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だけど、ますます悠世くんとこじれてしまった現状に……
沈んだ気持ちで家に帰ると。
夜中の3時すぎだとゆうのに携帯が鳴り出して……
誰だよって感じで、画面を見た瞬間。
心が一気に浮上する。
「悠世くんどーしたのっ!?」
「あ、こんな時間にごめん。
仕事終わった?」
「うん、今帰って来たとこだけど……
悠世くんこそ、こんな時間に大丈夫なのっ?」
「俺は全然、こっちのが大事だし」
ぐっは!なんて事をっ……
胸が潰れて、また泣けてくるじゃんっ。
「あのっ、さっきはいきなり泣いちゃて……
そのせいで無実の罪まで着せちゃて、ほんとにごめんっ」
「無実の罪って」
そう吹き出す悠世くんに。
張り詰めてた思いが、ふっと和らぐ。
「そんなの気にしなくていーし、昔の事も。
ほんとにもう気にすんなよ」
「でも最初の頃は冷たかったよねぇ?
その時は怒ってたんでしょ?
てゆうかどのタイミングで気付いたのっ?」
「いっぺんに聞くなよっ。
まず気付いたのは、会った初日で。
新井さんからタメって聞いてたし、珍しい名前だし、そういえば地元こっちだったなって。
それで顔をよく見たら間違いないなって。
けど、冷たくしたのはごめん」
やっぱり冷たくしてたんだ!
「でも別に怒ってたわけじゃなくて。
気まずかったし、どう接したらいいか、距離の取り方がわかんなくて……
なのに松本さんは明るく接してくれるし、優しいし。
前向きで、いつも一生懸命頑張ってて……
なんか、いつまでも引きずってる自分がバカみたいに思えてさ」
「いやでもあたしがトラウマ作っちゃったんだよねぇ?」
「それはっ……
あいつどこまで話したんだよ」
「違っ、あたしが変に聞き出しちゃっただけでっ」
「あぁ、まぁでも、トラウマは他にも原因があって……
中学の時、親が離婚してさ。
そーゆー無責任な行動がショックだったからで。
で、そん時に。
片思いがダメになってもあんな辛かったのに、付き合った相手から切り捨てられたら立ち直れないだろうなって思って。
だったら最初からそのつもりでいた方が楽だなって、気持ちに壁作ってたんだ。
だからむしろ親のせいだし、松本さんは悪くないし、全然気にしなくていーから」
いやあんな辛かったって、それあの時の事じゃ……
「気にするよっ。
それにYOSAKOIだってあたしのせいで……」
「あぁ、それも(聞いたの)か……
でもそれは自分のせいだから」
「自分のせい?」
「うん。
夏にYOSAKOI祭りで、松本さんの本音を聞いただろ?
それで、10年前の言葉は嘘でもお世話でもなかったんだなって。
俺の努力はちゃんと誰かの心に届いてて、無駄じゃなかったんだなって」
「それで、本心じゃないってわかってくれたんだ……」
「ん、それとその頃の不安な状況とか聞いて……
転校してきて馴染めない人間関係の中で、周りに合わせるしかなかったんだろうなとか。
前に元彼に、みんなの前でゆーかなぁってキレてたから。
みんなの前でからかわれたのが嫌でつい、みたいな感じなかなって」
うそ、そこまで考えてくれたんだ。
どうしようまた涙がっ……
電話でよかったと思いながらも。
ずっとずっと抱えてた、吐き出す事も出来ないしこりが……
どんどん涙から溶け出して、小さくなってく気がしてた。
「とにかく、話し戻るけど10年前もさ?
めちゃくちゃ練習したのに何度も失敗して、必死にやり遂げたけどすげー落ち込んでたからさ……
あの時の言葉は、ほんとに嬉しかったんだ。
なのに俺は信じる言葉を間違えて。
自分に言ってくれた言葉じゃなくて、誰かに言った言葉を鵜呑みにして。
勝手に傷付いて、好きな事まで投げ出して……
だから自分のせいなんだ。
ほら、赤尾さんが言ってただろ?
どんなにバカにされようと、好きなものに誇りを持って愛し続けるって」
あぁ、ジャックダニエルの話……
「俺が出来なかった事だなって、あの時改めて思い知らされた。
周りがどうでも、相手がどうでも、勝算なんか微塵もなくても、大事なのは自分がどう思うかだよなって。
なのに、松本さんに責任感じさせてごめん。
信じてあげられなくて、ほんとにごめん」
「っっ、もうっ……
なんでそんなに優しいのっ!?」
電話でよかった意味もなく、泣き声でその感情をぶつけると。
「優しくないだろっ、冷たくしたし……
それに松本さんは悪くないって、何度も言ってるだろ?」
もう!なんなのこの人っ。
好きで好きで、苦しいくらい大好きで……
好きすぎて泣き声が止まらない。
「泣くなって……
YOSAKOIならまた始めたし」
「っ、そーなのぉ!?」
驚いて涙が引っ込む。
「ん、ほんとは舞王に行く日まで特訓して、サプライズしたかったんだけど……
松本さんの本音を知ってから、俺何やってんだろって、一から頑張る事にしたんだ。
だからむしろ、松本さんのおかげで好きなものを再認識出来たってゆうか……
そう、トワイスアップみたいに。
過去と今がいい感じに混ざった事で、トラウマが落ち着いて、大事な事に気づけたんだと思う」
「いや最初から嫌な過去がなければ、トラウマもなく好きな事もずっと続けられたんじゃ……」
「いや考えてみろよ。
カクテルだって甘味だけじゃなくて、酸味とか苦味とか色んな味が混ざっていい味になるだろ?」
「おお、素晴らしい例えっ」
「まぁいつも散々語られてるから」
「ひどっ、そんな嫌そーに!」
「冗談だよっ、楽しいって」
そーやってあたしたちは、朝方まで語り合って……
あとで寝不足の悠世くんに、また申し訳なくなったとゆう。




