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ーbeginningー

1.


一陣の風が吹いた。荒れ果てた地に根を張る名もなき草が、揺れた。


屈強な男二人が睨み合う。


刃が届かない距離だが、互いの双眸は険しく歪み、双方とも今にも刃を抜きそうな顔貌だった。


張り詰めた空気の中で、片方の男が、突然口を開いた。


「やあやあ、我こそはオチンポ侍!我の真剣を開チンさせてしんぜよう!」

オチンポ侍が勢いよく下に履いていたものを脱ぎ去ると、黒黒と隆起した一物が現れた。

身体中の血流が亀頭に集中しているかのように、はちきれんばかりに膨張している。


もう一方の男は、一瞬呆気に取られたが、すぐさま殺気の満ちた表情に戻る。

「貴様ァ!舐めては困る!いざ命頂戴せん!」

刀を構えた男は勢いよく走り出し、蹴られた土が宙に舞い散る。


刃から伝わる感触。知覚を研ぎ澄ませ、一瞬に集中する。


確かに、それは物と物が衝突した音だった。


しかし、そこにあったのは醜く切り落とされた肉塊ではない。


火花を散らせながら、剛速の刃を食い止める男根が、そこにはあった。


目を疑う男。我が生涯の中で、このようなことがあっただろうか。


ニヤリと笑うオチンポ侍。


それは、刀というにはあまりにも肉であり、肉というにはあまりに硬かった。まさに黒光りした棒だった。






2.


作業に疲れた俺は、竹原課長のPCを何気なく覗き込む。勤務時間中だが、Yahoo!ニュースをチェックしているようだ。

 かつてこの国の首相だった老獪きわまる人物の笑顔の写真が表示されていた。


 来年、東京で1964年以来のオリンピックが開催されるらしい。

そんなことが何になるというんだろう。何一つとして俺のつまらない日々を変えてはくれないだろう。

 何か世界の危機でも起きたら、なんてくだらない空想を頭の中で広げてしまう。

 それでも、そんな絵空事でさえも、今、目の前のモニターに表示されている何よりも、価値がある気がした。

 手の筋肉とソフトを使って出力したものと、親にもらった寿命を、貧相な飯に変えて生き続けている。

 そのどちらも、結局は他の誰かと代用可能だ。


 「ねぇ、俺同じことは2回言わないって言ったよねぇ?!」

 

 一瞬、空気が止まった。 

 3秒後には、「首都圏の中心にあるオチンポ・ホールディングスの本社ビル8階のオフィスの一区画」の平穏が半強制的に再開される。

 同期の小原は今日も竹原課長に陰湿に扱われて、目の端に涙を浮かべて立ちすくんでいる。


 ああいう、いわゆる「貧乏クジを引いた奴」っていっぱいいるよな。

 ホームレスとか、紛争地域で生まれた奴とか、親に虐待されて数年でこの世を去る命とか。

 ああいう奴らの屍で、この「優雅な退屈」が保たれているんだ、溜飲を飲もうじゃないか。

 「あー、斎藤、悪ぃ!」

 

 竹原課長に突然名前を呼ばれて、少しだけ身体が震えた自分にうんざりしながら、俺は返事をした。

 「すまん、小原{コイツ}と一緒にさ、オチンポ・ホールディングスの社史編纂室に行ってきてくれないか?」

 

 そんな、いかにもなネーミングの部屋があるのか。パソナルームの方がまだ婉曲的な表現だったぞ。


 「"いつもの奴"が問い合わせてくると、小原に持って来させてるんだけど、ちょっと今日は量が多いからさ」

 

 渡されたメモを見て、俺は思わず呟いた。

 

 「"オチンポ侍"に関する伝聞と研究の記録…?」

 

  

 

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