1. プロローグ
日も傾きかけた中学校の中庭。
志倉が呼び出した相手――馬路先輩は約束通り中庭に現れた。
ハーフアップにした髪をツインテールにして、歩くたびにツインテールが猫耳みたいにぴょこぴょこ弾む。
それが幼く見えて可愛いけれど、三年生らしく発育もそれなりに……いやかなり発育がいい。
これから告白するつもりだというのに、変な気持ちになりそうな志倉はごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、馬路先輩……」
「ボクを呼び出したのは君かあ。用ってなあに?」
漫画や小説なんかをよく読むのか、ボクっ子である先輩は可愛く首を傾げた。
告白されることは毎日のようにある志倉だが、告白するのは初めてだ。
今更沸き上がってきた緊張を何とか誤魔化すように手をギュッと握った。
そして志倉は勇気を出して口を開いた!
「好きです! 僕と付き合ってください!」
志倉は右手を前に出して、頭を下げた。
ちょっと古い告白の仕方にツッコむ者はここにはいない。
そして告白したら相手の反応が気になるもの。
志倉はチラッと顔を上げて、目の前の少女を盗み見た。
馬路先輩は、ピンクに染めた頬を照れ臭そうにぽりぽりと掻いていた。
その満更でもなさそうな様子に、志倉は淡い期待を抱く。
しかしその期待は3秒でアッサリと打ち砕かれることになる。
「ごめん! 君みたいな美少年は無理!!」
馬路先輩はその豊満な胸の前で、両手で拝むようにして断った。
アッサリ振られた志倉は、まるで雷で撃たれたようにその場に崩れ落ちた。
まさか振られるとは思っていなかったからか、すぐには立ち直れそうにない。
志倉、十二歳。
美少年である彼は、生まれてこの方モテまくってきた。
そのせいか、振られるとは思っていなかったのだ!
しかし現実は厳しい。
美少年であろうと、振る人はいるのだ。
しかもその美しい顔立ちが原因でフラれるなど、誰が予想しただろうか。
自慢の美しさも目の前の少女に通じなければ、何も意味がない。
いつまでも立ち上がる様子のない少年に、馬路先輩は片手を立てて再び軽く謝った。
「ごめんね〜」
そしてツインテールをくるりと靡かせて、踵を返す。
地面に突っ伏す少年を一人残し、その場を去って行った。