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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
ジャックダニエルのトワイスアップ
32/51

 どうしよう……

悠世くんは、あたしがあの時のディスり女だって気付いてるのかな?

結局フリースペースに向かうどころじゃなくなったあたしは、家に戻って今までの事を思い返す。


 いや、気付いてたらあんなに仲良く出来るわけない!

じゃあそれを知ったらどうなるのかな……

どう思うかな?


 しかもあたしはまた傷付けて……

もう完全に修復不可能じゃん!

クライアントとしては話してくれるだろうけど……

クライアント?


 違う、悠世くんは気付いてる。

だから舞王との関係を隠して……

ー「地元のチームじゃないのにどんなきっかけで仲良くなったんですかっ?」

「えっ……

いやクライアントさんの1つなんで」ー

そう誤魔化したんだ。


 だってよく考えたらいくら馬が合ったからって、他の市のクライアントさんとあんな仲良くなるわけないし。

そもそもK市に住んでたからって答えればすむ話なのに、それを隠して……


 それに。

ー「筋金入りに思わせぶりな松本さんに言われたくねーしっ」ー

その発言が物語ってるし。

そんなあたしに人一倍壁を作ってるから、頑なに松本さん呼びなんだろう。


 思えば最初の頃、あたしにだけ冷たい気がしてた。

あたしが京太くんと会いたくなかったように、きっと悠世くんも黒歴史のあたしと会いたくなかっただろう。


 なのに一緒に仕事する事になって、どれだけ辛かっただろう。

にもかかわらず、あたしはほんとに呑気で……

トラウマを作った張本人のクセして。


ー「そーゆうのなんか重いし」

「ひどっ」ー

だなんて。

お前のせいだろって感じで、睨まれるのも当然だよね。


 しかも翔くんの事とか京太くんの事とか……

あたしだけ一見普通に恋愛を重ねてる姿を見て、ムカついただろうし。

そんな相手から強引に距離を縮められて、ほんとは嫌だったんじゃ?


 それでもあんなに仲良くしてくれて、ちゃんと相棒でいてくれて……

いつも助けてくれて、優しくて。

心配してくれたり、元気付けてくれたり、守ろうとしてくれたり、相談に乗ってくれたり……

もうっ、なんでそんなに優しいのっ?


 それなのにあたしはまた傷付けて……

ー「僕も松本さんは、絶対無理なんで」ー

当然だよね。


 あぁもう消えてしまいたい!

トラブルどころかトラウマメーカーにまでなってたあたしなんか、いなくなった方が平和だよっ。

ポロポロ涙が零れ落ちる。


 ごめんね、悠世くん……

こんなあたしにはもう、好きでいる資格すらないよね。



 だけど、気付けば会いたくて。

好きな気持ちは止められなくて。

このまま会わなかったら、そのうち忘れられるかもしれないのに。

うちがクライアントでいる間は、嫌でも顔を合わせなきゃいけなくて。


 だからってどんな顔して会えばいいのっ?

奥のテーブル席のオーダーから、ため息と一緒に戻ってくると。


「お疲れ、なんか元気ないな?」

連絡もしてないのに、いきなりカウンターに悠世くんの姿!


「お、つかれっ……」

瞬時に胸を掴まれて、言葉に詰まる。


「つか、なんかあった?

目も腫れてる気がするけど……」


 もうっ、だからなんでそんなに優しいのっ?

散々傷付けてトラウマ作ったあたしだよっ!?

じわりとまた涙が込み上げてくる。


「……うん、あった。

あのね悠世くん……」


 ちゃんと面と向かって謝りたかったし、昨日はまだ連絡する勇気が持てなかったけど。

申し訳なさすぎて、もう謝らずにはいられない。


「あの時はひどい事言ってごめんなさいっ!」


「はっ?

いや別にっ……

俺の方こそ、売り言葉に買い言葉みたいになってごめん」


 え、それってこの前の?


「いやそれもなんだけどっ、そーじゃなくて……

てゆうか悠世くんは謝らないでよっ。

この前も、でもそれ以上に……

10年前の事、ほんとにごめんっ」


「っ、なんでそれっ……

いつ気付いたんだよっ」

途端、そう狼狽える様子に。


 やっぱり気付いてたんだ……


「昨日、出張で来た舞王の旗士さんと偶然会って……

話の流れで」


「っ、マジか」

片肘ついた手に顔を(うず)める悠世くん。


「でもガキん時の話だしっ、松本さんは悪くないし。

今はちゃんと、わかってるから」


「わかってる?」

いや逆にあたしが悪くない意味がわからない。


「うん……

相手につい合わせてしまっただけで、本心じゃなかったんだろ?」


 その瞬間。

ぶわっと、不可抗力に涙が溢れ出して……


「っ、ごめんっ」

慌ててそれを厨房に連れ去った。


 なんでっ?

確かに悠世くんには色々語ったけど、明確にそれを話したわけじゃなのに……

なんでわかってくれるのっ?


「え、粋っ?

どーしたんだよっ、なにがあったんだ!?」

泣きながら厨房に駆け込んできたあたしに、焦る翔くん。


「ごめっ、なんでもないのっ……

邪魔してごめんねっ」


 なのに翔くんは作業を中断して、怒った様子でズカズカとホールに向かった。


「えっ、待って翔くんっ……

ほんとになんでもないからっ」


 だけど、特に異変のない店内で……

戸惑ってる悠世くんを見て、ピンときたんだろう。


「粋の事泣かしたの、白濱さんすか?」


「わ~!違うの翔くんっ、あたしが悪いのっ」


「だからって泣かす事なくないすかっ?」


「だから違うのっ、あたしが勝手に泣いただけでっ」


 とそこで、あたしの言葉を遮って。


「すいませんでした……

今日は帰ります」

苦しげにそう応えて、帰っていった悠世くん。


 うわ~!どうしようっ。


「ごめん……

粋の事が心配で、つい頭にきて」


「ううん、心配してくれてありがとう。

でもほんとに大丈夫だから」


「ん、でも俺……

どんな些細な事でも、なんでも聞くよ?」


「っ……ありがとう。

その時はよろしくね?」


 うわーん、こんなダメダメな人間なのにっ。

今度は翔くんの優しさに泣きそうだよ。


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