4
「いやあの……
アメレモ作るんで、大人しく飲んでてくださ~い」
「大人しくって……」
いかんいかん。
その性悪お口の余計な詮索チャックしろ、って気持ちがダダ漏れてしまった。
そこは笑って誤魔化して〜。
「はい、こちらがアメリカンレモネードになりまーす」
「あぁ、そーゆう名前なんですね……
ていうか、すごく綺麗ですね」
半透明のレモネードとボルドーの赤ワインのコントラストは、オシャレで涼しげでほんとにキレイだ。
「そーなんですっ。
しかもこんなふうにマドラーを添えたり、カラフルなストローなんかでデコすれば、ビジュアルの問題もカバー出来ますっ」
「なるほど、すごくいいと思います」
やりました!
白濱さんからお褒めの言葉いただきましたっ。
と、結局打ち合わせしてるとゆう……
その時、店内の喧騒がたまたま同時に収まって。
マイマイの声が耳に飛び込んで来た。
「あっ、アメリカンレモネード。
確かカクテル言葉は忘れられない……
打ち合わせ中なのに、あのコってばなんで今そのカクテルを作ったのかしら?」
いやそのアピールのためじゃないからー!
てゆーか姐さん演技派っ。
うう、そんな援護射撃いらないのに……
しかもいろんな視線を感じる。
チラと視界を広げると……
翔くんまでこっち見てるしー!
あぁ話がどんどん面倒くさい方向に……
「あっちに未練こっちに恋愛、興味ないくせにいい身分ですね松本さん」
だから未練ちっがーう!
し、その嫌味ムカつく~。
よーし、今度はこっちが反撃してやるっ。
「白濱さんこそ、あーんな美人にツンデレしちゃっていい身分ですねっ」
「ツンデレ?どこがですか?
だいたい僕は彼女に恋愛感情はありません」
「マジで言ってます!?もったいなっ」
「別にもったいなくは……
彼女ああ見えて一途なんで、そーゆうのなんか重いし」
「ひどっ」
すると白濱さんにジロリと睨まれる。
お、怒っちゃいました?
でもヒドいのはヒドいしっ。
「いいですね松本さんは、呑気に恋愛出来て」
おっとそっちも反撃来ましたかー。
「僕は恋愛に対してトラウマがあるんで、そんなに好きになれないんです」
え、そうだったんだ……
「だから似たような軽い感じの子としか付き合って来なかったし、最近はそれも面倒くさくて」
こじらせ系ってヤツっすか……
変に突っ込むんじゃなかった。
同じくなあたしも、そこに触れてほしくないもん。
「なんかすみません、勝手な事言って……」
「……いえ、僕もムキになってすみません。
酷いのはその通りなのに……
でもこのカクテルみたいに、気持ちの比重が違うんで、心が混ざり合えなくて」
「上手いっ」
座布団あげちゃう!
「あ、いやすいません……」
「いえ、ところでこれどーやって飲むんですか?」
「特に決まりはないですよ~。
そのまま飲んで自然に混ざるのを楽しむもよし、マドラーで混ぜるのもよし」
とそこでふと思う。
「白濱さんの心にもマドラーがあればいーと思いませんっ?
そしたら比重の壁を壊してガシャガシャ掻き混ぜられるのに。
そーだ、マドラー見つけましょーよっ」
するとふっと吹き出して、笑いを堪える仕草を見せる白濱さん。
あ、ウケた。
え、どこでっ?
てゆーかなんか可愛いんすけどっ。
「松本さんって、ほんと……」
「はい、なんですかっ?」
向けられた吸い込まれそうな目に、またドキリとしてしまう。
「ひと事だと思って呑気ですよね」
「うわ~ごめんなさいっ」
でも決して軽んじてるわけでもひと事でもないんですっ。
だってあたしもこじらせてるし……
そうやってるうちに。
見たくもないのに条件反射で、京太くんが携帯を耳に当てて外に出る姿を捉える。
そして戻ってくるなり慌てた様子で、近くにいた店長にお会計を頼んでた。
帰り際、思いっきり視線がぶつけられたのを感じたけど。
あたしはズキリと胸を痛めながらも、忙しいフリして目を向けず。
店長の声に合わせて「ありがとうございます」だけ声かけた。
「じゃあ僕も帰ります。
このあと他の打ち合わせがあるんで」
そう言って、同じくお会計しようとする白濱さん。
「いえいえっ、今日はあたしの我儘に付き合ってもらったんで奢らせてくださいっ」
「いえ、奢りなら協力しませんでした。
それに、少しは貪欲さを学んだ方がいんじゃないですか?」
そーだった!
京太くんの事ですっかり忘れてた……
となんでもそのせいにしてみる。
結局京太くんとは一言も話さなかったし、一度しか目を合わさなかったし。
こんだけ避ければもう来ることはないだろう。
「いやでもほんっとに助かりました。
ありがとうございます、白濱さんっ」
「いえ僕も、松本さんの気持ちはわかるんで」
だから助けてくれたんだ……
てゆうかあたしの気持ちっ?
なんか語ったっけ……
黒歴史から逃げたい気持ち?
まぁこじらせ系だしトラウマになるくらいだし、白濱さんも辛い黒歴史を抱えてるんだろな……
なんだか親近感と仲間意識が一気に芽生える。
そうして白濱さんを見送ると。
マイマイが心配そうに駆け寄ってきた。
「ごめん粋、オーダー取りに行ってる隙に帰っちゃったみたいで。
アタシの力不足で全然話せなかったよね?」
「いーのいーの全っ然気にしないでっ?」
それよりいいかげん、未練の誤解を解いておかねば!
翔くんにまでそう思われただろーしっ。
「そう、別に話したいとも思わなかったし!
なんか、吹っ切れてるって気付いた感じっ?」
「ほんとにっ?……ムリしてない?」
「してないしてないっ、やっと過去から抜け出せた感じっ?」
「ならいーけど……
なんかあったらいつでもいいなよ?」
「うう……
マイマイ大好き、ありがとうっ」
色々ちゃんと話せなくてごめんね……
こうして、過去の嵐は通り過ぎていったのだった。




