

うわーうわあ!悠世くんに抱きしめられてる!!

あまりに感激で、恥ずかしさも忘れて身悶える。


「嘘だろ……

ほんとにっ?」


 コクンコクンと言葉にならず頷くと。

さらにぎゅっとされて、あたしの胸までぎゅうっと潰される。


「なんだよそれ……

あーもなんだよそれっ!

ヤバい、すげぇ嬉しい。

どーしようすげぇ嬉しいっ」

その腕に痛いくらい力がこもって。


 また込み上げてきたあたしも、同じ気持ちでしがみついた。


「大事にする。

俺、めちゃくちゃ大事にするからっ……

俺だけのものになってくれる?」


 こんなに大好きな人から、そんな事言われたら……

苦しいくらい感極まって、また泣けてくる。


「そんなの、こっちのセリフだよっ。

だけど、いいのっ?

あたし気持ちの比重、たぶん重いよっ?」


 すると耳元を、悠世くんのすっごく嬉しそうな笑声がくすぐる。


「むしろ大歓迎だしっ。

俺も粋には、ヤバいくらい重いし。

絶対手離す気ないから」


 うわああ!もう嬉しすぎて幸せすぎてどうにかなりそうっ……



 それから、あたしの仕事の時間まで……

悠世くんちに移動して、お互いの誤解なんかを解き合った。


「いや、すずに恋愛感情はないって言っただろっ?

なんで付き合ってるって思うんだよ。

やっぱり完全に縁切ろうって話してただけだし」


 そういえば話ついたって言ってたけど……


「それで納得してくれたの?」

あんなに想われてたのにっ?


「……ん。

すずの気持ちは、俺が粋に抱いてた気持ちと同じだったから……

俺も、会えるだけでいいって思ってたから……

それを拒まれたくない俺が、拒む事なんて出来なかったんだけど。


粋とあんなふうに終わって、俺もう人の事どころじゃなくなってさっ。

もう好きな人の事しか考えられなくて、他の人の気持ちまで思い遣る余裕なんかないって言い切ったら、すずの方がそんな俺を気遣ってくれて……

ちゃんと、納得してもらったから」


「うっ、そんないいコなのに……」

なんであたしをっ?

なんだかめっさ申し訳ない……


「うん、いいコだけど……

重くていいのは、粋だけだから」


 だからなんでっ!?

すずちゃんさんに勝ってるとこも、好きになってもらえる要素も1つもないのにっ。


「その割にはっ……

すずちゃんさんの事はあーんな優しげに呼び捨てなのに、あたしの事はずっと松本さんだったけど」


「その頃はっ……

振られた立場だから、呼び捨てしにくくて。

あと、ぶっちゃけそーやって一線引いてたりも」


 うそ、悠世くんの中ではフラれた事になってんの!?

あたし何様っ……

てゆうか、やっぱり一線引いて壁作ってたんだ。


「ついでに、この際全部カミングアウトすると。

最初の頃は、わざと嫌な態度取ったりもしてた」


「そーなのぉ!?」

いや確かにやたら手厳しかったけど、あれわざとだったんだ!


「ごめん!でもほんとに怒ってたからじゃなくてっ……

そーでもしないと、相変わらず思わせぶりだし、また好きになりそうで怖くて……

あと、勝手に嫉妬してついとか」


 ああなんか色々ごめんなさいっ。


「でも結局。

距離置こうとしても、足が向いてしまうし。

逆にグイグイ距離縮められても、内心嬉しかったし。

心をガシャガシャ掻き混ぜられんのも、楽しかったし。

10年前の本音を聞いてからは尚更、やっぱり好きだなって」


 いやそれぞれの前置き!

ぜんぜん好きになってもらえる要素に思えないんだけどっ。

それどころか。


「でもあたしと付き合うのは絶対無理って言ってたよねぇ!?」


「いやそれは粋がそう言ったから、空気読んで合わせただけだし。

すぐにクライアントは無理って言い直したはずだけど」


「え……

ショックで覚えてないけど、そーだっけ?」


「そーだよ。

つか俺もショックだったし……

でも前に話した赤尾さんの言葉を思い出して。

勝算なんか微塵もなくても、俺は好きだから。

だったら好きになってもらえるように頑張ろうって、そっからガンガン攻めてみたんだ」


「じゃああの思わせぶりな牛っ……

じゃなくて態度はそれだったのっ!?」


「うし?

つか思わせぶりって……

粋のが、拗ねたりとかほんっと思わせぶりだったし」


 はい人の事言えないですすみませんっ。


「なのに俺が見つめても、なんかあった?くらいにしか思われない状態だったから。

とにかく意識してもらいたくて、必死にアピールしてたつもりなんだけど……

全然気持ち通じてなかったんだ?」


「いや、ははは〜……

だってあたしなんかのために、そんな頑張ってくれてたなんて」


「だから粋は自己評価が低すぎなんだって。

俺、粋のいいとことか好きなとこならいくらでも語れるし」


 そーなのっ?

てゆうかそんなにある!?


「でも理屈抜きに、俺の心に入るのは粋だけなんだと思う。

こんな好きで好きで、めちゃくちゃハマんのも粋だけだし。

もう抜け出せないし、いくらでも頑張りたいんだ」


 もおっ、また泣かせる……

だけどきっと、あたしもそうなんだと思った。


 恋愛する資格がないと思ってきたあたしは……

こーいった職場で親しく関わって、助け合う関係が続かない限り、ちゃんと誰も好きにならなかったし。


 そんな状況下で心動かされて、好きになってしまっても。

京太くんの吸い込まそうな目だったり、翔くんの頑張る姿だったり。

結局は悠世くんの面影を引きずってて……

きっと、ずっと忘れられなかったんだろう。


 そう気づいて、いっそう涙が溢れ出すと……

悠世くんに抱き寄せられて。

愛しそうに、ぎゅっとぎゅうっと包まれる。

ああもうっ、胸が壊れそうなくらい大好きだよ!


 そんな壊れそうな、まるでガラスのハートに……

余すとこなくぴったり入るのは、悠世くんだけで。

そしてトラウマってヒビがある、悠世くんのガラスのハートに……

理屈ぬきでストンと入るのは、あたしだけで。


こんなミラクルはもう、魔法使いの仕業に違いなくて……

ほんとにシンデレラになった気分だった。



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