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そしてクイズ大会も終盤に差し掛かった頃、今度は翔くんがやってきた。
「あっ、翔くんお腹空いたでしょ?
唐揚げとポテトつまみなよ」
「や、俺はさっき厨房だったからその時けっこーつまんだんだけど。
今ダンスメンバー来たから、これ差し入れしてい?」
「ああ〜KINGDOMの人たち来たのっ?
全然いーよ!
足りるかな?すぐ追加で揚げるねっ」
そう、次のイベントは翔くん担当のダンスパフォーマンス。
なんとスタジオの宣伝になるからとゆう理由で、フリードリンクの条件だけで協力してくれる事になったのだ。
とはいっても、フードの差し入れくらはしたいよね。
さっそく出来立ての唐揚げ&ポテトと。
この時間だから足りなくならないだろうと、おでん3種串も人数分持ってくと。
「ありがと粋」
「え、スイちゃん!?
このコが翔お気に入りのっ?」
はいい!?
耳を疑うワードに思わず固まる。
「よけーな事ゆーなよっ」
「なんでだよっ、このコにカッコいいとこ見せたくて久々ダンス頑張ったんだろっ?」
「だからもう、黙れって」
いやいやいやいやそんなワケないからっ。
翔くんみたいなスーパー超絶イケメンが、あたしなんぞ気にもかけるワケないから!
「ははは〜、人違いだと思いま〜す」
そんで真に受けてると思われたらくっそ恥ずかしいので、さっさと逃げますっ。
なのにすぐに翔くんが、厨房まで追っかけて来た。
「粋、今の気にしないでほしんだけどっ……」
「うんわかってる!心配しないでっ?」
身の程はちゃんとわきまえてますっ。
「ん……
でも次、ドリンク(係)だろ?
だから、出来るだけ見てほしいなって」
「もちろんだよっ。頑張ってね!」
それから、本日3度目の繁忙タイムを乗り切ると。
いよいよ、女性客待望の翔くんのショータイム!
「俺も飛び入り参加しよーかなっ」と、目の前の賀来さんも不器用にカクカク踊る。
はい、ほぼほぼダジャレでーす。
とその時、開始アナウンスにそって店内の照明が落とされて。
クールなダンスミュージックとともに、翔くんたちが照らされる。
といっても頭上の調光レバーが上げられただけなんだけど、同時にわぁと歓声も上がる。
そこから勢いよく踊り出した翔くんたちは、予想を超えるカッコよさで……
「ちょっと粋っ、翔めちゃめちゃカッコよくない!?」
受付が暇になったマイマイが、興奮気味に言い寄って来た。
「うんヤっバい!カッコよすぎるんだけどっ」
これはもうここにいる女のコたち全員が虜だよっ。
それを裏付けるように、店内は異常な盛り上がりを見せている。
「そんなカッコいっ?」
「うんっ、死ぬほどカッコいい!」
と、テンションが上がって過剰表現してしまったところで。
今の声悠世くん!?
ぐるりと振り向くと、もう離れてて。
うわ〜どうしよう!
そーいえば悠世くんは、まだあたしが翔くんを好きだと思ってるよねぇっ?
誤解を解きたいけど……
だからなに?って感じだろうし、翔くんにダンス見るって約束したし。
そーやってモヤモヤしてたら、結局あまりダンスに集中出来なかったとゆう。
わ〜、翔くんごめんなさいっ。
しかも。
「翔くんおつかれっ。
すっごくカッコよかったよ!」
終わってそう声かけたら、めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔を見せるから……
めちゃくちゃ申し訳なくなったとゆう。
でも次はとうとう最後のイベント、オーナー担当の大抽選会だから……
それまで気持ちと疲れた身体を奮い立たせなきゃ!
そんな最後の繁忙タイムは、みんなもうある程度満たされてるから比較的ゆるやかで。
「店長クイズどうでしたっ?」
「いやもう大っ盛況だったぞ。
黄金コンビの企画も大成功ってワケだな」
黄金コンビっ……
そっか最後の打ち合わせはもう終わったから、今日でそのコンビも解散なんだ。
うわ泣いちゃダメ!
泣かないように頑張って、あんま考えないようにしてたのにっ。
なんか楽しい事を考えなきゃ……
そうだクロスバイク!
欲しい欲しい〜、どうか悠世くんに当たりますよーにっ。
ちなみに気になる目玉景品は……
3等が、あたしの名前をあだ名にしたような今1番人気のゲーム機で。
2等は人気テーマパークのペア宿泊チケット。
そして1等はなんと、有名メーカーの4K内蔵テレビだ。
それらを、誰もが自分に当たる事を願いながら……
大抽選会が始まった。
MCはオーナーだけど、アシスタントはバイトのコたちで……
結果的には、ここにいる全員が担当を持った事になる。
もうなんて素晴らしい一体感!
「続いて8等です!
8等の景品はなんですか〜?」
「はいっ、こちらのコート・デュ・ローヌになりますっ」
「はいコート・デュ・ローヌ〜!
僕が自信を持ってオススメする美味しい赤ワインで〜す」
オーナーが対話式にコメントを繰り広げて、他のバイトのコによってクジが引かれると。
参加者たちは受付で投入した抽選券の半券と照らし合わせる。
「うお当たった!」
「まじか賀来ちゃん!」
「スゴい賀来さんっ!」
「はいっ、当たった2名の方に喜びの声を聞かせていただきましょ〜」
と、MCの前に誘導された賀来さんは……
「一緒に飲んでくれる人絶賛募集中です!」
と店内の笑いを誘ってた。
その後も抽選会は賑わって……
ようやく、クロスバイクが手に入るかもしれない瞬間がやってきた。
どーか!どうか神様っ……
あたしに悠世くん絡みの新しい相棒を与えてくださいっ。
なーんて。
それで当たるほど世の中甘くないし。
悠世くんはすでに5等の黒毛和牛が当たってたから、そんな連チャンで当たるわけない。
でもあたしが選んだ景品が、当たったお客様に喜んでもらってるのは嬉しいし。
1等のテレビは、なんと!
京太くんの取引先の人に当たって。
その人からめっちゃ喜ばれて、京太くんも嬉しそうだったから……
この店が少しでも力になれた気がして、さらに嬉しくなった。
そうして周年祭は、大成功を収めて幕を閉じ。
片付けの最中、もっと嬉しい事が……
「チャリは当てれなかったけどさ。
代わりにこの肉、すき焼きでもして一緒に食お?」
「え、いーのっ?」
チャリの代わりとはいえ、あたしを誘ってくれるなんて嬉しすぎるっ。
「いーもなにも、粋と食いたい」
ぎゃああ!油断したっ。
この暴れ牛の不意打ちに油断した〜〜。
「ああありがとうっ」
とにかく誰かに聞かれる前にこの話を終わらせなきゃ!
「じゃあ俺んちでい?」
俺んち!?なにそれ美味しいのっ?
それってこの暴れ牛んちで2人っきりにぃ〜?
でも当然どっちかの家になるわけで。
すると悠世くんは、くはっと吹き出した。
「そんな身構えなくても、その日は襲わないからっ」
「はいいっ!?」
襲っ……
いやその日はぁ!?
テンパるあたしに、いっそう笑い出す悠世くん。
やっぱりこの男からかって楽しんでる!
ムリだ、この思わせぶりな極悪エロ暴れ牛には到底敵いそうもない……
マタドールやめます降参ですっ。
それに、こうやって少しでも一緒にいられるんなら……
もう息の根止められちゃって構いませんっ。




