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溺愛シェーカー   作者: よつば猫
魔王のロック
21/51

「そ、それにしても白濱さんさすがですねっ」

おっと、タメ語を盛り込むんだった。


「いくらクライアントさんだからって、休日にこんな長時間、ダサいと思ってるYOSAKOIを見に来るなんて!」


 こ、こんな感じっ?

今までガッツリ敬語だったから、タメ語変換けっこう難しいな~。


「いやそれ、嫌味に聞こえるんだけど」


 おおっ、ちゃんとタメ語で返してくれた。

だけどぎこちなくて、それが可愛いくて……

口元を抑えたけどニヤケが止まらない。


 すると、顔を背けて拗ねた様子でぼそりと一言。


「つか笑ってんなよ」


 なにその急にグイっときた感じ!

そのくせめっちゃ照れくさそうで……

ヤバいツボるっ。


「……やっぱりタメ語やめます」


「わ~ごめんなさいっ!

いやいい感じですその調子ですっ」


 取って付けたようなフォローに、ため息と呆れ顔が向けられる。

しかもあたしまで敬語に戻ってるとゆう。


 そうしてるうちに、いよいよ舞王の出番がやって来て……

2人してその演舞に見入った。


 そしてあたしはいつものように……

心をグッと鷲掴まれて、感動が溢れ出す。


「えっ、なんで泣いてるんですかっ?」


「あぁすいませんっ。

いやもうあたし、ダメなんですよね……

舞王の演舞見ると、感動しちゃって」


「え、そんなに……」


「そんなにって、このすごさわかりませんっ?

舞王って演出がズバ抜けてカッコいいし、踊りは洗練されてるし。

情熱的で、ものすごい一体感を創り出してて……

心にガツンと響いて、泣けちゃうんですよね」


「あぁ、なるほど」


「わかりますっ!?

しかも舞王の1番の魅力は旗士さんの演舞なんですっ。

もう他のチームとは別格で!

実はあたし、踊りより旗振りの方が好きなんですっ」


 今までずっと1人で見て来たあたしは、感動を共有出来る状況を前に語りが止まらなくなる。


「え、そーなんですか?」


「そーなんです!

大旗の、悠々と空を泳いでチームの存在を知らしめてる感じとか。

小旗の、バサバサと(くう)を切って道を切り開いてく感じとかっ、もうたまんないし!

中でも舞王の小旗演舞はかなりハイレベルで、雅やかなのに力強くて最高なんですっ」


「……熱いですね、松本さん」


 あ、引いてらっしゃる……


「はは、夏ですからね。

あ、扇子持ってるんで使います?」

と、その暑いじゃねーよ!な方向に無理やり誤魔化す。


「いえ、自分のクールダウンに使って下さい」


 いいかげん黙れ的なっ?

くぅ、誤魔化されてくれないワケね……


「てゆうかタメ語!

いつのまにか敬語になってるしっ」


「それは松本さんだって……

いやそれよりっ、舞王以外の演舞も見ましょう」


「見てますって!」

まぁさっきほどのめり込んではないけど。


「でもそーやって熱く語っちゃうほど、旗士さんの演舞が大好きなんです」

そしてついまた語りに入ってしまう。


「あたし子どもの頃、お父さんが大きな病気で入院しちゃって。

お母さんはそれに付き添う事になって、K市のおばあちゃんちで預かってもらってたんです。


でも知らない学校とか慣れない環境に、不安だらけで。

お母さんたちがいなくて寂しくて、お父さんの病気が心配で、しんどい毎日を送ってたんです。


そんなあたしを元気付けるために、おばあちゃんが連れてってくれたのがYOSAKOI祭りで……

そこで同い年くらいの旗士の子が、一生懸命演舞してる姿を見て感動しちゃって」


 その時白濱さんが、飲んでたコーラをゴホッとむせる。

も~いいとこなのに。


「とにかくっ、あたしも頑張ろうって思えて。

なんか、フレフレーって必死に応援されてるみたいに思えて。

すっごく元気をもらったんです。

だから旗士さんの演舞は、今でも元気の源で……

あ、もちろん踊り子さんもですよっ?

なので熱くなっちゃうのもムリないってゆーか」


 そう、もらった元気の熱変換とでもいっておこう。


「そうですか……」

すると、なぜかしんみり答える白濱さん。


 え、そんな重い話だった?

そうか!

この人重いの苦手だから、この程度の感動秘話でも重く感じちゃうんだ?


「まぁそれだけじゃなく、旗士さんってほんとにスゴいんですよっ?」

明るい語りに切り替える。


 今のあたしに黙るという選択肢はない。

やっと語り相手を見つけたんだもん。

でも心のどこかで、この熱い思いを舞王の旗士さんに伝えてほしいな~、なんて下心もあったり。


 そうして旗士さんの凄さを、腕力や振り方の事から……

神経を張り巡らせて様々な状況を読んでる事まで、演舞に合わせて語ってると。


「遮ってすみません、先におかわり持って来ます」


「えっ、あぁっ、すみませんっ」


 遠慮する間も与えず、空になったビアカップを手から奪って屋台に向かう白濱さん。


 うわ、気遣い神っ。

エスコートキング、からの白濱王!

ん?しらは・まおう……

おお、白濱さんもマオウになるっ。

って、さっきからまたタメ語じゃないし!

言い出しっぺが率先しなくてどーすんのっ。



「ありがと悠世くんっ」

戻って来たところに、さっそくそう不意打ちすると。

一瞬面食らって、「別に」と顔を背ける悠世くんが……

可愛くてもうほんとに楽しいっ。


「で、続きは?」


 おおっ、ちゃんと聞いてくれるんだっ?

しかもタメ語っ。


「えーととにかくっ、旗士さんは全然脇役なんかじゃなくて。

むしろチームを盛り上げるキーマンってゆうか、チームの名前を背負ってる骨格ってゆうか」


 そう言いながら舞王を浮かべて、ふと思う。


「そう!それこそ、魔王ってゆうロックが美味しい焼酎があって。

もちろんそのままでも美味しいお酒なんですけど、氷あってこそ最高の味になるんです。

しかもロックは見た目が骨格みたいだし、まさに舞王の旗士さんは魔王のロックですねっ」


「なんか例えが職業病ですね……

でもそのお酒、今度飲んでみたいです」


「ぜひ飲んでくださいっ。

白濱さんにぴったりなお酒だと思うんで!」


 白濱王(しらは・まおう)だし。

今までのイメージ変わったし。

ギャップ萌えだし。

てゆうかタメ語だし!


「ほんと、悠世くんにぴったりだと思うよっ?」


「いや言い直さなくていーし」


 そんな調子で、途中に屋台で買った遅めの昼食を挟んだりしながら……


 祭りは見事、舞王の優勝で幕を閉じた。


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