09話「日常②」
「鍛冶師を紹介しろと?」
「やはりアイアンシールドでは心もとないからな」
今より、もっと性能の良い盾を求めているメリッサはアルの知っている鍛冶屋を紹介して欲しいと願う。
「そのスチールソードとスチールシールドは特注品なのだろう?」
冒険者向けの総合販売所で基本的に武器防具道具が揃うのは誰でも知っている事だ。
「まぁな」
アルは職業のデメリットを装備品でカバーする為に量産品ではなく鍛冶師や革職人などに声を掛けて素材持ち込みで作って貰っている。
「あのオヤジ、気に入った奴しか打たないからな」
数年前、やっとの事でスチールソードとスチールシールドを打ってもらった事を思い出す。
「第一関門はクリアできると思うが」
「第一関門?」
「まぁ、着いてこい」
アルはメリッサを連れて生産ギルドが広がっている地区へと向かう。
その一角にある鍛冶工房の区画へと進んでいく。
周囲から鉄を叩く音が響き渡っている。
「始めて来たぞ」
冒険者が直接職人の所に来る事は殆どない。
もの珍しくキョロキョロと見渡すメリッサ。
「ここだ」
他の工房と違い小さな工房が姿を現す。
「この扉を開く事ができれば第一関門クリアだ」
アルに促されるままメリッサは両扉に手をつく。
「これは」
触って直ぐに理解したメリッサ。
「グググッ」
メリッサは全力で扉を押し開く。
ギィイイイ一
重い金属が擦れる音が響く。
ガシャァンッ
中に入った途端、扉は直ぐに閉じた。
ギィイイイッ
直ぐにアルが中へと入る。
「第一関門クリアだ。ここの爺さんはへそ曲がりでな、来る奴を振るいに掛けてるんだよ」
「だぁれがへそ曲がりじゃわい」
ズラッと左右に武器防具が並べられた店、その奥のカウンターにどっしりと座っている老人が2人を見つめていた。
「あんな重い扉がだ」
「あの程度の重さで入れないなら入店お断りじゃ」
もっさりとした髭を摩りながら老人は笑う。
「で、その姉ちゃんは誰なんじゃ?」
「よく性別が分かったな」
「全身鎧でも男と女では作りが全然違うから鍛冶師なら分かるわい」
カパッ
「初めまして、ご老人。私はメリッサという」
兜を外してメリッサは挨拶する。
「ワシゃ。ゴードンじゃ。見ての通りドワーフ族の鍛冶師じゃな」
「ゴードン殿、頼みがあり参ったのだが」
「断る!」
「話すら聞いて貰えないのか?」
「真に受けるな。ここに来る連中は大体頼み事があるから来るんだ。それを開口一番で断るのがゴードンのやり方なんだよ。俺も最初言われた」
「そ、そうか。では、ゴードン殿にスチールで武器と盾を作ってもらいたくて来たんだが」
「ほぉ、珍しいのぉ。重装歩兵の職業は滅多にお目に掛かれんな」
「私の職業は言っていないのだが」
「ワシはこれまで様々な職業の人物を幾人も見て来たわい。大体の装備で職業が分かるのじゃよ。そこの坊主レベルに珍しい職業じゃのぉ。して、スチールの武器と盾じゃな・・・あいにくスチールの原料が切れておってのぉ」
「なんで作る前提で話が進んでいるんだ。いつもの試練は如何した?」
「その扉が潜れた者が試練をクリアしておる」
「前の時はアレコレ注文しただろ」
「アレはお主がヒヨッコでワシの言いなりになっただけじゃ」
「なっ!?」
数年越しの暴露にアルは驚愕する。
クスクスクスッ
隣でメリッサが笑う。
「スチールの原材料は鉄鉱石に石炭が必要じゃ。それらを調達してきてくれ。ワシが依頼で作る前提に持ち込みが含まれておる」
「ここにあるのは?」
周囲の棚に壁に掛かっている武器防具を見渡す。
「全部、依頼品で売り物ではない」
数多あるスチール製の武器防具の量にゴードンに依頼する別の者が複数いると分かる。それほど腕が高い証拠でもある。
「鉄鉱石と石炭なら鉱山の街で手に入れられるぞ」
壁に掛かるこの国の大体の地図を指さすゴードン。
街を幾つか経由しなければ鉱山の町には到着できない。
「往復で2ヵ月じゃな」
馬車を使っても2ヵ月も原材料を取りに行く事となる。
「総合販売所で売っている物はダメじゃぞ。アレは状態の良くない物ばかりじゃからな」
鉄鉱石でも状態の良し悪しがあり大量に仕入れ販売をしている総合販売所での購入はダメだと釘を刺される。
「自らの手で原材料を取り武器防具にすれば愛着が湧くじゃろう。最近の若者は直ぐ新しい物を求めていかん。量産品ではなくオーダーメイドの方が断然長持ちするというのに」
「そういう考えも良いが、押し付けるのも良くないぞ」
「まぁの。さて、原材料を持ってきたら打ってやる」
「分かった。また来る」
「楽しみに待っておるぞ。その鎧を身に纏っている以上は死にはせんじゃろ」
ギィイイッ
再び重い両扉を開き2人は出て行く。