1
6月の最終日曜日。
ただ今、立て続けの二次会をテッカテカで頑張り中。
1組目が終わって、バタバタバッシングからの~2組目のセッティング。
今日は店長が休みだから余計慌ただしい。
あれから白濱さんは、カメラマンと店内の写真を撮りに来たり。
スタンプラリーカードや特典メニュー表のサンプルを持って来たりして……
あとは雑誌の発行を待つのみになっていた。
原稿の最終チェックは店長がしたから、どんな出来になってるか楽しみで仕方ない。
発行前日の明日には持って来てくれるらしいけど……
なにげに、白濱さんと会うのも楽しみだったりする。
せっかく相棒っぽくなれたのに、もう2週間くらい会ってないし。
あの塩対応も、ないと寂しかったりして……
まぁ白濱ロスとでも言っておこう。
副店の毒舌も嫌いじゃないし、実はまぞっ子スイちゃんなのかもしれない。
「粋ちゃん、受付さん来たから案内よろしく」
「え、もうですかっ?」
ひぃ~、まだトイレチェックも終わってないのにっ。
それでも、その他もろもろなんとか間に合わせて……
あとはしわ寄せをくらった乾杯ドリンクの手配だけ。
「おねーさん、ビールこっち!」
「はいっ、お待たせしましたっ」
そして頑張ったあたしに神様は……
「えっ……粋?」
「……っ、京太くんっ」
望まぬ再会をよこしやがりました。
「え、ここで働いてんだ?」
「えーそれでは、ドリンクの方は行き渡りましたでしょーかっ?」
京太くんの質問は司会者によって遮られ。
あたしはペコリと会釈して、ここぞばかりにそこから逃げた。
だけど店内から逃げれるわけもなく。
会が始まると結構ヒマで……
「生、もらえる?」
カウンターのビアサーバー前で、オーダーに来たヤツに捕まる。
「はいどーぞ~」
あえて他のお客様と同様に対応するも。
いや居座んないで席に戻ってー。
そこにいいタイミングで。
料理を作り終えて手の空いた翔くんが、厨房から出て来たから……
バトンタッチで再び逃亡を試みた。
なのに。
「あの時はごめん!」
ギャ〜!
そんな意味深な言葉で引き止めないでー。
そんでうわ〜!
翔くんも副店もこっち見ないでー。
と、とにかくここは穏便に……
「ううん全っ然気にしないでっ?
あたしも悪かったと思うしっ」
「……優しいよな、粋は。
俺、あんな酷い終わり方したのに……」
いや優しんじゃなくて今さら的なっ?
お願いだから忘れさせてくださいっ。
忘れられないけど……
てゆうかこんなとこでそんな話マジやめて~!
「じゃあ二次会楽しんでねっ。
翔くん!厨房なんかする事ないっ?」
もう引き止められないように、他の人に話しかけて強制終了!
だけど今度は別の問題が……
「元カレ?」
厨房に入るなり、翔くんから痛いとこを突かれてしまう。
「あ~、まぁそんなとこかなっ?」
なんでわかるのー!
ダメだ、くっそ恥ずかしい……
「なんだ、恋愛に興味あんじゃん」
んんっ?
なんだってなに、なんだって……
「いや、ははは~。
そんな時もあったかな~なんて」
お願い、恥ずかしいからもう触れないでっ……
なんで好きな人と自分の恋バナせにゃならんのだ。
そうして京太くんの事は、二次会終了までなんとかかわせたものの。
「さっきのイケメン、元彼なんだって?
粋ちゃんにも黄金期があったんだ」
当然副店からも古傷に触れられる。
ってこらこらこらこら!
思っても言わなーい。
でも確かに。
京太くんみたいな長身イケメンが、なんであたしなんか好きになってくれたのか不思議だけど。
「にしても、こんな仕事してると色んな偶然に出くわすよね~。
俺も今の嫁さんと元カノが鉢合わせした時はどーしょうかと思ったよ。
まぁ何も起こらなかったけどさ」
「わかります。
俺もこの前元カノが来た時めちゃくちゃ気まずかったし」
え、そんな事があったんだっ?
てゆうか別れたとはいえ、どんだけ前世で善行を積めば翔くんの彼女になれるんだろ……
まぁとにかく、元彼話題が終了してよかったし。
京太くんともあれ以上絡まずに終わってよかった。
そして翌日。
そんな事もすっかり忘れるほどの楽しみがやってくる。
「ああ白濱さんっ!
お久しぶりです会いたかったですっ」
2週間ぶりの対面にワンっと懐くと。
「え……」
怪訝な顔でドン引きされる。
いや別に狙ってないから警戒しないでー!
「いやあの、出来上がりが楽しみで楽しみでっ」
「ですよね。
こちらになります」
開かれたページは……
ハイセンスー!
店内写真を背景に、フェスのカクテルや店舗情報がブロック型に組み込まれてて。
そのレイアウトはアーティスティックで、まとめて映されるより個々の見映えが際立っていて…
なのにどこかあったかい。
「さすがです白濱さん!
もう神です最高ですっ」
あ、SNS映え間違いなしって……
あたしが言った事も載せてくれてる!
もう大好き白濱さんっ。
全然役に立ってないけど、一応一緒に作った企画なわけで……
「なんか我が子を送り出した気分で感動ですっ」
といっても子供いないからわかんないけど。
「よかったです。
この調子で次も頑張りましょう」
「はいっ、じゃあさっそく打ち合わせに入りますか!」
「いえ、今日はこれで失礼します。
他のクライアントさんにも届けないといけないんで」
「あぁそっか、そーですよねぇ」
ちゃんと夜カフェセットのコストを割り出して、サンプルを作る気満々だったから……
ガックリと肩が落ちる。
「なので、今週の木曜はどうですか?」
「全然OKですっ」
すると白濱さんが帰ったところで。
「粋っ、副店から聞いたよ~?」
待ち構えてたかのように、マイマイが駆けつけてきた。
「何を?」
「昨日、元カレが来たんだって?」
副店め~、せっかく終わった話を広げやがってー。
「あんたちゃんと恋愛してたんじゃん、安心した。
しかもかなりいい男だったって?隅に置けないわー」
「あ、あはは~」
自分の恋バナほんと苦手だ恥ずかしいっ。
「でもこれでわかった。
あんたが恋愛に興味ないのは、その元カレが忘れられないからだっ」
ちっがーう!
いやまぁある意味忘れられないけど……
隠してるだけで今は恋してるしっ。
ただ、恋愛する資格がないと思った理由のひとつは元彼だけど……