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名もなき花  作者: 桃吉時雨
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はじまり

 少し長くなりますよ。と前書きした上で彼女は話し出した。

 

 私の家は、元々名声はそれなりにあったものの、今ほど裕福ではありませんでした。 

 しかし、ある当主の代で変化が出てきました。双子の男子です。

 兄は病弱なものの頭脳に長け、弟は観察眼と社交に長けていました。当主が急逝し、一族はどちらを当主にするか分かれました。本来は長子が継ぐ決まりでしたが、両派とも「双子ならばどちらが長子であっても変わりない」という主張になり、冷静な当人たちを横に、周りが勝手に揉めていたそうです。最後は兄弟の話し合いにより二人で一族を支えることになりました。

 外に出るのは弟。兄は家でその話を聞いたり資料を読み、二人で検討して家の隆盛に貢献しました。

 その後も時折双子が生まれましたが、その度に互いを支えあい、一族の為に努めました。勿論、双子ではない当主も一族の発展に力を注ぎました。

 一族も徐々に裕福になり、それらをもたらした当主の権力も徐々に大きくなっていきました。

 最初は上手くいっていましたが、途中で思わぬことが起きました。

 数代前の当主の時代です。

 その当主は双子ではなく、それまでもしばらく双子が産まれていなかったことから二人当主の話は家に残った資料でのみ知っていました。そして、まだ学生だった当主は資料を読みながら思ったそうです。

 「双子を上手く使えればもっと栄えるのではないか」

 大人になり、結婚した当主には双子の女子が生まれました。そして、当主は過去の自分が思っていたことを実行に移しました。

 早い段階で次期当主を決め、英才教育を施せば良いのではないかと。

 まずは双子の性質を見極めることにし、興味を引くものや得意なこと、性格を見極めました。そして、次期当主を早々に決め、一族にその旨を伝えてからは双子は違う生活に入ることになりました。時期当主は外に出て顔を売り、もう片方は当主を支えられるように得意なことを伸ばす方に努めました。双子は当主の意思通りに、互いを支えあい家も大きくなっていきました。

 双子は大きくなり、次期当主が結婚。

 本来ならばそこで当主の交代があるはずでしたが、事件が起きます。

 次期当主が男子の双子を産んだ際に思わぬ事態が起き、体調を大きく崩してしまいました。次期当主は横になる日が多くなり、当主の座は譲られることはありませんでした。更に夫も間もなく息を引き取りました。

 残された幼子たちは当主と、残った片方の双子に育てられました。

 次の双子は共に丈夫に育ち、無事に当主交代も済ました。勿論、片方は当主を支える役を担いました。

 そして、家は更に発展を遂げ、今に至ります。

 

 以上です。

 と彼女が頭を一度下げると、静寂が辺りに満ちた。

 ありがとう。と礼を言うと、彼は彼女のコップに水を注ぎ、自分の水を飲んだ。

 ふむ…と言いながら彼はもう一杯水を飲み、何かを考えるように腕を組み目を閉じた。彼女は何も言わずただじっとしている。

「まだ、面会時間はあるのかな」

 しばらく閉じていた目を開けると、おもむろに案内役に声をかけた。

「そろそろお時間です」

 視線で腕時計の時間を確認したうえで答えられると「ふむ」ともう一度言うと、姿勢を正し彼女に深々と机に額が付くほどにお辞儀をした。

「教えてくれてありがとう。

 そろそろ時間のようだから僕は帰るよ。

 また近々来る予定だから、その時は会ってくれると嬉しいな。

 今日は貴重な時間をありがとう」

 もう一度、深々とお辞儀をすると、鞄を持って立ち上がり案内役に先導され扉に向かった。

 案内役が扉を開ける直前に、何か思い出したのか、くるっと振り返り「僕が沢山話させておいて何だけど、今夜はゆっくり休んでね」と言い残し出て行った。

 扉が閉まりしばらくすると、部屋に控えていた女性が静かに立ち上がり彼女の彼女に退室を促した。

 久々に話したせいか、その夜彼女はいつになく早く眠りについた。


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