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願いを叶える電車

作者: ユンモ

「夏のホラー2020」参加作品4作目です。最終日に滑り込みしました。

「はい。あがりっと!」


「マジかぁ!5連敗・・・」


 トランプが手からパラパラこぼれた。


「お前、5連敗したらなんでもやるって言ったよな?」


 悪友の口がニヤリと歪む。


「お、おう!男に二言は無い!なんでも来い!」


 顔を引きつらせて強がった。


「トランプやりながら考えていたんだけど、いいの思いついたよ。お前、弥生駅って覚えてる?」


「やよい駅?」


「ほら、あの弥生山の中腹にある、もう何十年も前に廃線になった路線の駅でさ。小さい時に探検に行ったじゃん!」


「はいはい!あのボロい駅ね。それがどうしたの?」


「いや、それが最近うちの大学で話題になっててさ。なんでも満月の深夜0時ちょうどに、とっくに廃駅になってる弥生駅に電車が入ってくるんだって。それに乗り込むと願いが叶うんだってさ!」


「信じるか信じないかはアナタ次第です!ってか?ありがちな都市伝説だね」


 呆れたように両手をあげた。


「まぁそう言うなって。今日ちょうど満月だし、深夜0時まであと40分ぐらいだし、バイク飛ばせばちょうどいいぐらいの時間じゃん?肝試しついでに噂の真相を確かめてきてよ」


「なんでもやるって言ったしな。まぁ電車は嘘だとしても、幽霊の1匹や2匹出るかもしんないし、心霊写真でも撮ってくるわ」

 

 大学生なんて結局、ノリで生きている。有り余る時間を潰せればなんだってかまわないのだ。


 スマホと財布とバイクのキーを掴んで、ポケットに突っ込み、上着を羽織った。


「電車乗れたら、彼女できるようにお願いしろよ!」


「うっせ!」


 ニヤニヤしている悪友に吐き捨てて部屋から出た。


 夏の終わり、暑さのピークは過ぎたものの夜風は少しぬるい。


 上着は必要なかったかもしれない。


 そんなことを考えながらバイクに跨った。


 


 街灯が少しずつ減ってきて、すれ違う車も無いような深夜の山道。


 20分かけて山の中腹まで来た。


 少し広くなっている道脇の砂利にバイクを停め、ここからは徒歩で駅に向かう。


 かつては駅に向かう道だったのだろうが、今はもう生い茂った低木の木々が道を隠し、ぎりぎり通れる獣道のようになっている。


 懐中電灯を忘れたが、幸い満月が明るくて、割りと先まで良く見える。


 歩くたびに枝が腕に当たりポキポキと折れる。上着を着てきて正解だった。


 しかし最近でも人が通っているのか、道の先に枝が折れている箇所がいくつもある。


 正直、幽霊とかはあんまり怖くないが、ヤンキーとかの溜まり場になっているのは怖い。


 駅の近くまで行ってそんな雰囲気だったら、速攻で帰ろう。


 そんなことを考えながら歩くこと10分。


 道が開けて、視界の先にボロい駅が見えてきた。


 朽ちかけた駅の禍々しい雰囲気に少したじろいだ。


 しかし、ここまで来て引き返すのもなんかシャクなので、駅に歩みを進めた。


 どうやらヤンキーがいる雰囲気はない。


 駅舎に入って改札だったものを抜けると雑草が生い茂った線路と朽ちかけたホームが見えた。


 


 「うわ!!」


 思わず声を上げてしまった。


 それもそのはず、男が二人、線路際のホームに立っていたのだ。


 叫び声を聞いて、男たちが振り返る。


 背の高い男と低い男。どちらも生気の無い顔。


 しかし、どうやら幽霊ではなさそうだ。足がなかったり、透けていたり、輪郭がぼやけていたり、そんなことは無い。実体がしっかりしている。


 まぁ、実体がしっかりしている幽霊というのが存在していたらお手上げだが・・・。


「あぁ、あなたも電車に乗りに来たのですね」


 背の高い男が言った。


 良かった。やはり普通の人間のようだ。噂を聞いてきたのだろう。


「そ、そうなんですよ。願いが叶う電車とかいう噂を聞きまして」


 そう言いながら、男たちに近づく。


「そうそう。私もその噂を聞きまして。ダメもとで来てみたんですよ」


 背の低い男が言った。どうやらこちらも普通の人間のようだ。


「いやぁ、ホントなんですかね?」


「どうでしょう?もうすがる思いですよ」


 苦笑いをしながら背の高い男が答える。


「あれ。結構深刻なんですか?もし良かったら、なんで電車に乗ろうと思ったのか聞いてもいいですか?」


 深夜0時まではあと数分ある。悪友への土産話にちょうどいいと思って聞いてみた。


「まぁここで会ったのも何かの縁ですね。特に面白い話ではないですが。聞いてくれますか?」


 背の高い男がそう言って、話し始めた。


「母がね。大病を患いまして。あちこち病院を回ったんです。大きい所も小さい所も。最新医療も民間治療も色々試しましたが、ダメでした。それで、最後に行きついたのが、ここです。ホントにいい母でね。女手一つで育ててくれたんですよ。それなのに親孝行の一つもできやしないで・・・」


 最後は消え入りそうな声で言った。


 重苦しい空気に耐え切れず、背の低い男の方に話しを振ってみた。


「私ですか?まぁ私も面白い話ではないんですが、会社がね、経営不振でして。銀行ももうお金を貸してくれなくてね。さらに可愛がっていた部下が大きなミスをしまして、それが致命傷になりまして。もうお金がどこにもないんですよ。お金!お金!お金!!お金さえあれば、こんな・・・」


 背の低い男が頭を掻きむしる。



「・・・あぁ、すみません。取り乱してしまいました」


「い、いえ・・・」


 正直、もう電車とかどうでもいいから帰りたくなった。


 少しの沈黙の後、背の高い男が口を開いた。


「ところで、あなたはどうしてここに?」


 気まずい。罰ゲームでここに来たとは言えない雰囲気だ。


 とはいえとっさにウソも思いつかず・・・


「あ~、えっと。お二人みたいな深刻なやつじゃないんですど・・・彼女がずっといなくて~みたいな感じ・・・ですかね?」


 しどろもどろに言った。


「それで?」


 背の低い男がさらに突っ込んで聞いてきた。


「いや、それでって・・・いや、彼女欲しいなぁ・・・って感じで。」


 二人の男がじっとこっちを見つめている。感情が読めない。


 しばらくの沈黙のあと、背の高い男が言った。


「まぁ、人の考えは色々ですから。あなたにはあなたの事情があるのでしょう。深くは聞きませんよ。」


 何か勝手に納得されてしまった。


「ほら。もう0時ですよ。」


 背の低い男が言った。


 


 ガタンガタン


 線路の先、満月の光でも見えない暗闇の方から音が聞こえてきた。


 冗談だろ!?


 線路は雑草が伸びて、枕木も朽ち果てている。鉄のレールは曲がったり切れていたり、とてもじゃないが電車が走れるような状態ではない。


 ガタンガタン


 音が近づいてくる。


「あぁ、やっぱり噂は本当だった!良かった!」


 背の高い男が嬉しそうに言った。


「え?いや、ちょっと・・・え?マジ??」


 パニックで言葉が上手く出てこなかった。


 ガタンガタン


 電車の音はもうすぐそこまで来ている。


 ホームに光が差し込んできた。


 ガタンガタン


 ライトをつけた電車がホームに入ってきた。


 キキキとブレーキ音を響かせながら、電車はスピードを落とし、自分たちの前で止まった。


 頭の混乱はまだ解けない。


 プシューと音を立て、ドアが開く。


 男二人は意気揚々と電車に乗り込む。


 そして、電車の中からこちらを見る。


「ほら。アナタも早く。」


 手招きをする。


「い、いや。僕は・・・あの・・・」


 どうしたらいいのか分からず、後ずさる。


「何を言ってるんですか。ほら。願いがもうすぐ叶いますよ。」


 背の高い男が一度電車から降りてきて、手を引っ張った。


 ぐいぐいと強い力で引っ張られ、電車の中に無理やり入れられてしまった。


 電車の中は思ったより明るく、男二人もニコニコと嬉しそうにしている。


 この電車は本当に願いを叶える電車なのかもしれない。


 そんなことを本気で思い始めた。


 プシュー


 背中の方でドアの閉まる音が聞こえた。


「いやぁ。良かった良かった。」


 背の高い男が微笑みながら言った。


 その笑顔につられるよう言った。


「良かったですね。お母さんの病気治るといいですね。」



 するとニコニコしていた男の顔がスッと能面のように無表情になった。




「何を言ってるんですか?母はとっくに亡くなっていますよ。」


 

 無表情でそう言う男を見て、背筋が凍り付いた。


「え?え?だって。お母さんの病気を治すためにこの電車に乗ったんですよね?」


 声は完全にうわずっていた。



「そんな都合のいい話があるか!」


 今までの温厚そうなやりとりからは考えられないような鬼の形相で怒鳴った。


「え?この電車。願いを叶える電車なんですよね?」


 そう聞くと、男はまた優しい顔に戻って答えた。


「アナタは勘違いして乗ってしまったんですね。たしかに、この電車は願いを叶える電車です。」




「ただし、死にたいという願いを叶える電車ですよ。」



 男は穏やかな顔でそう言った。



「最愛の母が死んでいなくなったこんな世界に、もういる意味はないんですよ。かといって自殺するのは怖いんです。それでこの電車の噂を聞きましてね。苦しまないで死の世界に連れていってくれるそうなんですよ。あぁ、早く母さんに会いたい。会いたい。会いたい。」


 狂ったように会いたいを繰り返していた。


「え?嘘ですよね?あ、アナタはどうなんですか?会社を立て直したいんですよね?」


 背の低い男の方に尋ねた。


「会社?いや、もうどうでもいいですよ。先日、可愛がっていた部下がミスの責任を感じて自殺しましてね。私ももう疲れてしまいました。もういいんですよ。先にあの世に行った部下に『お前の責任じゃないよ』って言ってやりたくてね。もうそれだけが望みです。」


 恐怖に引きつる自分の顔とは対照的に、穏やかな悟ったような柔和な顔をしている。


 体中からドッと流れる冷や汗をぬぐいながら、振り返ってドアに近づく。


 ドアは完全に閉じていた。


 ガンガンガン!!


「あの!違うんです!僕は・・・あの!間違えて!!違うんです!降ろして下さい!!降ろして下さい!!」


 ドアを必死に叩きながら叫ぶ。


 ガタン


 電車が小さく揺れた。電車が動き始めた。


 ガタンガタン


 スピードが徐々に上がっていく。



「違うんです!降ろして下さい!!」



 叫び声だけを朽ち果てた駅に残して、電車は闇の中に消えていった。


YouTubeチャンネルやっています。⇒興味のある方は「ユンモの小説家への道」で検索してみて下さい。

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