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03話「戦闘」

街から3時間程離れた街道沿いの森へと向かう。


道中は3人がこれまでどの様に過ごしてきたのか話す。


「アルさんはソロでDランク冒険者になったのか?」


「お前たちの思うような実力は持っていない。昨日、パーティーから脱退したばかりなんだ」


「え? なんで?」


「それは」


「ノース、冒険者同士には」


「詮索禁止だろ。ゴメンよ」


ロードに咎められてノースが謝る。


「思うところがあってという事にしておいてくれ。そろそろ、目的地だ」


草原が続く街道を進んでいると急に木々が生い茂り始め、森が姿を現す。


森の中には素材の宝庫であり毎日のように冒険者が出入りしている。


その反面、人間にとっては脅威となるモンスターが隠れ潜んでいる。


今回受けたゴブリン退治もその内の一つで街道を通る商人に襲い掛からない様に浅瀬付近に近づくゴブリンを間引く役割を持つ。


出現頻度が多く、基本的に弱いゴブリンの報酬は低く設定されている。


新米冒険者などが主に受ける仕事だ。


ただし、ゴブリンと侮ると帰らぬ人になる事例が過去に多数存在している。


背丈は120㎝と小柄の人型モンスター。


全身が緑色の肌を持ち、乱杭歯を覗かせて下品に笑う生き物。


武器はその辺で拾ってきた太い木の棒を振り回すしか能がないのだが、群れで襲われた時は脅威度は跳ね上がる。


他国ではゴブリンスレイヤーの称号を持つ冒険者がいる程である。


「じゃ、オイラが周囲警戒するよ」


話で聞いていた通りにノースは木の上に登って高い位置から警戒を始めた。


下に残ったロードとアクアは薬草などの街で売れる野草を採取し始める。


アルは何時でも戦えるように剣を抜いている。


「浅瀬だからゴブリンの気配なし」


木の上から逐一ノースが報告してくる。


「ん?」


移動をしながら、薬草採取をしている時にノースが怪訝の声を出した。


「どうした?」


「遠くの方から金属音が」


キンッ


言われてみなければ聞こえなかったであろう金属音が微かに全員の耳にも聞こえた。


「あっちだよ。どうする?」


「リーダーはお前だろ」


「ここは先輩に聞くのがセオリーかなってね」


「お前の指示に皆従うんだよ。様子見でも良いだろ」


「じゃ、行くよ」


タッ


周囲を警戒しつつノースが先行して離れて行く。


3人も後を追うように森の奥へと進む。


ザッ


金属音がかなり近づいた所でノースが茂みに隠れて様子見をしていた。


「どうだ?」


最小限の声で聴く。


「ゴブリン5、囲まれている」


手短にノースが答えた。


先ほどまでとは違って目が鋭くなり真剣さが伝わる。


ギャギャギャッ


ガンッ


ギッ


『おのれ! ちょこまかと!!』


固い物で金属を叩く音が周囲に響いている。


下品に笑う声と焦った高い声も続いて聞こえてくる。


スッ


茂みから少し顔を覗かせる。


木々が無い、ちょっとした広場に全身鎧を着た者がゴブリン5匹に囲まれてボコボコにされている。


四方八方から攻撃を受けて焦っているように見える。


『ゴブリン如きが私をコケにするとは!』


長い剣を振り回すも素早いゴブリン達はゲラゲラと笑って避ける。


ギャギャッー


ゴッ


『がはっ!』


ゴブリンの持つこん棒が胴鎧に入り、なぎ倒される。


ギャギャギャッ


倒れた所にゴブリン達が殺到した。


「まずいよ」


その様子を見ていたノースが飛び出そうとする。


ガシッ


が、アルが止める。


「お前が行ってどうする」


「でも、このままじゃ」


「弓使いが接近戦する理由にはならんだろう」


「あ・・・」


「ここは前衛もどきの俺が出る。3人は何時でも援護できるように準備してくれ」


ガサッ


ワザと茂みを鳴らしてアルが立ち上がった。


ゴブリン達の視線が一斉にアルへと移った。


『この私を舐めるなぁ!』


ブワッ


全身鎧にゴブリン5匹分の重さがあるのにも関わらずフルボッコにされていた者は乗っていたゴブリン達を弾き飛ばした。


『私がお前達になんぞ負ける訳がないんだぞぉ!』


地面に落ちた剣を拾い再び振り回す。


先ほどまでと同じ事を繰り返し始める。


「おい」


ビクッ


急に声を掛けられた事で全身鎧の冒険者は驚愕してアルを一瞬だけ見る。


「手助けが必要か?」


『手助け無用! 私の力だけで切り抜けて見せる!』


ブンブンッ


剣を力任せに振るってもゴブリンのスピードに翻弄されて時間の問題だと悟る。


「さっきからスキルを使っていないが、スキルを使えないのか?」


『心配ご無用。私は最初からスキルを持っていないからな』


「ん?」


スキルを持っていない・・・つまり職業なしを意味する発言にアルは疑問に思う。


『私はこれまでスキルなしで戦ってきた。剣一本だけで生きて行くと決めたのだ』


ゴブリンに翻弄されながらでも全身鎧の冒険者はハキハキと答えた。


何度、打撃を受けても倒れる素振りもしない。


ズバッ


ようやくゴブリンの一体を剣で両断する事に成功した。


『なぜ、当たらぬのだ』


「当てるのは難しいだろう。適正の職ではない武器を使うのは」


この世界の法則では職業に合う適性の道具を使う事に補正が掛かる。


剣士が剣を持って攻撃するのとそれ以外の職業の者が剣を振るうのでは結果が違う。


全身鎧の冒険者は剣を振るっているのではなく、振り回されているに過ぎない。


「早急に適正武器に変えた方がいいぞ」


サッ


アルが手を挙げて後方で待機していた3人が動く。


「ロングショット」


「ファイアーボール」


ノースとロードがそれぞれの攻撃で2体のゴブリンを遠距離から倒す。


「スラッシュ」


アルも近くに居たゴブリンをスキルで倒した。


残りの一体は全身鎧の冒険者に任せて引き下がる。


「良いのかな?」


「あのまま持久戦にもつれ込んだら流石に不味いだろうしな。この後どうなろうと知った事じゃない」


冒険者同士では暗黙の了解がいくつかある。


その一つには得物の横取りである。


先にモンスターと戦っていた冒険者から奪う行為だ。


先に攻撃したかで揉めるケースが後を絶たない。


手助けが必要な場合と判断された時は共闘という形で事に当たるケースもあるが大体は自己責任なのが冒険者だ。


今回は一度断られたにも関わらず3体のゴブリンを勝手に狩ったアル達に文句を言われる可能性がある。


「あの状況で見捨てても良かったんだが、お前達はどうだ」


フルフルフル


3人が首を横に振る。


「誰が見ても不利な状況で見捨てられないよ」


「後味が悪いですからね」


「私も同じ」


「若いっていいな」


過去の自分を振り返っても他人を助けようという考えは無かった。


全ては自分の為に生きてきたアルは3人の考えが新鮮だった。


ゴブリンの討伐部位と売れる薬草や野草を袋に入れて街へと戻る。

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