だから俺は英雄にはなれない
「ひぃ、うぇ。グロい、グロい、グロい、なおってぇ、傷口ふさがってぇ!ヒール」
嗚咽をはきながらそう唱えると、みるみると盗賊の傷口がふさがる。
血色も良くなり、肌ツヤもなぜか髪の毛まで潤いを得ている。
傷を癒す能力だって聞いたが、結構すごいな。
てっきり擦り傷を防ぐ程度だと思っていたが、致命傷まで完全に治癒するのか。
攻撃を受ける前よりも清潔感あふれる綺麗な盗賊になっている。
「ぷぅはぁ!疲れた、結構体力使うねこれ。百メートルそう全力で走った時ぐらいには疲れた」
胸に手を当てて聖夜が息を整えながらどれだけ疲れるのか教えてくれる。
これだけの傷を治すために使った体力がそれだけとはめちゃくちゃコストパフォーマンスいいな。
聖夜の胸?はいはい、呼吸するたびに一緒に上下に運動しておりますよ。
「聖夜。俺の拳も治療してくれないか?ズキズキ痛いと思ったらすげぇ色に変色していたんだよ。」
出血はしていないものの内出血はしているらしく、碧紫色に変色しパンパンに腫れた両腕を顔の位置まで上げる。
腕がそんな色しているのにもかかわらずよくこの盗賊たち集めてきたな。
「うわ!グロ!痛い痛い痛い!ヒール」
目をそらしながら聖夜の手にそっと手を置いて唱えると聖夜の腕は元のしなやかな腕へ戻って行く。
練磨は治った手をグーパーと開け閉めしながら動きを確認する。
「サンキュー」
何事もなかったかのように頭の裏で手を組んでお礼を言う。
練磨の能力『蓮撃』は殴れば殴るだけ威力を増すみたいだがその分の反動も大きいみたいだ。
相手を素手で殴ってその反動が来ないのはおかしいからな。
女になった柔らかい手だと防御力も落ちているみたいだし、練磨には早々にグローブでも買わないといつかあいつの手いつかくだけ散るぞ。
「でもいいのか?鍍金、こいつらまた襲ってくるかも知れねぇぞ」
「ん?いいのいいの。もうこの人たちは俺たちを襲ったりしないよ。俺、この盗賊のお頭とおしゃべりしてくるから、後の人の治療お願い。もし中からさっきの三色騎士たちが出てきて見られたら困るから残りの人たち回復させたらすぐさまそこらへんの茂みに投げ捨てといて」
俺は気を失ったままの盗賊のお頭をおんぶするとそのまま馬車が見えなくなるほどの位置でおろす。
まだ気を失ったままだっらので口と鼻を両手で塞ぐ。
本当は湿ったタオルなんかが良かったがあいにく持ち合わせがなかったもので。
三、四分の時間が経過する。
初めは息ができなくて苦しかったのかもぞもぞとした動きしかしなかったが、最終的には両手両足をじたばたさせてもがき苦しみ、飛び起きる。
「ぶはぁ、はぁはぁはぁ、何だここは?地獄か?」
自分が最後におった致命傷のことを忘れていなかったらしくもう自分が死んだと思っているらしい。
すぐさま、地獄という単語が出るということはそれだけの行いをしたという実感あってのことだろう。
この世界でも地獄という概念があるとすれば天国という概念もあるのだろう。
「地獄、何て生ぬるい場所じゃないよ。残念ながら君は生き延びた。生かされた。僕という存在にね」
ニタリと意地の悪い笑みを浮かべる。
この盗賊の頭は俺が火の玉から練磨を守るため飛び出した瞬間を見てはいない。
これからこの男と関係を築くに至って、邪魔な要素は取り外していかねぇとな。
「何だお前は、俺の部下はどうした?騎士の奴らもどこに行った」
すごい形相でこちらを睨みつけてくる、盗賊のお頭。お〜怖い怖い。
どこに行ったも何も、すぐそこに居ますよ。
何て言わないけどな。
ブラフっていうのはいざって時までに黙っているものだ。
「そんなに睨まないでよ。僕は感謝されこそすれ警戒される筋合いはないよ。もう、キズは痛まないかな?」
盗賊の頭が気づいたように自分の体を触る。
特に致命傷だった斬撃の後は綺麗さっぱり消えており後すら残っていない。
「その様子だと大丈夫そうだね。安心しな君の大事な部下は僕がちゃんと匿っているよ。もちろん生きるも死ぬもこれからの君次第だけどね」
これでこちらが相手の部下の命を握っているという情報を流す。
盗賊のお頭はまた険しい顔つきになったがすぐにこうべを垂れる。
「この度は命を救っていただいたようでありがとうございます」
膝をつきまるで騎士のような風格すらある。
先ほどの三色騎士よりも騎士の風格が出ている。
なんだ、てっきり冒険者崩れのゴロツキかと思ったけどなかなかの正当な騎士様みたいじゃないか。
正当な騎士がどんなのかは知らないけど。
「いいよいいよぉ。別に僕は何にもしていないからね。そんなことよりも君ほどの男がどうしてユメデリカ王女の暗殺に協力したんだ?そんな騎士道にかけるような働きをしたんだい?」
驚いた目でこちらみる。
なるほど、元騎士っていうのはビンゴみたいだな。
誰の騎士かはわからんが。少なくともさっきの天然パーマの男の騎士ではないだろう。
「あなたはいったい?」
「あーいいよ、いいよ。君の事情はある程度あの人から聞いているから。だから君と部下は助けたんだ。かわいそうにね、あんな男のいいなりにならなきゃいけなかっただなんて。さぞ辛かっただろう。苦しかっただろう。名誉もプライドも尊厳も踏みにじられてもやらなきゃいけなかったんだろう?」
俺はありもしない、情報をさも実際に俺は知っている。
君たちの全てを調べ尽くした、同情に値する。
みたいな、思ってもいない言葉を並べる。
実際はすべて曖昧で多分とかだろうという言葉のオンパレード。
だが、その言葉でこの男の心は揺れる。震度8ぐらいまでは揺れる。
盗賊のお頭は惚けた顔で俺の話を聞いていたがだんだんとその表情が崩れていきその目からは涙がこぼれ始める。
「あぁ、そうなんです。私は嘘をついたのです!どうしようもなかったのです。私の大事な家族が人質に取られた。騎士として守るべき王族ではなく自分の家族の安全を優先したのです。すみません、すみません。アルフィス王女は今もまだ生きておられます。あの方はダンジョンで死んでなどいないのです。暗い牢屋にて押し込められています。お願いしますあの心やさしき我らが姫をお救いください。我らに騙されたと知ってもなお、我々に恨み言一つ言わなかったこの国の時期後継者を!どうか。どうか」
うつ伏せになりながら縋るように何度もなんども頭をさげる。
つまり話を要約するとこうだ。
彼らは盗賊の格好をしているが実は王国の騎士である。
それもこの国の時期国王さま、アルフィス様の騎士様ときた。
なんで第一王女の護衛が第二王女の護衛より弱いんだよ。
というか面識あるだろ、三色騎士。面識がある人物と知っていてぶったぎッたのかそれとも本当に盗賊と思って切ったのか。
で、盗賊のお頭さんの家族や他の騎士の人たちの家族がおそらくアルクセイ王子派閥の貴族やそれに関する機関の奴らに人質に取られた。
どこにあるかは知らんがダンジョンにてはめられたアルフィス姫はそのままアルクセイ王子派に捕まりそのまま死んだこととなった。
実際は生きていて牢屋に入れられているってところか。
今度はその姫を人質にユメデリカ王女を襲うよう、盗賊の格好をさせてユメデリカ王女を襲ったというわけ。
なるほど、なるほど。
聞いといてなんだが吐き気がするくらいメンドクセェ。
重いよ、こういう初期イベントって町娘や村娘の救出じゃないのか?
なんだよ姫を助けろって。
それもう最終クエストじゃん。
斧でスイッチ押して柱からマグマに落とさないと死なないやつじゃん。
でもここまで聞いておいて、そうじゃあなって言えるよなやつでありたかった。
そんなこと言える度胸があれば俺の人生もっと楽しかっただろうな。
「お前のしでかしたことは永遠に消えない。家族のためとはいえユメデリカ王女を襲い、アルフィス王女を騙した。これはまぎれもない事実だ。お前は一家全員がその責任を背負い斬首されることだろう」
俺は泣きじゃ切りうずくまる盗賊のお頭の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
一体、どんな権限があって俺にそんなことを言う資格があるのか。
我ながら笑える。
「だが、お前は戦い方を間違えただけだ。家族を守るために敵に従うという戦い方を選んでしまったが故に過ちを犯した。盗賊になりすまし、下げたくもない頭を下げ、残ったのはなんだ?罪の意識と後悔の念だけじゃないか!えらべ、俺と手を取り戦うか、死を待つだけか」
ぐしゃぐしゃになった顔でとだえ、途絶えに盗賊の頭いや、騎士はこういった。
「た、たたかう。もうこれ以上奴らの思い通りになんてならない!」
俺は騎士を抱きしめる。
肩に騎士の涙や鼻水が垂れてくるが気にしない。
「よく言った。あなたはよく頑張った。己の尊厳とプライドを捻じ曲げ下げたくもない相手に頭も下げて、やりたくもない盗賊の格好をし姫を襲った。こんなに頑張れるあなたならやり方さえ間違えなければ大丈夫だ。もう少し、もう少しだけ頑張ってくれ。あなたの敵を共に倒そうじゃないか」
もはや何を言っているかわからない騎士の男泣き。
涙を流すのはいいことだ。
かなり心が疲弊していたようだから、少しはこれで潤うといいけどな。
女神様、邪神を倒す前に世界を救う前に姫や国じゃなく俺目の前の泣きじゃくる男を救おうと思います。
前の世界でもそうしていたように、俺は助けを求める誰かを助けてあげれるやつを目指します。
だから俺は英雄にはなれない。




