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「そ、それにしても白濱さんさすがですねっ」
おっと、タメ語を盛り込むんだった。
「いくらクライアントさんだからって、休日にこんな長時間、ダサいと思ってるYOSAKOIを見に来るなんて!」
こ、こんな感じっ?
今までガッツリ敬語だったから、タメ語変換けっこう難しいな~。
「いやそれ、嫌味に聞こえるんだけど」
おおっ、ちゃんとタメ語で返してくれた。
だけどぎこちなくて、それが可愛いくて……
口元を抑えたけどニヤケが止まらない。
すると、顔を背けて拗ねた様子でぼそりと一言。
「つか笑ってんなよ」
なにその急にグイっときた感じ!
そのくせめっちゃ照れくさそうで……
ヤバいツボるっ。
「……やっぱりタメ語やめます」
「わ~ごめんなさいっ!
いやいい感じですその調子ですっ」
取って付けたようなフォローに、ため息と呆れ顔が向けられる。
しかもあたしまで敬語に戻ってるとゆう。
そうしてるうちに、いよいよ舞王の出番がやって来て……
2人してその演舞に見入った。
そしてあたしはいつものように……
心をグッと鷲掴まれて、感動が溢れ出す。
「えっ、なんで泣いてるんですかっ?」
「あぁすいませんっ。
いやもうあたし、ダメなんですよね……
舞王の演舞見ると、感動しちゃって」
「え、そんなに……」
「そんなにって、このすごさわかりませんっ?
舞王って演出がズバ抜けてカッコいいし、踊りは洗練されてるし。
情熱的で、ものすごい一体感を創り出してて……
心にガツンと響いて、泣けちゃうんですよね」
「あぁ、なるほど」
「わかりますっ!?
しかも舞王の1番の魅力は旗士さんの演舞なんですっ。
もう他のチームとは別格で!
実はあたし、踊りより旗振りの方が好きなんですっ」
今までずっと1人で見て来たあたしは、感動を共有出来る状況を前に語りが止まらなくなる。
「え、そーなんですか?」
「そーなんです!
大旗の、悠々と空を泳いでチームの存在を知らしめてる感じとか。
小旗の、バサバサと空を切って道を切り開いてく感じとかっ、もうたまんないし!
中でも舞王の小旗演舞はかなりハイレベルで、雅やかなのに力強くて最高なんですっ」
「……熱いですね、松本さん」
あ、引いてらっしゃる……
「はは、夏ですからね。
あ、扇子持ってるんで使います?」
と、その暑いじゃねーよ!な方向に無理やり誤魔化す。
「いえ、自分のクールダウンに使って下さい」
いいかげん黙れ的なっ?
くぅ、誤魔化されてくれないワケね……
「てゆうかタメ語!
いつのまにか敬語になってるしっ」
「それは松本さんだって……
いやそれよりっ、舞王以外の演舞も見ましょう」
「見てますって!」
まぁさっきほどのめり込んではないけど。
「でもそーやって熱く語っちゃうほど、旗士さんの演舞が大好きなんです」
そしてついまた語りに入ってしまう。
「あたし子どもの頃、お父さんが大きな病気で入院しちゃって。
お母さんはそれに付き添う事になって、K市のおばあちゃんちで預かってもらってたんです。
でも知らない学校とか慣れない環境に、不安だらけで。
お母さんたちがいなくて寂しくて、お父さんの病気が心配で、しんどい毎日を送ってたんです。
そんなあたしを元気付けるために、おばあちゃんが連れてってくれたのがYOSAKOI祭りで……
そこで同い年くらいの旗士の子が、一生懸命演舞してる姿を見て感動しちゃって」
その時白濱さんが、飲んでたコーラをゴホッとむせる。
も~いいとこなのに。
「とにかくっ、あたしも頑張ろうって思えて。
なんか、フレフレーって必死に応援されてるみたいに思えて。
すっごく元気をもらったんです。
だから旗士さんの演舞は、今でも元気の源で……
あ、もちろん踊り子さんもですよっ?
なので熱くなっちゃうのもムリないってゆーか」
そう、もらった元気の熱変換とでもいっておこう。
「そうですか……」
すると、なぜかしんみり答える白濱さん。
え、そんな重い話だった?
そうか!
この人重いの苦手だから、この程度の感動秘話でも重く感じちゃうんだ?
「まぁそれだけじゃなく、旗士さんってほんとにスゴいんですよっ?」
明るい語りに切り替える。
今のあたしに黙るという選択肢はない。
やっと語り相手を見つけたんだもん。
でも心のどこかで、この熱い思いを舞王の旗士さんに伝えてほしいな~、なんて下心もあったり。
そうして旗士さんの凄さを、腕力や振り方の事から……
神経を張り巡らせて様々な状況を読んでる事まで、演舞に合わせて語ってると。
「遮ってすみません、先におかわり持って来ます」
「えっ、あぁっ、すみませんっ」
遠慮する間も与えず、空になったビアカップを手から奪って屋台に向かう白濱さん。
うわ、気遣い神っ。
エスコートキング、からの白濱王!
ん?しらは・まおう……
おお、白濱さんもマオウになるっ。
って、さっきからまたタメ語じゃないし!
言い出しっぺが率先しなくてどーすんのっ。
「ありがと悠世くんっ」
戻って来たところに、さっそくそう不意打ちすると。
一瞬面食らって、「別に」と顔を背ける悠世くんが……
可愛くてもうほんとに楽しいっ。
「で、続きは?」
おおっ、ちゃんと聞いてくれるんだっ?
しかもタメ語っ。
「えーととにかくっ、旗士さんは全然脇役なんかじゃなくて。
むしろチームを盛り上げるキーマンってゆうか、チームの名前を背負ってる骨格ってゆうか」
そう言いながら舞王を浮かべて、ふと思う。
「そう!それこそ、魔王ってゆうロックが美味しい焼酎があって。
もちろんそのままでも美味しいお酒なんですけど、氷あってこそ最高の味になるんです。
しかもロックは見た目が骨格みたいだし、まさに舞王の旗士さんは魔王のロックですねっ」
「なんか例えが職業病ですね……
でもそのお酒、今度飲んでみたいです」
「ぜひ飲んでくださいっ。
白濱さんにぴったりなお酒だと思うんで!」
白濱王だし。
今までのイメージ変わったし。
ギャップ萌えだし。
てゆうかタメ語だし!
「ほんと、悠世くんにぴったりだと思うよっ?」
「いや言い直さなくていーし」
そんな調子で、途中に屋台で買った遅めの昼食を挟んだりしながら……
祭りは見事、舞王の優勝で幕を閉じた。




