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その途端、ぐっと悠世くんの腕の中に取り込まれる。
え、ええっ!?
うわーうわあ!悠世くんに抱きしめられてる!!
あまりに感激で、恥ずかしさも忘れて身悶える。
「嘘だろ……
ほんとにっ?」
コクンコクンと言葉にならず頷くと。
さらにぎゅっとされて、あたしの胸までぎゅうっと潰される。
「なんだよそれ……
あーもなんだよそれっ!
ヤバい、すげぇ嬉しい。
どーしようすげぇ嬉しいっ」
その腕に痛いくらい力がこもって。
また込み上げてきたあたしも、同じ気持ちでしがみついた。
「大事にする。
俺、めちゃくちゃ大事にするからっ……
俺だけのものになってくれる?」
こんなに大好きな人から、そんな事言われたら……
苦しいくらい感極まって、また泣けてくる。
「そんなの、こっちのセリフだよっ。
だけど、いいのっ?
あたし気持ちの比重、たぶん重いよっ?」
すると耳元を、悠世くんのすっごく嬉しそうな笑声がくすぐる。
「むしろ大歓迎だしっ。
俺も粋には、ヤバいくらい重いし。
絶対手離す気ないから」
うわああ!もう嬉しすぎて幸せすぎてどうにかなりそうっ……
それから、あたしの仕事の時間まで……
悠世くんちに移動して、お互いの誤解なんかを解き合った。
「いや、すずに恋愛感情はないって言っただろっ?
なんで付き合ってるって思うんだよ。
やっぱり完全に縁切ろうって話してただけだし」
そういえば話ついたって言ってたけど……
「それで納得してくれたの?」
あんなに想われてたのにっ?
「……ん。
すずの気持ちは、俺が粋に抱いてた気持ちと同じだったから……
俺も、会えるだけでいいって思ってたから……
それを拒まれたくない俺が、拒む事なんて出来なかったんだけど。
粋とあんなふうに終わって、俺もう人の事どころじゃなくなってさっ。
もう好きな人の事しか考えられなくて、他の人の気持ちまで思い遣る余裕なんかないって言い切ったら、すずの方がそんな俺を気遣ってくれて……
ちゃんと、納得してもらったから」
「うっ、そんないいコなのに……」
なんであたしをっ?
なんだかめっさ申し訳ない……
「うん、いいコだけど……
重くていいのは、粋だけだから」
だからなんでっ!?
すずちゃんさんに勝ってるとこも、好きになってもらえる要素も1つもないのにっ。
「その割にはっ……
すずちゃんさんの事はあーんな優しげに呼び捨てなのに、あたしの事はずっと松本さんだったけど」
「その頃はっ……
振られた立場だから、呼び捨てしにくくて。
あと、ぶっちゃけそーやって一線引いてたりも」
うそ、悠世くんの中ではフラれた事になってんの!?
あたし何様っ……
てゆうか、やっぱり一線引いて壁作ってたんだ。
「ついでに、この際全部カミングアウトすると。
最初の頃は、わざと嫌な態度取ったりもしてた」
「そーなのぉ!?」
いや確かにやたら手厳しかったけど、あれわざとだったんだ!
「ごめん!でもほんとに怒ってたからじゃなくてっ……
そーでもしないと、相変わらず思わせぶりだし、また好きになりそうで怖くて……
あと、勝手に嫉妬してついとか」
ああなんか色々ごめんなさいっ。
「でも結局。
距離置こうとしても、足が向いてしまうし。
逆にグイグイ距離縮められても、内心嬉しかったし。
心をガシャガシャ掻き混ぜられんのも、楽しかったし。
10年前の本音を聞いてからは尚更、やっぱり好きだなって」
いやそれぞれの前置き!
ぜんぜん好きになってもらえる要素に思えないんだけどっ。
それどころか。
「でもあたしと付き合うのは絶対無理って言ってたよねぇ!?」
「いやそれは粋がそう言ったから、空気読んで合わせただけだし。
すぐにクライアントは無理って言い直したはずだけど」
「え……
ショックで覚えてないけど、そーだっけ?」
「そーだよ。
つか俺もショックだったし……
でも前に話した赤尾さんの言葉を思い出して。
勝算なんか微塵もなくても、俺は好きだから。
だったら好きになってもらえるように頑張ろうって、そっからガンガン攻めてみたんだ」
「じゃああの思わせぶりな牛っ……
じゃなくて態度はそれだったのっ!?」
「うし?
つか思わせぶりって……
粋のが、拗ねたりとかほんっと思わせぶりだったし」
はい人の事言えないですすみませんっ。
「なのに俺が見つめても、なんかあった?くらいにしか思われない状態だったから。
とにかく意識してもらいたくて、必死にアピールしてたつもりなんだけど……
全然気持ち通じてなかったんだ?」
「いや、ははは〜……
だってあたしなんかのために、そんな頑張ってくれてたなんて」
「だから粋は自己評価が低すぎなんだって。
俺、粋のいいとことか好きなとこならいくらでも語れるし」
そーなのっ?
てゆうかそんなにある!?
「でも理屈抜きに、俺の心に入るのは粋だけなんだと思う。
こんな好きで好きで、めちゃくちゃハマんのも粋だけだし。
もう抜け出せないし、いくらでも頑張りたいんだ」
もおっ、また泣かせる……
だけどきっと、あたしもそうなんだと思った。
恋愛する資格がないと思ってきたあたしは……
こーいった職場で親しく関わって、助け合う関係が続かない限り、ちゃんと誰も好きにならなかったし。
そんな状況下で心動かされて、好きになってしまっても。
京太くんの吸い込まそうな目だったり、翔くんの頑張る姿だったり。
結局は悠世くんの面影を引きずってて……
きっと、ずっと忘れられなかったんだろう。
そう気づいて、いっそう涙が溢れ出すと……
悠世くんに抱き寄せられて。
愛しそうに、ぎゅっとぎゅうっと包まれる。
ああもうっ、胸が壊れそうなくらい大好きだよ!
そんな壊れそうな、まるでガラスのハートに……
余すとこなくぴったり入るのは、悠世くんだけで。
そしてトラウマってヒビがある、悠世くんのガラスのハートに……
理屈ぬきでストンと入るのは、あたしだけで。
こんなミラクルはもう、魔法使いの仕業に違いなくて……
ほんとにシンデレラになった気分だった。




