国外追放
と、ここでぼちぼち満足したのか殿下がふんぞり返って公女さまになんか言い始めた。どうやら断罪の仕上げにかかるっぽい。
……………は?国外追放?
いやいや何言ってんの殿下?裁判もせずに、陛下のご裁可もなしに、あんたがそんな事勝手に決められるとでも?いやホントマジで王太子だっつうなら自国の司法制度ぐらい把握しといてよ。俺でさえクレーム訴訟対策で法令関係は全部頭に叩き込んでるっつうのに、あんたどんだけ勉強嫌いなんだよ。そんなんだからあんたの成績下から数えた方が早いんでしょうが。
まあ発表される時は常にトップ3に入ってるけどさあ。でも俺知ってるんだよね、採点担当の先生と仲良くしてっから。
「………おい」
「はい、何です坊っちゃん」
小声にも即座に反応したのはうちの使用人で幼馴染の同級生。平民なんだけど、男爵家の猶子ってことにして学園にねじ込ませてある。男爵家程度だと使用人の随行が認められないから、将来性に期待して、成人まで実子に準ずる扱いで後見できる猶子制度を利用する形で「男爵家の子」ってことにして、入学資格を取らせたんだよね。そうすれば俺が学園で孤立する事もないし、それぞれで人脈広げて商会の発展にも繋げられるしな。
でも今コイツがここにいることは、そんな事よりはるかにでかいメリットになった。
「人集めて、公女さまの後追いかけろ。多分王都から一番近い国境まで護送されてポイされるから、護送が帰ったところで保護して来い」
「護送じゃなくて、バッサリだったらどうしますか?」
「さすがにそれは公爵家の離反を招くからやらんと思うが、もしそうなったら証拠集めとけ」
「了解」
「くれぐれもバレんなよ。あと公爵家にもご注進入れろ」
「分かりました」
そんなやり取りをしてる間にも、公女さまは会場警護の騎士たちに取り囲まれて連れ出されようとしてる。公女さまは声を荒げて抵抗しているし、騎士たちもやりたくなさそうではあるが、王太子の命令聞かなきゃ自分たちの身が危ういもんな。
そしてそんな公女さまの後ろ姿に、もうこれは確定だと思ったのか、この場の小僧小娘どもが何人か罵声を浴びせ始めた。
えっいや、お前らも馬鹿なの?それ公爵家に喧嘩売ってるのと同義だぞ?
いくらこの卒業パーティーが『卒業生、在校生のみ参加できる』集まりだからって、会場には教職員もいるし、運営側の使用人たちだっているんだぞ?
ていうか、いくら罪を犯したからって、そこまで悪しざまに言われなきゃならんもんかね?お前らそんなに清廉潔白なの?今までにただの一度も罪を犯したこともないと?それ胸張って断言できんのかお前ら?
とまあ、そんな罵声と怒号の中目に涙をいっぱいに溜めた公女さまは連れ出され、無情にも会場入り口の大扉は閉ざされた。
「諸君、見苦しいものをお見せしたな!だがもう悪女は裁かれた。これ以降は気を取り直して、パーティーを楽しんでくれ給え!」
爽やかな笑顔で王太子が宣言する。
いやいや無理強いにも程があるっしょ。王太子のその言葉で笑顔になってんのはさっき罵声を浴びせてた王太子派の奴らだけで、公爵家派の子女たちは不気味に沈黙してるし、俺を含む中立派の子女たちもすっげぇ微妙な顔してんだけど。
卒業する先輩たちに至っては、人生一度の晴れ舞台を台無しにされてさぞかし無念の想いだろうに、それに気付きもしないとか本当に残念だなーこの王太子は。
ていうか、外遊中の陛下がお戻りになったらコイツ廃嫡されんじゃねーの?下手したら処刑まであるかもなー。