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だけど次の打ち合わせで……
「手の調子は?」
うっ、なんだこのドキドキは……
心配そうな目を向けられただけなのにっ。
「お、おかげさまで順調だよっ?
ありがとうっ」
きっとそのへんはまだ今までとのギャップに慣れてないんだ!
ずるいギャップめ~。
それに、こんだけイケメンならドキドキするのも当たり前だし。
最近さらにカッコよくなってる気がするし。
女装したら絶世の美女になるだろーなぁ。
あたしと顔取り替えてほしいくらいだよ。
まつげ長いし……
ん?なんか戸惑ってて可愛いし。
「いや見過ぎだろっ。
なんなんだよ」
「あ、ごめんっ。
いや最近輪をかけてカッコいいな~って」
「はっ?
つか俺、そーゆーお世辞とか思わせぶりな言動嫌いなんだけど」
「え、そーなのっ?なんでっ?」
「なんでって……
あ、違った。
それはもう嫌いじゃなかった」
なんじゃそりゃ!
とそこで。
「あ、賀来さんいらっしゃい」
来店したその人に声かけた瞬間。
「ほんとだいたっ、悠世~!」
真の絶世の美女、すずちゃんさんがこっちに手を振る。
「はっ?何しに来たんだよっ」
「別にいーでしょお?
バッタリ賀来ちゃんと会って、悠世が最近よくここに来てるって聞いたから、一緒に飲みに来ただけだし」
「いや俺は打ち合わせだしっ」と言ったところで悠世くんは、パッとあたしに顔を向けた。
「すみません、ちょっと中断していいですか?」
はい!?なんでまた敬語っ?
それはつまり、あたしも敬語で話せって事っすか?
「どーぞどーぞ、ごゆっくりー」
にっこり営業スマイルでその場を離れながらも。
さてはすずちゃんさんに誤解されたくないんだな~?
恋愛感情はないってゆってたくせに、このウソつきめ~!
と何気にムカつく。
「賀来さんすみません。
こいつがいると打ち合わせに集中出来ないんで、席離れてもらってもいいですか?」
「俺は別にいーけど……」
「ひどっ!邪魔しないのにー」
「いやすでに邪魔だし気が散るだろっ」
「え、それってぇ……
ヤキモチで気が気じゃないとかっ!?」
「誰がだよっ、つかもう話しかけんなっ」
焦っちゃって、ヤキモチ図星なんだー?
ふーんだ、やっぱツンデレのツンじゃん。
アイスピックでキューブアイスを作りながら、嫌でも耳に入る会話に内心突っ込む。
って、これじゃあたしがヤキモチ妬いてるみたいじゃん!
「わかった、もう邪魔しない。
だから終わったら一緒に飲もっ?」
「帰るよ、仕事溜まってるし」
「じゃあ一緒に帰ろっ?
危ないから送ってよっ」
「いや俺んち近くなのに、わざわざ遠くまで送らせる気かよっ」
「いーじゃん!
酔っぱらった女の子1人で帰らせて心配じゃないのっ?」
「いや酔わねーだろっ。
この前みたいに俺が誘ったんならタクシー代くらいは出すけど、心配してほしいならそーゆう男探せよ」
「悠世に心配してほしんじゃん!
一回くらい送ってくれたっていーのにっ」
えっ、じゃあなんであたしの事は……
危ないって心配してくれたり、送ってくれたりしたんだろ?
そう思ったところで、マイマイがヒソヒソ話しかけて来た。
「なにあれ、戯れ合ってんの?
まぁお似合いだよね。
白濱さんってさー、めっちゃイケメンだし仕事も出来るし、土壇場で機転も利くしさぁ。
ほらあの時のおしぼりも、とっさにラバトリーに常備してるのを取ってきたらしいよ?
そーやって当たり前のように粋のフォローしたりとか、優しいし。
あんないい女が必死になるのも無理ないよね」
「はは、だよね~」
むしろ、あんないい女じゃなきゃ釣り合わないか……
胸にチクリと痛みが走る。
って痛い痛い痛いしくっついた!
長く持ちすぎた氷を指から引き離そうと格闘する。
そうしてるうちに、戯れ合いは終わったようで……
「松本さんすみません、打ち合わせの続きをお願いしていいですか?」
「ああはいっ、了解です」
「まずはこの前ピックアップしてもらった撮影の希望日ですが、16日の月曜に決まったんでお願いします」
「はい伝えときまーす」
棒読みで、この距離感への不満をあらわにすると。
悠世くんは何か言いたげな顔をして……
「では次に勝負種目ですが、」
流しやがったー!
「あの、白濱さん」
そこで翔くんが、いきなり話に入ってきた。
「店長にはOKもらったんで、俺は写真に写りません」
「え、そーなの翔くんっ?」
当然悠世くんより先に反応してしまう。
「ん……
またファンが増えると思うけどって言われて、もううんざりだなって。
俺ホストじゃないし。
でもその集客も狙った企画なら、ほんとごめん」
うわ~!あたしだってメンズバーじゃないとか思ってたのにっ。
おっしゃる通りその集客も期待してましたごめんなさいっ。
「んーん全っ然大丈夫!
ねっ?ゆ、白濱さんっ」
「はい、それは気にしなくていいですよ?
今回は松本さんが考えてくれた企画自体がすごくいいんで、問題ないです」
うわ、そんな嬉しい事をっ……
「いやまあそれよりっ、翔くんの気持ちの方が大事なんだし、ヤな思いとかさせたくないし……
だからちゃんと断ってくれてありがとうっ」
モメるのが嫌だと言ってた事を思い出して、照れくささを誤魔化すように言い足すと。
「粋……
ありがと。
俺、粋のそーゆーとこ……すげぇ好き」
はいい!?どーした翔くん!
いやそーゆーとこってどーゆーとこっ?
てゆうか悠世くんの前でっ……
落ち着け!
別にあたしを好きなわけじゃないっ。
「あはは~、ありがとう。
とにかくっ、その辺は悠っ……
白濱さんがいい記事にまとめてくれるから心配しないでっ?」
と感謝の矛先を悠世くんに向けて、今度は必死に動揺を誤魔化す。
「はい。平岡さんの分は僕がカバーするんで、こっちの事は任せて下さい」
おお、相変わらず頼もしっ。
すると。
「……いえ、やっぱ俺写ります」
そう強い目で言い捨てて、去って行った翔くん。
いや翔くんまでなんじゃそりゃ!
そんな感じでなにかと進まない打ち合わせを、本腰入れてようやく終えると……
今日は飲まずに帰るという悠世くん。
「すず、じゃあ俺帰るから」
その優しげな呼び捨てに、胸がズキリと痛みを発する。
「うそ、ちょっと待って!
下まで一緒に帰ろっ?」
「いやその距離一緒の意味ないだろ」
「いーじゃん!
あ、会計お願いしまーす。
じゃあ賀来ちゃんまたねっ?」
そして、なんだかんだ待ってあげてる悠世くん。
この隠れデレめっ。
にしても、羨ましいなぁ……
そんなふうにまっすぐ気持ちをぶつけられて。
そーやって健気に頑張ってるすずちゃんさんを見てると、ますますあたしには恋愛する資格なんかないって思い知らされて……
あぁ胸が痛い。
「ね、悠世んち寄ってい?」
「いやまっすぐ帰れよ」
結局一緒に帰ってった2人は……
きっと悠世くんちで一緒に過ごすんだろう。
あ、それを想定して悠世くんは飲まなかったとか?
どうしよう、胸が痛くて痛くて……
ああやっぱり。
あたし、悠世くんの事が好きなんだ。
もうっ、いつのまに?
なんで好きになるかなぁ……
その先を望まないあたしは、好きになるだけムダなのに。
京太くんと出会うまでは、誰も好きにならないようにしてきたし。
京太くんと別れてからは、いっそうそれを心掛けてたはずなのに。
しかも翔くんが好きだったのに。
って過去形!?
いや進行形なら余計タチ悪いわ!
悠世くんに言われた通り、あたしって……
マリブみたいに気が多い女だったんだ!
いやもう最低っ。
惚れ薬ならぬ惚れ戻し薬を誰が発明してください!




