06話「鎧の中」
「では、これにて失礼する」
報酬を受け取るとメリッサはギルドを去っていく。
今日こそは一緒の食事をと期待していた3人が落ち込む。
「何かあるのだろう」
落ち込む3人を宥めてアル達は宿の食堂へと向かう。
「今日のメリッサさん、凄い活躍だったね」
「まさか、盾職だったとは・・・アルさんは何処で分かったのですか?」
「俺も最初は分からなかったが、盾を渡した時に俺のスキルが発動したんだ」
「見たスキルを習得する模範でしたか?」
「あぁ。アレが発動して確信した。メリッサがずっと剣に拘っていなければ早くに分かっただろう」
「でも、なんで洗礼の儀式で判明しなかったんだろう? 普通はそこで分かって職業に合う物を手に取るよね?」
「それは俺にも分からない。洗礼の儀式で職業不明だったのにも理由があると思うんだが」
メリッサという盾役がゴブリン達を退きつけ、アルがフォローに回りつつ、遠距離からノースとロードが攻撃し、回復に専念できるアクアという連携が今日のゴブリン退治で確立した。
食事を終えて部屋へと戻る。
「ステータス」
【ステータス】
名前:アル
種族:ヒューマン
レベル:18
職業:モノマネ師
体力:180
魔力:144
攻撃力:74
防御力:100
【装備】
頭:スチールヘッドギア
体:ビックボアレザーアーマー
腕:ビックボアレザーガントレット
腰:ビックボアレザーパンツ
足:ビックボアレザーブーツ
右手:スチールソード
右手:スチールシールド
【ランク】
ソロ:D
パーティー:E(狩人の集い)
【スキル】
・模範(9)
・スラッシュ
・アイアンガード
・ファイアーボール
・ヒール
・ロングショット
・パリィ
アルはスキルが2つ増えた事を確認する。
「未だに条件が分からないな」
模範で習得した6種類のスキルは様々な条件をクリアして手に入れた。
単純にスキルを見て習得するという訳ではないとアルは長い冒険者生活の中で結論付けた。
「現状維持か、新発見を求めるか」
Dランク昇格試験を終えれば臨時パーティーは解散する。
アルはその後について考え始める。
今回はたまたまパーティーに入れているが次のパーティーが見つかる保証はなく、ソロ冒険者で続けるとしてもモノマネ師の能力では低ランククエスト限定でしか活動出来ないのは明白だ。
「いっそのこと生産系にでも」
20過ぎの男が今更生産系の道に入るには遅すぎると頭によぎる。
基本的に幼い頃、その職業に適性を持ち見習いとして雇われる。
数年の修行期間を経て半人前~1人前に成長していく過程が必要だった。
アルにはソレが無く、経験のない大人を雇う物好きな雇い主がいるかは一種の賭けだった。
「現時点では難しいな」
未来の事を視野に入れてアルは眠る事とする。
・・・
「アル・・・さん」
「ん?」
朝食を食べてギルドへ向かう途中で呼びかけられたアルは振り返る。
サラッ
そこには金髪ロングで軽いウェーブ。翠色の眼に整った顔立ち、左目の眼帯が目立ち、やせ型で服の上からでも引き締まった体をしている女性が立っていた。
「・・・誰だ?」
「この姿では初めましてだ」
「その口調・・・メリッサなのか?」
「うっ・・・そんなジロジロみるな」
アルの不躾けな視線に恥ずかしそうに身じろぎするメリッサ。
咄嗟に左目の眼帯を手で隠そうと動く。
「怪我しているのか?」
「昔な・・・そんな事より今日は礼が言いたくて探していたんだ」
昨日の報酬が思ったよりも多く入り、今日は体を休める為に冒険者活動は止めている。
「礼?」
「昨日、私の職業が一部判明した事についてだ。長年不明だった事に感謝している」
スッ
メリッサがアルに綺麗な動作で頭を下げる。
その姿を見ていた周囲の人間の視線を集めた。
「礼は分かった。とりあえず、何処かの店に入るぞ」
「あぁ」
アルは少し慌ててメリッサを近くの喫茶店へと連れ込む。
「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」
「2名だ」
「あちらのテーブル席にどうぞ」
ウェイトレスに案内されてアルとメリッサは席に着く。
「ご注文は?」
「紅茶を1つ」
「私はケーキセットで」
ちゃっかりケーキセットを頼むメリッサ。
「畏まりました。紅茶とケーキセットですね。少々お待ちください」
ウェイトレスが奥へ消えて行く。
ヒソヒソッ
周囲からの視線と小声が2人にあつまる。
大抵はメリッサの容姿、対してアルの様相を見て話している。
「すまない。普段はこういう所に疎くて」
少し頬を赤らめてメリッサは俯く。
「安心しろ。俺も初めてだ」
アルも喫茶店などという店に入るのは初めてだった。
冒険者をしていると喫茶店へと足を運ぶことが殆どない。
「そうか、安心したぞ」
「お待たせしました。紅茶とケーキセットです。ごゆっくり」
テーブルに紅茶とケーキが運ばれた。
「ケーキか・・・数年振りだな」
メリッサが懐かしむようにつぶやく。
「俺は紅茶が久しぶりだ」
チャッ
テーブルに置かれた陶器の蓋を外して、小さなスプーンで茶色の砂糖を掬って紅茶に入れる。
「やはり、その動き」
「なんだ?」
アルは無意識で動いていたがメリッサからしてみれば綺麗と言わざるおえない所作だった。
「なんでもない。砂糖を取ってくれ」
「あぁ」
物音を立てずにアルが砂糖入り陶器を手渡す。
チャチャチャッ
「3杯も」
「甘い方が好きなんだ。こういう機会でなければ飲むこともないだろうし」
「好みはそれぞれだしな」
「先ほどの続きだ。貴殿のお陰で私の行く道が見えた」
「頭は下げないでくれ。周囲の目もある」
「あ、あぁ」
「礼は受け取った。用件はそれだけか?」
「今ので殆ど済んだ。ただ、私の職業が一部しか分からないのだが心当たりがないかと思ってな」
「ステータスか」
ギルドカードのステータス開示機能でメリッサの職業を見たのだろう。
「未だに読めない文字の部分があって分からないんだ」
「読める部分はなんだ?」
「×装×兵と書かれている」
「すまないが心当たりがないな」
「やはり、貴殿でも分からないか」
「教会には行ったのか?」
洗礼の儀式は教会または神殿などで行われる。
職業に詳しいのはソコで働く者達だ。
「この後、確認するつもりだ。その前に礼と確認をと思ってな」
「力になれなくてもスマンな」
「いや、一部でも分かっただけでも進歩だ」
「それは良かったな」
ゴクッ
アルが紅茶を飲み、メリッサがフォークでケーキの一部を掬いあげて口に運ぶ。
「う~ん! 久しぶりのケーキは格別だ」
ドキッ
左手を頬に当てて満面の笑みを出すメリッサにアルの心は高鳴った。
なんとか紅茶を吹き出さないでいたが、内心は驚いていた。
「(固い口調の普段では想像がつかんな)」
「今日分の食事代を削れば、なんとか」
ケーキというのは嗜好品の一つで裕福な客層しか入らないのが喫茶店だ。
アルの格好は冒険者然としていて目立っている。
メリッサの格好も町娘という感じで裕福層には見えていない。
「今日は俺の驕りだ。この後のお布施代もあるんだろ」
「い、いいのか?」
「ここは俺を立てろ」
チャリンッ
ここの代金を机に置いてアルは一足先に喫茶店を出て行く。
「案外、金を持っているのだな」
メリッサはポンっと出された銀貨を見て呟き残りのケーキを平らげる。
休日は各々過ごして英気を養っていった。