「彼女」と「彼」
限られた場面で、映像作品でいう「映る人が少ない」話が急に書きたくなって書きました。
前書きとかどう書いていいかわからないままですが…
コンパクトにまとめるように頑張りたいです。
すべては私で終わらそう。そのつもりでやってきた。私には残すものもない。
だから、私がやるべきなのだ。
ここにきて何日経ったのか。
今日も空は青く、ここは静かだ。時間通りに出される食事。空腹は感じないがある種の義務として頂く。
清潔な壁に囲まれ、小さな窓から外を見る。想像よりも穏やかな毎日にすこし拍子抜けをしつつも安堵を覚える。
定期的に様子を見に来る人も、想像していたよりも穏やかな人で時折外の様子を教えてくれる。
会話をすることがほとんどないため、声を出すのを忘れなように、持ち込んだ本をそっと朗読する。書くことがないなりに、覚えとして日記を記す。
そして一日が終わる。
そう、思っていた。
あの人が来るまでは。
外出にもってこいの青空。ほどほどに爽やかな風が吹く中、彼はある建物内を歩いていた。
シミ一つない白い壁。長い長い廊下を案内役の後を歩く。
広い間隔を開けて飾ってある絵を除いて、装飾らしいものはない。歩く二人の足音だけが響く。
ふと、防犯のために足音が響きやすくなっているという噂を思いだした。
窓の外に視線をやると、遠くに塀が見えた。
ある扉の前で案内役が止まった。
「こちらになります。
規則のため、私も同席致しますのでご理解ください」
穏やかながら、強い意志を感じる声に、彼は頷きそっと息を吐いた。
(さて。どうなることやら)
いつもと変わらぬ朝。食事をすませて外を見ていると、たまに世間話をしていく人が来た。
ついてくるように言われ、部屋を出た。部屋と同じような壁の廊下を歩き、ある扉の前に案内された。
「君に、会いたいという人がいる」
信じがたいことを告げられ。扉をあけられた。
そこには、知らない人がいた。
部屋に通され、彼が座ると同時ごろに向かいの扉が開かれた。
少女と言っても良い見た目なのに、雰囲気がやけに落ち着いている。なんとなく不安定な印象を受ける女性が入ってきた。お仕着せのだぼっとした服からの覗く手足は細く白い。こちらを向いた瞳と髪の黒さが肌の白さを際立たせていた。
部屋に待機していた女性に促され、彼女は机を挟んで彼の前に座った。
「初めまして」
彼女は何も応えない。目は合っているはずなのに意識は向いていないのが感じ取れた。が彼はそんな様子を気にする風でもなく続けた。
「初対面で僕を怪しんでるのはわかるから、まずは自己紹介から」
持参した鞄から名刺と封筒を取り出す。
「僕は武田(たけだ)と言います。誰からは言えないけど、依頼を受けて君に会いに来た。
そして、これは君の祖母殿から」
そう言い終えると、名前の横に弁護士と書かれた名刺と白い封筒をそっと彼女の前に差し出し、自分の手は机の上からどけた。
人形のように動かなかった視線が、やっと封筒の上に動いた。何かを確認するように暫く封筒を見つめ、細い指で封筒を裏返した。赤い蜜蝋風のシールがわずかに浮いていたが、彼女は何も言わず中身を取り出した。部屋に時計がないせいで時間の経過がわからない。数分だったのか数十分だったのか、紙の擦れる音だけが小さく響いた。
小さな乾いた音を立て、彼女は手紙を置き彼を見た。
「何を、聞きたいのですか」
長く話していないせいなのか、少し掠れた声で彼女は彼を見ていた。
その声も風貌と同じように落ち着き払い、瞳からも手紙の感想も伺うことはできない。
「話してくれるのかい?」
「それが貴方の目的なのでしょう。話せる範囲なら構いません」
じっと彼を見つめ続ける瞳は、変わらずこちらをを見ているようで見ていないように彼は感じた。
「さて…何から聞こうか…
初歩的なことから聞いても良いかな?」
「どうぞ。記録されていると思いますので、はっきりと言えないことも多いですが構いませんか」
「あぁ。僕は構わないよ。
その前に…」
とここで案内役に視線を滑らせ、飲み物がもらえるか尋ねた。案内役は何も言わず部屋を出、盆にコップと水差しをもって戻ってきた。
「何故」
「話すと喉乾くでしょ?」
短く聞く彼女に、早速コップに口を付けた後に彼は当然のように答えた。
「はい、君もどうぞ」とコップに水を注いで促され彼女は素直に口をつけた。
「君にとってはつまらないかもしれないが、君の家の話を聞いても良いかな。君に会いに来て言うのも怒られるかもしれないけど、なんとなくしか知らなくてね。
構わないかい?」
「構いませんが、その話で良いのですか?」
「どういう意味かな」
「てっきり、ここにいることについて聞かれるのかと思っていたので」
「あぁ。君が殺人を自供としたという件ね。
それもあるのは正直な所だけどね。さっき言ったように、君の家について僕はあまり知らないから。まずは基本が大事って言うでしょ」
自分のコップに水を注ぎながら応えた彼に、「そうですか」と彼女は淡々と話し始めた。
早目に続きがあげられるようにガンバリマス。