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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
シンデレラ
40/51

 だって、もうお別れなんだって実感が押し寄せて。

寂しさに襲われて、名残おしくて。

ますます切なくなるから。


「あ、寒いよなっ?

ちょっと待って、俺の上着羽織っとけよ」


「いや飲んでるからだいじょぶだし、悠世くんのが寒そうだから!」


 自分は部屋着に上着羽織っただけのくせして。

この寒空の中歩きでわざわざ送ってくれたり、心配してくれたり……

ねぇなんでそんな優しいのっ?


 こんな黒歴史なあたしを、いつだって助けてくれて守ってくれて……

もう好きで好きでたまらない。

一緒にいる時間が愛しくて。

苦しくなるくらい愛おしくて……

ヤバい、泣けてくる。


「つか、さっきから静かじゃん。

疲れた?」


「ん、少し……」


 違う泣きそうだからだよ。

ほんとはまだまだ話し足りないし、聞きたい事だって山ほどあるのに……


 例えばデートの事とか、すずちゃんさんとは会ってるの?とか。

でも俺とすずの問題だからって線引きされてるし、あたしは所詮部外者で……

うわ、ほんと泣くっ。


 なのにそれが収まらないうちに到着して、駐輪場にチャリが停められた。


「あの、ありがとうっ」

嫌だ離れたくない。


「送ってくれて、ありがとう……

すき焼き美味しかった、ありがとうっ……」


「……粋?」

震える声で俯くあたしを、怪訝そうに覗う悠世くん。


「今まで優しくしてくれてありがとうっ」

泣いちゃダメ!

泣いたら悠世くんを困らせる。


「はっ?今までって」


 震える唇を噛み締めて、必死に笑顔を貼り付けたけど……


「いっぱい助けてくれてありがとうっ。

こんなあたしと、いい相棒でいてくれてありがとうっ……」

涙が溢れて、泣き笑いになってしまう。


 当然悠世くんは、驚いた顔で困惑してて……


「ごめんねっ」

困らせてごめん。


「ほんとにごめんっ」

ダメだ涙が止まらない。


そこで悠世くんが「そんなに思いな」と言いかけて。


 そんなに重いならっ?


「ごめん!」

その先を聞くのが怖くて、遮るようにまた謝った。


 そして重いのが苦手な悠世くんに、これ以上迷惑をかけないように。

「じゃあ元っ、」

元気でね、って締めくくろうとした矢先。


 その言葉が悠世くんの唇に奪われた。



 一瞬何が起きたのかわからなくて。

だけど唇に伝う温もりと、力強く後頭部を包む手に……

心臓が一気に握り潰される!


 途端、悠世くんはハッとしたように離れて。


「ごめん!俺こそごめんっ。

襲わないって言ったのに、ほんとにごめん……

でもこれで、お互い様にして欲しい。

や、俺の方がめちゃくちゃタチ悪いけど。

これで昔の事は、ほんとにもう気にしなくていいし。

償えって言ったのも忘れて欲しい」


 それでキスを!?

そう思った次の瞬間。


「俺も、もう関わらないから……

だからもう無理しなくていいし」


 ズキリと心臓が貫かれる!


「今まで無理させてごめん。

酷い事して、本当にごめんっ」

最後にそう言い捨てて、立ち去ってく悠世くん。


 すぐにその背中は、角を曲がって見えなくなって……


 感情が爆発しそうになったあたしは、慌てて部屋に飛び込むと。

わああ!と堰を切って泣きじゃくった。


 うそもうほんとに会えないの!?

嫌だよ悠世くん……

もうすでに会いたいよ!

さっきまであんなに近くにいたのに。

唇にはまだその感触が残ってるのに。

会えないかもが、ほんとになるのっ?


 嫌だ会いたいよ、ずっとずっと一緒にいたいよっ。

酷くなんかないし、無理なんかしてないしっ。

いやしてても、悠世くんのためなら頑張るよ!


 だけど結局泣いてしまったし……

それじゃ重いんだよね?


 ごめん、でも好きだよ……

好きで好きでもうどうしようもないくらい、悠世くんが大好きだよっ!


 そんな張り裂けそうな思いで、しばらくわんわん泣きながら……

いっそ悠世くんを困らせるこの想いも、流れて軽くなればいいのにって思った。



 なのに朝起きたら瞼が腫れてて、逆に重みがプラスされてたとゆう。


 そして、そんな日でも仕事は普通に始まるし。

12月のイルミネーションはキラキラ輝いてるし。

目の前のカップル様はいちゃついてる。


「お前酔っ払ってるだろっ。

一旦ソフトドリンクにしといたら?」


「えぇ〜、バーに来てまでソフトドリンクっ?」


「あ、じゃあノンアルコールカクテルなんてどうですか?」


「それいいかも!

どんなのがありますかっ?」


 そうして、彼女さんが選んだノンアルカクテルのシンデレラを作り始めて……

昨日の今頃はシンデレラ気分で浮かれてたのにな、と連想して胸を痛める。


 そう、まさしく。

12時になって白馬の王子様とサヨナラしたシンデレラみたいに。

12月になって白濱の王子様とサヨナラしちゃうなんて……


 そんな例えで切なさを誤魔化しながら、パイン風味のシンデレラを出し終えると。



「なぁ粋、俺たちそろそろ結婚しないか?」


「はいっ?」


 あまりに突拍子もない京太くんの発言に、翔くんはグラスを落として、賀来さんはカクテルを吹き出した。


「いやいやいや、なんでいきなりそーなるのっ?」


「あぁごめん、妄想の中じゃそろそろその段階だから」


「いや危ないからそれっ」

お願いその世界から抜け出してー。


「京ちゃん気をしっかり!

いや粋ちゃん責任取らないとっ」


「いや京くんならもっといい女がいっぱいいるって!」


 あの、賀来さんも赤尾さんも何気に酷くないすか?


「じゃあ粋、婚約は解消しとくよ」

「いやそもそもしてないからねっ?」


 そうやっていじられてると……

さっきのお客様から次のオーダーが入る。


「シンデレラめちゃくちゃ美味しかったです!

でもやっぱアルコールが入ってなきゃ物足りないんで、つぎはマリブパインで」


 うっ、また切ないカクテルを……

まぁそもそも、カクテルとは混酒の事だから。

肝心のアルコールが入ってなければ、物足りないのも当然だ。



 そうして……

やたらと長く感じた仕事を終えて、ビル下に降りると。


「おつかれ、粋」

さっきまで飲んでた京太くんが、寒そうに立っていた。


「どしたの京太くんっ。

もうこんな時間だよっ?

明日も仕事でしょ?」


「うん、そーなんだけど……

粋と話したくて」


「だったら時間作ったのに……

風邪ひくよっ?」


「ははっ、粋は相変わらず優しいな。

でもわざわざ時間作ってもらう話じゃないし、今日話したかったから」


「じゃあさっきそう言ってくれればよかったのに」


「そしたら断ってただろ?

今日はそれどころじゃないって」


 うっ、なぜそれを……



 とりあえずあたしたちは、近くのコンビニのイートインに移動すると。


「粋はさ……

白濱さんの事が好きだろ?」

いきなり爆弾発言を食らう。


「えっ、なんでっ……」

そう濁しながらも、身体がぶわっと熱くなる。


「……わかるよ。

俺、一応元彼氏だからさ。

そのくせ肝心なとこだけ見失って、わかってあげられなかったけど……

粋の事見てきたから、その心が誰に向いてるのかはわかるよ。

図星だろ?」


 と言われても……

そういった気持ちを誰かに知られるのは、すごく恥ずかしいし抵抗がある。


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