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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
ブラッドハウンド
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そして日曜。


「粋ちゃんこれよろしく」

主に厨房を担当してる副店から、ブュッフェ用の大皿サラダを作るようレタスを渡される。


「え、マジっすか……」


 1度も成功した事ないその芯取りに、ためらいながらも数回チャレンジ。


「痛い~!やっぱムリですすみませんっ」


「え~本気で叩いてよ」


 レタスの芯は手で強く叩くと、ボコっと一瞬で取れる。

そこに親指を入れて割り開けば、大量のサラダもあっという間。

しかも包丁を入れないからピンクに傷みにくい。


「いや本気でやってるんすけど……」


「非力だな。

そんな可愛い子ぶられても……」


 ぶってませんがっ!

でも……


「じゃあこっちはいいから、ウェルカムドリンクよろしく」


 役立たず感ハンパない……


 もうすぐ結婚式の二次会が始まる。

うちの店の日曜はだいたいそれで埋まってて。

ジューンブライドの今月は、今日を筆頭に土日祝日の全てがそれで埋まってた。



「いいなぁ、結婚」

幸せいっぱいに笑い合ってる新郎新婦を前に、思わず漏れた一言。


「え、恋愛に興味ないくせに結婚願望はあるんだっ?」

料理をひと通り出し終えた副店から、もっともな突っ込みをくらう。


「えっ、いや……

あまりにも縁遠い世界だから憧れる的な?」


「憧れるねぇ。

そんないいもんじゃないよ?結婚なんて」


「え、奥さんと何かあったんすか?」


「何もないけどさー。俺なんかただの忠実な愛犬だよ。

そう、粋ちゃんの好きなキャラクターみたいな?」


 この世界的に人気なマウスの愛犬と一緒にしないでー。

まぁ見た目は似てるけど。


「このコ、こー見えても猟犬なんですよっ?」

ケータイをサロンのポケットから取り出して、そのカバーの黄色いワンちゃんをひけらかす。


「何度も聞いた。だから俺も同じだって。

愛する嫁さんのために、せっせとお金を捕ってくるだけの猟犬なんだよ」


「切ないっすね……」


「まっ、好きな人と一緒に居られるだけで幸せなんだけどね〜」


 結局ノロケかい!




 そうして、二次会とその片付けが終わると……


「一気に暇だな~」


「ですね店長」


 だから日曜は、交替で社員の誰かが休みになる。

それで今日は翔くんが休みだから寂しかったり……


「白濱くんとの打ち合わせ、21時だったよな?

休みの日まで大変だな~」


「あぁそっか、そーですよね……」

いくらクライアントの要望に合わせるのが仕事だとしても、なんだか申し訳なくなる。


「でもおかげでじっくり打ち合わせ出来るなっ」


「ははは……

それまでクラッシャーしまーす」


「おー、よろしくな~」


 そんな日曜は、クラッシュアイスの作りだめにもってこいだ。

だってアイスクラッシャーはかなりうるさいから、お客様がいない時を有効活用しない手はない。


 だけど、けっこう力のいる作業で……


「店長ぉ、いいかげん電動クラッシャー買ってくださいよ~」


「んー?それが壊れたらな」


 壊してやるうっ。

とそこで、ガキン!と異音。


 え!壊れ……

てない良かった~。

大事にしますすみませんと、ガリゴリしながら反省する。


 すると、何か聞こえた気がして顔を上げると。


「わ!びっくりしたっ」

カウンター越しに白濱さんが立っていた。


「すみません、一応声かけたんですが」


 店長はいつのまにか厨房に引っ込んでしまってて。


「いえこちらこそすみませんっ」

あたしは氷を砕くのに夢中で気付かなかったという。


「日曜はいつもこんな感じですか?」


「ははは、まぁ……

日曜は結婚式の二次会がメインなんで、そのついでに開けてる感じです。

それより白濱さん、今日って休みですよね?すみませんっ」

ウーロン茶を出しながら謝ると。


「……いえ別に、そーゆう仕事なんで。

お茶ありがとうございます」

相変わらずクールに流される。


「でも助かりますっ。

終わったら何か一杯サービスしますね~」

お礼に奢っちゃいますっ。


「いえけっこうです」


 じゃあ奢りませんよっ!


「ところでさっきのすごい音、何ですか?」


「あ~、クラッシュアイス作ってたんです。

グラスに敷き詰めたり、フローズンカクテルを作るのに使ったりするんです」


「フローズンカクテル……

そういえばメニューにありましたね。

人気はありますか?」


「んん~、あんまり目に止まらないみたいで人気はないかも。

でも美味しいですよっ?」


「へぇ……

じゃあ打ち合わせが終わったら、今日はそれを注文します」


 結局飲むんかい!

注文ってつまり、サービスされるのは嫌ってワケね。


「では本題に入りますが……

まずは松本さんの方で、何か要望や案があればお願いします」


 おっといきなりかー。


「はい、あたしはスタンプカードの導入を考えたんですけど……」


 その内容は、お会計1000円ごとに1スタンプで。

15個貯まったらお好きなメニューを1つサービス、といったもの。

ただし明記はしないけど、お好きなメニューはそれ専用のメニューから選んでもらう。


 至って普通だけど、これでも頭をかなり悩ませた。

貯めやすさとそれなりの特典がなきゃ魅力を感じてもらえないだろうし。

かといってそれを重視すれば、デメリットにもなるワケで。

この辺のさじ加減が難しかった。


 そして特典は……

よく500円引きとかあるけど、引かれるより何かプラスされる方がお得に感じるんじゃないかと思った。


 さらにさらに~?

ポイントカードは貯まると、シルバー・ゴールドへと進化して。

飲食代が、それぞれ3%・5%OFFになるとゆう優れもの。


「なかなかしっかり考えられてますね。

女性客を狙うといったコンセプトなんで、スタンプカードの導入はとてもいいと思います」


 おおっ、やり手といわれてる白濱さんに褒められたっ。


「ただ、雑誌掲載用の企画としては弱いです」


 上げて落とすんかーい!


「それで読者の方に行ってみたいと思わせるのは難しいと思います」


「確かに……」


 なんで気付かなかったんだろ!

スタンプカード目当てでお客様が来るわけないじゃんっ。

あんなに悩んで考えたのに……

メンタルがガリっと砕かれる。


「でもいい案だと思うんで、もう少し練ってから並行して進めましょう」


 え、これ以上まだ練る気っ?


「では僕の方からも、いくつか提案させて下さい」


 そう言って、掻い摘んで説明されたプランは……

どれもなるほど!と感心する内容で。

自分の企画力の無さにまた、メンタルがガリンと砕かれる。



「僕としては、今回はこの夜カフェセットをどうかと考えてるんですが……」


 それはいわゆる晩酌セット的なもの。

確かにそれなら一件目利用に繋がるし。

夜ごはんがてらに通える手頃な価格設定は、顧客数増加に繋がる。


「あたしもそれ、めっちゃいいと思いましたっ」


「ありがとうございます。

じゃあセットの内容を詰めていいですか?」


 当然快諾したところで、ようやくお客様が来店する。


「いらっしゃいませ~、お好きな席にどうぞ~」

すると。


「おー白濱くん、今日もよろしくな~」

通りがかりにそう声かけて、店長がお客様の対応を代わってくれたから……


 引き続きあたしは、白濱さんとの打ち合わせに専念させてもらった。


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