4
それを隠すために俯いてたあたしは、男の人とぶつかってしまって。
「すみませんっ」
舌打ちするその人に振り返って謝ると。
とにかくトイレに避難しようと、急いでそれがある裏口の方に向かった。
だけどそれを目前にしたところで。
「粋っ!」
腕をグイと掴まれて。
振り向かされたあたしは、悠世くんの姿に心臓が止まる。
「なんでまた泣くんだよっ」
なんでって……
むしろそっちこそ、なんで追っかけてきてくれたの!?
すずちゃんさんはっ?
言葉にならずに、胸を締め付けられながら見つめると。
「や、俺のせいか……
あんな事したヤツと、会いたくなかったよな?
ほんとにごめん」
あんな事?
そうだキスしたんだ悠世くんと!
さよならがショックすぎてそれどころじゃなかったけど、今さらめっちゃ恥ずかしくなって俯いた。
「……ごめん。
合わせる顔なんかないし、関わらないって言ったのに。
粋にはほんと、嘘ついてばっかだけど……
泣いてるの見たら、自分の事棚上げでほっとけなくなって」
それで追っかけてくれたんだ……
「……ありがとう」
「はっ?いやお礼言うとこじゃないだろっ」
「え、違うのっ?
でも嬉しかったし……」
「嬉しいっ?
……だったら俺、付け入るよ?」
はいっ?
いや何に付け入る気ー!
そこで少し話せるか聞かれて、頷いたあたしは……
裏口前にあるベンチに誘導された。
「てゆうか、すずちゃんさんは大丈夫なのっ?」
「ん……
そっちはもう、話ついたから」
どんな話がっ?
でも揉めてるふうじゃなかったし、うまくはいってるんだろな……
胸の痛みに眉をひそめた。
「しつこくてごめん。
あと俺……
粋が昔の事でそんなに思い悩んでたなんて思わなくて。
だから気にするなって、無理矢理楽しくさせてしまって。
そのせいで、あんな泣き笑いさせるまで追い込んで……
辛かったよな、ほんとごめん」
「ううんそんなの全然っ」
「だから無理するなよ。
縁切ろうとするほど辛かったくせに」
「はいっ?あたしが!?
縁切ろうとしたのは悠世くんじゃん!」
「や、俺はっ……
あんな事して、もう会わせる顔ないと思ったし。
“こんなあたしと"って昔の事引きずってる感じで、あんなに泣きながら謝られたら……
俺といたらずっと罪悪感で苦しむのかなって思って」
え、それってあたしのためにっ?
それはそれで感動……
って重かったからじゃなかったの!?
「つかそれ以前に、粋が縁切ろうとするからだろっ?
そんなに辛いのかと思ったら、説得するわけにもいかなかったし」
「いやいやいやいや、だからあたしは縁切ろうとなんかしてないしっ」
「じゃあ今までありがとうとか、まるで最後みたいな事並べてなんだったんだよっ。
こっちはさよならって言わせないように必死だったってのに」
「あれはっ……
もう当分、もしかするとずっと、会えなくなるかと思って……」
「はっ?
なんでだよ」
「だって!
もう会う理由、ないし……」
すると沈黙が訪れて……
ほら、図星でなにも言えないじゃん。
あれ、でも今……
さよならって言わせないようにとか言ってなかった!?
そう胸が騒めいたところで。
「そっか、そーだよな……
けどごめん。
粋には会う理由がなくても、俺は会いたい」
いきなり思いっきり心臓を撃ち抜かれる。
うそ……
今なんてっ?
まさか悠世くんが、会いたい!?
うそどーしよう!
どうしよう嬉しすぎてっ……
暴れ狂ってる胸が、次の刹那トドメを刺される。
「勝手なのはわかってるし、もう辛い思いはさせたくないんだけど……
でもどうにもならないくらい粋の事が好きなんだ!」
はいいっ!?
え、ちょっと待って。
いやちょっと待って、ちょっと待って……
思考がショートして。
だけど心は無条件に溢れてきて……
涙がぼろぼろ、次から次へと零れ落ちた。
「……ごめん。
好きでもない相手からこんな思われても、困るって俺もよく分かってるんだけど……
でもあのまま、伝えないままじゃ諦め切れなくてっ」
待って、困るわけないっ。
そう言いたいのに、胸が壊れそうなくらい締め付けられて声にならない。
「いや伝えても諦められないと思うけど……
粋の心には平岡さんしかいないのも、俺が入る隙なんか微塵もないのも、ちゃんとわかってるからっ」
ちっがーう!
やっぱり周年祭で誤解といとくんだった……
「ただそれでも、ダメ元でぶつかりたかったんだ。
10年前から、一度も伝えられなかった想いだから……
もう後悔したくなくて」
その言葉に、胸が火傷しそうなくらい熱くなる。
「けどもう関わらないって言ったからっ……
無責任な言動が嫌いな俺が、また守らないわけにはいかなかったし。
会いたくて堪らなかったけどっ……
あんな事しといて、自分から近寄るわけにもいかなくて。
だからまたここに来ないかなって、あれからずっと入り浸ってたんだけど……」
それでそっこー会えたんだ。
「会釈で通り過ぎられて。
嫌われて当然な事したくせに、すげぇショックでさっ」
だってすずちゃんさんといたからっ……
ってじゃあなんで一緒にいたのっ?
「その分、嬉しかったって言われて俺の方が嬉しくて。
気持ちが抑え切れなくなって……
あっ、でも昔の事に付け込んだわけじゃないから、粋は遠慮なく断ってくれていーからっ」
いや待って待って、どこから訂正してけばいーのっ!?
「待って悠世くんっ、いったん落ち着いてっ?」
「いや落ち着けないだろっ。
告るの初めてだし、粋何も言わないから気まずいしっ」
うっ、確かに……
って告るの初めてなのっ?
そっか、モテるから告られる方か……
いやそれで初めてがあたし!?
嬉しい反面、なんだかすっごく申し訳ない……
「なんか色々と、ごめん。
でも悠世くん語ってたし、なかなか答えるタイミングが掴めなかったってゆうか」
「あぁ、そっか。
うわ俺、なに必死に言い訳じみた事語ってんだろ。
カッコ悪……」
「カッコいいよ!
気持ちを伝えるのって、すごく勇気がいる事だと思う。
なのにダメ元でも伝えようとするなんて、すごいと思う。
そうやって頑張れるのも必死になれるのも、ほんとにカッコいいよっ」
あたしには到底真似できない。
すると悠世くんは驚いた顔をして……
噛み締めるように、くはっと笑った。
「無理だ俺。
やっぱすげぇ好きだ、諦められない」
ぐっは!ここでまた殺し文句をっ……
「困らせたくはないけど、迷惑はかけないから……
せめて友達として、会えないかな」
もう、そんな切なげに自己完結しないでよっ。
「ヤだよそんなの!
あたしだって、同じ気持ちなのに……」
「……は?
同じ気持ち?」
「だからっ……」
頑張れあたし!
「とっくにあたしの心は、悠世くんでいっぱいだしっ……
悠世くんが入る隙しかないよ!」
あああ〜!今はこれが限界ですっ。
近くに人がいなくても、外だからハードル高いし急には無理だ〜。
と、悠世くんの言葉を訂正がてら引用。




