07話「本領発揮」
「アルさん、中々隅に置けないね」
「急になんだ?」
宿で朝食を食べていると同じ宿に泊まるノースから唐突に言われる。
「昨日はあんな美人な女の人とデートだったんでしょ?」
ニヤニヤしながらノースは言う。
ロードは我関せず、アクアは顔を赤らめてアルを見ている。
「どこでソレを?」
「たまたま、オイラ達で買い物している時に見ちゃったんだよ。アルさんが金髪の美女と喫茶店に入っていく所をね」
ノース、アクア、ロードの3人で冒険に必要な道具類の買い物途中でアルとメリッサが喫茶店に入る所を見られていた。
「あの時を見られていたのか」
「どこであんな美人と出会ったのさ?」
遠目からでもメリッサの容姿が優れているとノースは言う。
「なんか、勘違いしているぞ」
「隠さなくてもいいじゃない」
「隠すも何もお前達も知っている人物だぞ?」
「え? オイラ達の知り合いにあんな美人がいたかなぁ」
「・・・もしかして」
ロードが何かに気づいた。
「メリッサさん?」
アクアが小さくつぶやく。
「え!? あの人がメリッサさん!?」
「あぁ。あの時は礼を言いたかったらしい」
「で、でも。喫茶店に・・・」
「立ち話をする雰囲気ではなかったから仕方なくだ」
「あの喫茶店はかなり敷居が高いと記憶していますが」
「痛い出費になったな」
裕福層の人が利用する喫茶店で有名な場所だった。
「なぁんだ、オイラ達の勘違いだったのかぁ。大人なデートを見れたと思ったんだけど」
「残念だったな」
「でも、あの鎧の中身が知れて良かったかな」
いままで、決して鎧を取る所を見た事が無かった3人はメリッサの姿を見れて良かったと思う。
「くだらない事を話してないで行くぞ」
メリッサが盾職だという事が判明してビックボア狩りに向けて本格的に力を入れる事にした。
ギルドでメリッサと合流を果たして今回はファングボア討伐の依頼を受ける。
ファングボアとはビックボアの下位モンスターで体の大きさ以外は殆ど同じ姿をしている。
姿形は猪で体格も同じ位だ。ただし槍のように鋭い牙が2本前方に向けて生えており突進された際の刺突力は凄まじく生半可な盾では貫通してしまう程の脅威だ。
「新しい盾を買ったのか?」
「あぁ。盾職と分かったからな。今の所持金ではアイアンまでしか無理だった」
メリッサの左腕には昨日までなかったアイアンシールドが装着されていた。
「そのショートランスは?」
ロングソードではくショートランスが背中に付けられていた。
「教会で改めて洗礼の儀を受けたら私の職業が判明した」
洗礼の儀は何度でも行えて、5歳の時の洗礼の儀は無料で行われるが再度行う場合にお布施という形で金銭が掛かる。
時折5歳の時に職業が判明しない者が出てくる時があり時間をおいて再度行うと職業が判明する事がある。
「私の職業は重装歩兵というそうだ。盾と槍を携える盾職だそうだ」
「槍が不足していて一部分しか分からなかったのか」
「その様だ」
「職業が分かって良かったよ」
「おめでとうございます」
「これで悩まなくて済みますね」
「ありがとう。コレも皆のお陰だ・・・私の考えが凝り固まっていたから別の可能性を自ら閉ざしていた」
改めてメリッサは4人に礼を言う。
重装歩兵がどういった職業なのかに関しては実際に戦ってみないと本人も分からなく5人は早速森へと行く。
昨日までと打って変わって順調に森の奥へと進みファングボアの領域へと入る。
ブルルッ
ゴブリン達が住まう森と比べてファングボアが住みやすい環境なのか木々の間隔は広い。
「こいっ!」
メリッサが気合を入れてファングボアの注目を集める。
ブヒィイィッ
メリッサを敵と認識したファングボアが一直線に突っ込んでくる。
ここで防御がままならなければビックボア討伐は難しいとパーティー内で話し合っている。
ガガァンッ
ファングボアの牙がメリッサのアイアンシールドとぶつかり合い周囲に衝突音が轟く。
ザザッ
ファングボアの勢いを殺そうと踏ん張って止める事に成功する。
「やれ!」
「ロングショット!」
「ファイアーボール」
ドスッ
ボワッ
止まった所でノースとロードがファングボアの両サイドから攻撃する。
「スラッシュ!」
ザシュッ
時間差でアルもスキルで攻撃をする。
「はっ!」
最後にメリッサがショートスピアでファングボアの頭部を攻撃するも固い頭骨に守られて皮膚に傷を負わせるまでに終わる。
ブォロロゥ
痛みでファングボアは激しく頭を振り、体を震わせる。
ガガガンッ
メリッサの盾に牙や体が叩きつけられる。
「後ろに下がれ」
「あぁ」
ザッザッ
メリッサはバックステップでファングボアから距離を取る。
ブルルッ
暴れ終わったファングボアは再びメリッサに目掛けて突進する。
「ストロングガード」
ガギィッ
先ほどと違ってメリッサがファングボアを突進を完全に受け止めた。
魔力を消費して周囲からの攻撃を防ぐ全方位型の防御をアイアンガード、一方向集中型の防御をストロングガードといい盾職なら必須のスキルである。
不意打ちを咄嗟に防ぐことのできるアイアンガードは自身の防御力を体全体に行きわたらせる事ができる。
それに比べ、ストロングガードは防御力を2倍にまで上げて盾の範囲に集中する。
故にファングボアの突進をメリッサが完全に防げた。アイアンガードでは防御は出来ても突進力は殺せない。
「カウンターランス」
流れるようにメリッサはランスをファングボアに放つ。
ブシュッ
ブギィイイッ
今度は毛皮を貫通し胴体にランスが突きこまれファングボアは暴れ出す。
「いつの間に覚えたんだ?」
「職業が判明してから増えたのだ」
重装歩兵の戦闘方法の1つとして防御してから反撃する流れをスキルで行う事ができる。
「ロングショット!」
「ファイアーボール」
後ろで追撃が放たれた。
ブギィッ
ドォンッ
体力が尽きてファングボアは倒れる。
「よくやった」
「・・・あぁ」
久しぶりに褒められてメリッサは照れる。
「早速、剥ぎ取っちゃうね」
「やってくれ」
ノースが周囲を索敵し警戒しながらアクアとロードがファングボアから素材や討伐証明を剥ぎ取る。
モンスターの肉は魔素が浸透しており食べられないため使える部分だけを取る事にしている。
ズシッ
ファングボア1頭分の毛皮は重く持ってきていたバックパックの容量的には5頭分が限度であった。
ファイアーボールの影響で焦げてはいるが薬草を超える収入減になるため5人としては持って帰りたい。
その後、森を巡りファングボア5頭を倒した所で帰る事にする。