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02話「出会い」

「チェックアウトを」


朝飯を取らず受付でチェックアウトの手続きをする。


「いままで、ご利用有難うございました」


まだ12歳位の少女が目を潤ませながらアルを見上げている。


「世話になったな」


数年程、この宿を利用していたが唐突に出て行く事となった。


その間は目の前の少女や経営者である夫婦にアルバイトの少年とは顔見知りになった。


「街を出て行かれるのですか?」


「いや」


「では、このまま利用されていても」


「その様子だと、知っているんだろう?」


コクリ


昨晩、ゼルスはアルが出て行く事を伝えていたのだろう。


「今日から文無しだ。だから、続けて利用する事が出来なくなった」


前もって数日分の宿泊費を支払っておけば数日は続けて利用できるが、中級冒険者が1人部屋を維持するにはそれなりの金額を稼ぐ必要がある。


前払いする余裕はなくミレイの金銭管理の前では不要とされ。利用する時と数日の遠征時しか支払わない。


「いままで、有難うございました」


少女に見送られてアルは冒険者ギルドへ顔を出した。


「パーティー脱退手続きを」


「畏まりました。本当に脱退してしまわれたのですね?」


顔見知りまでとなった受付嬢からそう言われる。


「あぁ」


「『紅の翼』はこの街では中級冒険者として有名です。抜ける程の事でもあったんですか?」


「俺から、言い出したんだ」


「す、すみません。詮索してしまって」


冒険者同士の詮索はご法度という暗黙の了解があり、受付嬢とて例外ではない。


「今日からはソロの冒険者だからな」


「分かりました。パーティー脱退手続きは完了しました」


これでアルはDランクソロ冒険者となった事になる。


Dランクは下級冒険者の位置であり今までの様に大きな仕事は回ってこない。


「それと、これを」


チャラッ


小さな麻袋を受付嬢から渡される。


「退職金と言伝を受けています」


中身を確認すると金貨が5枚程入っていた。


贅沢しなければこの街で1ヶ月は過ごす事の出来る金額だ。


「そうか」


猶予は1ヶ月、それまでに地盤を固めなければならなくなった。


「俺でも受けられる手頃なクエストはあるか?」


「それでしたら、ビックボア討伐はどうでしょう」


ビックボア・・・通常の猪よりも巨体でその突進は木々をなぎ倒すモンスターだ。


攻略法さえ知っていれば苦労なく討伐する事のできる相手だ。


「あ! 受付のお姉さん。その人もビックボア討伐するの?」


そこで活発のいい声がアルの後ろから聞こえる。


「まだ、決まった訳ではありません」


「いやぁ、オイラ達もビックボア討伐するか迷っててさ。オジサン、強そうだしさ」


「オジさん・・・」


アルは20を超えているがオジサンという年齢ではなかった・・・が無精ひげなど生えていてそう見えていても仕方がなかった。


後ろを振り向くと15歳位の成人したばかりの少年少女の3人組が立っていた。


「同じ討伐対象なら一緒に組んだ方がいいと思ってね。オジサンが良ければ一緒に組んでくれないかな?」


まだ、変声期を超えていないのか少し高い声の少年がニコニコと話しかけられる。


「あのですね。この人は」


スッ


受付嬢の言葉をアルは手を上げて遮る。


「過去の事を持ち出しても仕方がないんだ」


「すみません。出過ぎた真似を」


「いい。それで、ビックボア討伐はそっちの3人なのか?」


「あぁ! オイラ達だけだよ」


「セリス。受けるかどうかは話を聞いた後にする」


「畏まりました」


受付嬢セリスはお辞儀して一旦離れる。


近場の丸テーブルに4人が座る。


「で、そっちの3人はどうしてビックボア討伐なんだ?」


「昇格試験なんだ。ビックボアを倒してDランクに上がる為のね。オジサンDランクなんでしょ?」


「何故Dランクと決めつける?」


「だってソロでビックボアを勧められるなんてDランクじゃないとダメでしょ?」


「よく観察しているな」


「まぁね。オイラは弓使いだからさ。目と耳が良いんだ」


背中から弓と矢が覗いている。


「Dランク昇格試験に同ランクを連れて行っても良いのか?」


「そこは抜かりないですよ」


ローブ姿の少年が横から入ってくる。


「各ランクの昇格試験にはそのランクと同じなら1人だけ許されていますから」


「私もDランク冒険者の方が入って頂けるのは安心します」


神官姿の少女が控えめに言う。


「って事でオイラ達と一緒にビックボアを受けてくれよ」


「弓使い、魔法使い、神官・・・見事に後衛ばかりだな」


アルは前衛のいない事に驚きだった。


「そう。オイラ達のパーティーには前衛がいないのが致命的なんだ」


「なら、ちゃんとした前衛を入れろ」


「それが、大盾持ちや前衛をやってくれそうな人に片っ端から声を掛けたんだけど・・・」


「断られたんだな」


「その通り」


既にパーティーとして活動している冒険者が他所の手伝いをする事は殆どない。


ソロで活動している冒険者は理由があって一人で動いているからパーティーで動くという事も殆どない。


「それで、オジサンにも声を掛けたって訳」


「もし、俺が断ったらどうするんだ?」


「このままの人数で挑むか」


「やめておけ、無謀だ」


ビックボアの攻撃を受ける前衛がいなければ全滅するのは目に見えている。


「他の街に行くかなんだよね」


「そっちの方が賢明だろ」


「でも、オイラ達って故郷の村とこの街以外の事は知らないんだよね」


長旅に慣れていない3人は他の街に向かうという選択肢は取りたくないと考えている。


「組んでも良い」


パァ!


3人の表情が明るくなる。


「ただし、俺の職業はモノマネ師だ。その事を良く考えてくれ」


「「「モノマネ師?」」」


ガンッ


3人が同じ反応を示してアルは頭を机にぶつける。


「知らないのか?」


「僕の知識には無いですね」


「オイラも知らないよ」


「私も」


「分かった、良く聞いて判断しろ」


アルはモノマネ師が何なのかを説明する。


「という事だ。よく考えて結論を出せ」


「要するに満遍なくスキルを模倣する職業ですか?」


「あぁ」


「それって凄いじゃん」


「そうだよね?」


「は?」


予想外の反応にアルが聞き返す。


「だって、見たスキルを使えるようになる職業なんでしょ?」


「という事は1人で何役もこなせる素晴らしい職業では?」


「そうだよね。凄い職業だよね」


「・・・クッ! クハハハハッ!」


モノマネ師がどのような扱いを受けているのか分からない3人の純粋な感想にアルは笑ってしまった。


「そうか、そういう考えもあるな」


「オイラは良いと思うよ」


「えぇ。前衛も出来るみたいですし。僕も賛成です」


「私も良いよ」


「お前達が良いなら一時だけパーティーに入るとしよう。俺の名前はアルだ」


「オイラは弓使いのノース」


赤茶色の髪を短く切り、ウルフレザー装備で身を固めた小柄なハーフエルフだ。


「僕は魔法使いのロードです」


黒髪に肩までかかる長い髪。青い目でメガネをかけたローブ姿の少年魔法使いだ。


「私は神官のアクアです」


深緑のショートヘアに茶色い目の神官少女だ。


今回のクエストの間だけ臨時でパーティーに入る事を承諾するアル。


「ただ、上限人数は5人なんだからもう一人入れろ」


1つのパーティーで組める人数は5人。それ以上での行動は原則禁止されている。


「もう、殆どの人に声を掛けた後だよ?」


「あくまで、Dランク以上の冒険者だけだろ」


「まぁね。Eランク以下は基本的にパーティーを組んでいるかソロ活動している連中だし」


「ソロ活動中のEランク冒険者に的を絞れ。もしかしたらビックボアを狩りたくても狩るチャンスがないのかもしれないからな」


冒険者は外に遠征して数日後に帰って来る事もある。


タイミングが悪ければノースの知らない冒険者がいるかもしれない。


「前衛のEランクソロ冒険者でDランク昇格試験目的で募集を掛けろ」


「分かったよ」


話が一旦まとまり俺達はカウンターへと向かう。


「アルさんの臨時パーティー加入手続きは完了しました。また、パーティー募集の旨を張り出しておきます」


「とりあえず、今日は低ランクのクエストでもするか?」


流石にこの場で解散して金を稼がないという訳にはいかない。


「そうだね。一応、お互いの実力を知っておきたいし」


「僕も賛成です。モノマネ師の力を拝見しておきたいですし」


「回復なら任せて下さい」


3人も賛成の様で低ランククエストであるゴブリン討伐を受ける。

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