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09.諦められない想い人

「う~……、寝不足だよ」

「大丈夫? おぉ、立派な隈が」


 梓ちゃんってば、人の目元をなぞらないでったら。なんか目に近い所に他人の指が触れると落ち着かないよ!


「もしかして、思い悩んじゃった系?」

「そうなのかな……、なんか眠れなくて」


 しょぼしょぼしてる目を擦ると、赤くなるからやめな、と梓ちゃんが止める。仕方がないので、鞄から目薬を取り出した。


「悩むぐらいなら、とっとと終わりにしちゃえばいいのに」

「え?」

「決めてるんだったら、ズルズル先延ばしにしない」

「でも、一週間……」

「それはあっちの都合でしょ。別にそれに従う義理はないわ」

「梓ちゃんかっこいい……」

「惚れなくていいわよ」

「いや、惚れるよ!」


 特定の固有名詞を出さずに会話をしているのは、ここが教室の中だからだ。丹田くんも同じクラスだからね。それに、部室と違って誰に聞かれるか分からないわけだし。


「昼休みでも放課後でもいいから、とっととヤっちまいな!」

「キャー! 梓ちゃん素敵!」


 ノリよくキリッと決めてくれた梓ちゃんに、私は思わず抱きついた。

 そうだよね。心に引っ掛かってるなら、梓ちゃんの言う通り、とっととヤっちゃった方がいいのかもしれない。


「よしっ! 頑張る!」

「そうそう、その意気」


――――なんて、話していたのは朝のHR(ホームルーム)の後のこと。


「丹田くん。ちょっといいかな?」

「ん? いいよー」


 ようやく丹田くんを連れ出すことができたのは、放課後だった。おかげで、今日はあまり七ツ役くん観察ができてない。悔しい。もし、七ツ役くん観察日記を毎日つけていたとしたら、今日だけすごく薄くなっちゃってる。これは由々しき事態だ。こんなことが一週間も続くなんて考えられないから、やっぱり梓ちゃんの言う通り、一週間と待たずにスッパリ切り捨ててしまった方がいいんだろう。うん。スッパリサッパリズバッと。……頑張ろう。


「あのね、昨日の話なんだけど、一週間も考える時間はいらないかなって」


 目の前の丹田くんは、私の話をちゃんと真面目な顔で聞いている。申し訳ない。本当に申し訳ない!


「やっぱり私は今好きな人のことを諦めて、丹田くんと付き合うっていう選択肢を選ぶことはできない」


 よし! 用意してたセリフそのまま言えた! これでオッケー!


「……あぁ、やっぱり?」

「んん?」


 あれ、なんか反応が想定外なんだけど。ここはがっくりと打ちひしがれるところで、それを申し訳なさそうに私が背を向けるところじゃないの?


「なんかユズって、鹿宮さんと似てきたよね」

「えぇ? 梓ちゃんに?」


 どうしよう。あんなクールな梓ちゃんに似てきたなんて、すっごく嬉しい!

 たぶん喜色満面の笑みを浮かべていたんだろう。なぜか丹田くんがゲンナリとした。


「どうしてそんな嬉しそうな顔するんだか。……でも、僕は諦めるつもりはないんだけど」

「えぇと、それは、私が口出しできない問題だから、何とも言えないんだけど」


 まさかフってる私が諦めろなんて高慢なこと言えないし。本人の心の持ちようだもんね。


「だからさ、ユズがその好きな相手に告白して、付き合うことになったら諦める」

「……はい?」


 梓ちゃーん! ヘルプ! ヘルプミー!

 想定外の切り返しをされた場合はどうすればいいのさ!

 そう、梓ちゃんに協力してもらって、想定される遣り取りをある程度シミュレーションしておいたんだよ。だって、上手く断れる自信がなかったし!

 それなのに? 何これ? 想定外なんだけどー!


「だから、早く告白してね」

「えええぇぇ?」


 困惑した私にヒラヒラと手を振って、丹田くんは教室に戻って行ってしまった。

 おかしいな。相手を置いて去って行くのは、あくまで私の方だったはずなんだよ?


「……梓ちゃぁん」


 しばらく呆然と佇んでいたけれど、とりあえず親友の名前を呟いて、私はとぼとぼと教室に戻ることにした。




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