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少女恐怖症  作者: 84g
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ホーさん、ナァさん、あと俺。

 それから間もなくして、由真ちゃんは目を醒ました。

 要恵さんとの抱擁は、鼻から経鼻栄養のチューブが有っても絵になりすぎた。

 というか、姉妹二人に、さも俺が解決したかのように説明するという仕事がなければ泣いていただろう。

 ホーさんは、対人恐怖症で喋れず俺の後ろから動こうとしない。

 “患者とコミュニケーションを取るのも苦労する鉄仮面未成年が治療した”と言えば、患者は不安になるから、だそうだ。

 俺は、そのための“それっぽい替え玉”の仕事もするらしい。その医者の俺が貰い泣きしていてはおかしいだろうと、堂々としていろと散々釘を刺された。


「一種のストレス障害ですよ。脳の未知の機能というか。再発の心配はありませんが、大変珍しい症例ですので原因を取り除く必要があります」

「と、言いますと……?」


 俺は懐から、さっきホーさんに渡された名刺をさも渡し慣れているという演技をしながら渡した。

 ……ヘタクソかよ、と背後でホーさんが呟いたのが聞こえた。めっちゃ動きが硬かったい自覚はある。仕方ないだろ! 名刺なんて渡したことねーよ! フリーターが名刺なんて渡したことあるわけないだろ!

 セリフ忘れそうな中で演技とかできるかよ!


「私の知り合いの弁護士です。今回の原因となったメール、こちらに相談してみてください。きっと力になってくれるはずです。料金は掛からないはずです」

「……え?」

「今回のケースは極めて珍しいケースですから。こちらで調査の予算の負担は弁護士の依頼料や調査の予算はこちらで負担します。プライバシーに関わる部分を弁護士にプライバシーを守秘義務ありますから」


 日本語喋れないのかよ、というホーさんの呆れた声が聞こえたが、もう気にしない。

 当の姉妹たちにとっては、目が覚めたらメデタシメデタシというわけではないだろう。

 三ヵ月寝ていたら体力も落ちていてリハビリも必要だろうし、学校での戦いも待っているだろう。

 ホーさんが信用しているという弁護士が味方になってくれるとしても気力のいる戦いの連続だろう。


「何か困ったら、いつでも連絡してください」


 セリフではなく、自然と言葉が出た気がした。

 俺は何もできないだろうが、それでもホーさんとその部分は共通していたと思う。

 運転手以外はなにもしてないが、ひとつの事件が終わった。次はどんな事件が起こるのか。そんな安堵感と充実感だけは有った。


「終わってないでしょ」

「終わってないね」

「……終わってないの?」


 病室を後にし、車に乗ってからのホーさんと夏華さんによる集中砲撃に、俺はマヌケすぎるリアクションしかない。

 ホーさんは一度はしまったノーパソを取り出してパタパタとキーボードを叩き、モニターを俺に向けた。

 目まぐるしく変動するモニターの映像。それは先ほどのモニター内での黒い呪いとの戦いを録画したものだということはわかった。

 そして、ホーさんがポチリと止めたとき、画面には“【LIVE】富士樹海定点カメラ”のブラウザが有った。


「ネガティブな気持ちが呪いの幾魔源になったのは間違いないだろうね。

 けど、バカに分かるようにいえば、それはリソースでは有ってもツールじゃない。ガソリンや電気だけ有っても何もできないでしょ」

「……えっと、ごめん、もうちょっと分かりやすく」

「どう分かりやすく言えば良いかな? 感情を呪いに変換した誰かがいるって言えばいい? 樹海にいる何かが呪いを発動させたって言えばいい? 樹海にこれから向かうって言えばいい?」

「めっちゃ分かりやすいです。ありがとう夏華さん」

「今の説明がわかりやすかったかね、では幸希くん、キミは私にお礼を伝えるべきではないかね」

「……? 分かりやすい説明をありがとうございました。夏華さん」

「僕はもっとステキなお礼を求めているのだよ。幸希くん。

 キミはなぜ芳香ちゃんはホーさんというステキなニックネームなのに、僕はそのまま“夏華さん”なのかね?」

「いや、だって……あれ?」


 キャリーの中から届いた詩的に、俺は回答を持っていなかった。言われてみれば、確かに、なぜだろう。

 ホーさんは最初に会ったときから警戒できていなかったし、それどころかとても仲の良い家族に再会したような気軽さすらあった。

 だから無意識に“ホーさん”という気安い感じになったのだとは思う、が、あれ……?

 俺は答えが出せなかったが、少なくとも、俺は夏華さんに対し、もっと気安くなれることを確信していた。


「悪かったです。夏華さん……ナァさん」


 夏華さんはカタカタとキャリーを揺らし、楽しげな猫の声で“ナぁ♪”と鳴いて返事をしてくれた。

 それに対し、鉄仮面を傾けてホーさんは、ぼそりと呟いた。


「……今のあだ名、私が思いつきたかったな。カワイイ……」


 いや、知らんけど。

 聞こえて欲しいならもっとデカイ声で言うだろうし、じゃあ良いや。聞こえなかったことにしよう。話が進まない。


「つまり、その富士樹海の定点カメラのところに、何かがいるってこと?」

「そう言ってるでしょ。最初から」

「で、これから行くってこと?」

「行かないって。もう暗くなるじゃん」

「行先が樹海だったら仕方ないけど、あの姉妹にまた呪いが、ってことはないのか?」

「ないね。溜まってた呪いは消したから、もう攻撃しようにもエネルギーがない。

 それ以上の仕組みも、その呪いに変えた“何か”も呪いとはもうリンクしてなかったからありえない。

 リンクしてるなら呪詛返しで返せたけど、リンクしてないなら、そもそも呪いが破られたことに気付いてすらいないのよ」


 なに言ってるか分からないけど、とにかく姉妹は無事ってことだろう。

 とにかく、そのあとの俺に残っている仕事は、近場でペットOKで当日利用可のホテルを探すことと、その部屋に恐怖症を誘発する何かがないかを確認することだけだった。

 ……めちゃくちゃ大変だったけど。

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