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「もうほんっとーによかった。
舞王のみなさんによろしく伝えてねっ?」
長時間過ごして、タメ語もだいぶ慣れて来た。
「ん……つか送るよ。
俺SUVだからチャリ積めるし、結構飲んでて危ないし」
「んーん全然大丈夫っ。
それに今から打ち上げ行くんでしょ?」
さっきそんな電話をしてた悠世くん。
「や、打ち上げは送ってから参加すればいいし、なんかあったらこっちが責任感じるし」
と押し切られ。
悠世くんがそれを舞王の人に連絡しようとしたところで、その相手とちょうど会う。
あ、受付んとこで戯れ合ってた人だ。
てゆうか、この人旗士さんだったんだな~。
2人の会話が終わるとすかさず。
「あのっ、優勝おめでとうございます!
今年もめちゃくちゃ感動しましたっ。
これからも頑張ってくださいっ」
「お~!ありがとうっ。
毎年見てくれてんの?
今度こいつ通じて遊びにおいで~」
「マジっすか!
嬉しいです絶対行きますっ」
と、願ってもない機会を掴む事に。
「どうしよう悠世くん……
まさか舞王のお城に招かれるなんてっ」
送りの車内は、当然その話で持ちきりに。
「お城って……
つか社交辞令とは思わないんだ?」
「そーなのぉ!?
だとしてもそこは悠世さまのお力で……」
「俺は力の無駄遣いはしない主義なんで」
こんっのケチ男め~。
そうしてるうちに、近かったからあっという間に家に着く。
「今日はすっごく楽しかったし、何から何までありがとうっ」
ってなんだかデートの締めくくりみたいだけど……
「や、俺も色々聞けて良かったし」
よかったのっ?
無理やり聞いてもらった感じなのに……
「じゃあもうダサいとか思ってないすかっ?」
「ん、ありがと……」
ありがとお!?
まさかウンチク語って感謝されるとは……
「悠世くんって、実はいい人だよね~」
「どーゆー意味だよっ」
こーゆーやり取りが楽しくて……
「だってさりげなく優しいし。
明日もきっとお店に来てくれるんだろうな~って」
遠回しに誘ってみたり。
「だからキャバクラかよ」
「え、いつもそんなふうに誘われてんの?
てゆうかキャバクラとか行ってるんだっ?」
「いや行かねーしっ。
松本さんこそ、いつもお客さんにそんな事言ってんだ?」
「え、あたし?
言ってるかな……」
「考えんなよ……」
「じゃあ次はいつ来るのっ?」
「だからそーゆうっ……
あぁも、次は水曜に打ち合わせ出来る?」
「打ち合わせっ?
店長の最終チェックの事?」
次の企画はようやく夜カフェセットで。
サンプル作りと写真撮影だけだったから、あたしとの打ち合わせは今月早々に終わってた。
「そうじゃなくて。
例のスタンプカード、夜カフェの前に始めときたいなって。
アサイー屋台の好調にも結びつけたいし」
あ、スタンプラリーで燃え尽きてすっかり忘れてた。
「了解ですっ。
ってやっぱり打ち合わせは敬語の方がいいのかな?」
「……まぁ、出来るだけ」
それはけっこうややこしいな……
「じゃあまた水曜に」
あ、帰っちゃうんだ?
悠世くんってほんといつもサクッと帰っちゃうよねー。
「はーいお元気でー」
まぁ、打ち上げ行かなきゃだけどさ。
「なんだよその棒読み……
そんな拗ねなくても、舞王に遊び行く件はちゃんとするから」
「え、ほんとにっ?」
それで拗ねてたわけじゃないけど……
「ありがとう悠世くんっ!」
もうめっちゃ好きっ。
そうして水曜日。
「いらっしゃいませ~」
他のスタッフの声かけに、いちいち胸が騒ぎ立てる。
あ~なんか!
仲良くなってからお店で会うの初めてだから、変に緊張する。
し、早く来ないかな~。
入口のガラス扉から、何気にエレベーターの方を覗くと……
ちょうど出て来た悠世くんと、バチっと目が合う。
「お、おつかれさまでーす」
扉を開けて出迎えるも。
うわ恥ずかしっ。
なに待ち構えてんだって感じじゃん!
「……お疲れ様です」
しかもお互いぎこちないとゆう……
「さっそくスタンプカードですが……
前に言った通り、松本さんの案をもう少し練りましょう」
「はい先生!
前は聞けなかったけど、やっぱりもっと練らなきゃ使いもんにならないっすか?」
「そーゆうわけじゃ……
ただせっかくいい内容なんで、もっとそれを活かしたいなって。
つか先生って……」
「じゃあ部長?」
「いや真面目にやれよ」
おっと、急にグイっとくる感じたまんないなー。
「まず特典メニューは、スタンプラリーのものを応用する形でいいですか?」
「全然OKですっ」
「じゃあ次に期限ですが、6ヶ月はどうですか?」
「短っ!
でもそれってやっぱり財布の肥やしにならないように?」
「まぁ平たく言うと」
そうやってスタンプカードの内容を完成させてくと……
「じゃあこの内容で、新井さんのOKが出たらサンプルを作って来ます」
「お願いしますっ。
って事で、悠世くんはもう帰るの?」
タメ語が解禁になったとこで、さっそくコソコソ尋ねる。
「……や、この前言ってた魔王のロック?飲むつもりだけど」
同じく悠世くんも控えめに答えた。
「ほんとに?すぐ作るねっ」
よかった!まだ一緒にいられるっ。
「お待たせでーす」
「つかさっきからなんで小声?」
「……なんでだろ?」
なぜだか周りの目が気になって……
それにこの秘密っぽい関係がくすぐったくて、大事に隠してたい気分。
「うわこれ、ほんとに焼酎っ?
すげぇ美味いんだけど」
「でしょでしょっ?
ところで、もうひとつの舞王はどーなったの?」
「あぁそれ、ここの契約が終わってから……
来年早々にでも連れてくよ」
「遅っ」
「いやそれまで色々立て込んでるし、連れてくんだから文句言うなよ」
「うそうそっ、ありがとね悠世くんっ」
魔王は焼酎のイメージを変えたお酒で……
あたしと悠世くんの親密度もまた、同じ呼び名の舞王によって変わってた。




