表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

20.深謀遠慮の想い人

「……にしても、意外だったわー」


 放課後、本日の告白を諦めて美術室に向かう道すがら、梓ちゃんがそんなことを呟いた。


「意外? 七ツ役くんだって風邪ひくよ?」

「そこじゃない。あたしが言いたいのは、ユズが早々に告白するって決めたこと」

「ひどい梓ちゃん! 私だって、ズバッと決心するときは決心するんだよ! 優柔不断なんて思ったら大間違いなんだから」

「そこでもないんだけどね。……だって、今月は年間通しての一大イベントがある12月よ? あたしはてっきりクリスマスをスルーしてバレンタインまでぐずぐず考えるもんだと思ってたから」


 クリスマスにバレンタイン、か。うん、確かにそう思った時期もあったよね! 1年の12月とか2月にね! 結局、コクれなかったけどね! 特にバレンタインなんてチョコ買うところまではしたのにね!


「色々とシミュレーションしてね、気付いたんだよ」

「気付いた?」

「クリスマス前とかバレンタインって、告白流行るじゃん!」

「流行るっていうか、まぁ、そういうタイミングだし」

「先越されたらどうするの!」


 そうなんだよ。シミュレーション中に気が付いたんだ。「ごめん、もう別のヤツに告白されて付き合うことになってんだ」とかお断りされるパターンがあるかもしれないって!

 ぐっと拳を握り、天に突き上げる私に、梓ちゃんから呆れた声が投げつけられる。


「去年両方スルーしたユズが言うセリフじゃないわね」


 それを言われると痛い! でも勇気が出なかったんだから仕方がないじゃん! その頃は、まだ本屋で話すなんてこともしてない頃だし。


「たまにユズがそういうふうに色々と考えてるの見ると、ユズなのにすごいなって思うわ」

「ひどい、梓ちゃん! 私だって、ちゃんと考えてるんだよ? だからこれからは『しんぼーえんりょのユズ』って呼んでくれたっていいんだからね?」


 そんなこんなで美術室に到着すると、何故か梓ちゃんは描きかけのポスターじゃなくて、ルーズリーフを1枚出して、私に向けた。


「ねぇ、ユズ。ユズの言う『しんぼーえんりょ』って漢字で書いてみて?」

「ガーン!」


 ひどい、ひどいよ梓ちゃん。確かにあんまり使い慣れない言葉だけど、私だって漢字が不得意なわけじゃないんだから。

 ……あれ、これでいいんだっけ? なんか違うような?


『芯棒遠慮』


 自分の書いた文字に首を捻っていると、梓ちゃんは無言でルーズリーフを自分の方に向けてさらさらと何かを描き始めた。

 梓ちゃんは線一本で絵が描ける人なんだよね。つい線を何本も重ねてしまう私にとっては、すごく憧れるタイプだ。


 目の前で梓ちゃんが書いたのは、水車小屋? あ、なんか水車の中央の棒の横に矢印を書いて、うーん、引っ張り出すのかな?

 そう思って眺めていたら、隣になんか太い棒を描いて、手と足をつけて、なんか汗を拭いてる感じに擬人化して吹き出しが……「ボクは遠慮します」?

 さらにスラスラと描かれた3つ目のイラストは、ドンガラガッシャンなんて擬音と崩れた小屋。


「ユズの書いた漢字を絵にしてみた」

「梓ちゃん! 漢字が間違ってるなら間違ってるって言ってくれればいいじゃん」

「いや、なんか面白くて」


 私はスマホを取り出して、「しんぼうえんりょ」を検索する。


『深謀遠慮――遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること』


 私は自分の書いた「芯棒」を二重線で消すと、その上にしっかりと「深謀」と書いた。

 さらにお返しとばかりに、顎に握り拳をつけて、「う~ん」と悩んでいる人の絵を描く。元は中国の四字熟語らしいので、古代中国の役人っぽい帽子も付け加えた。帽子の名前? そんなの知らない。


「これでいいでしょ」

「あーあ、直されちゃった。つまんない。……で、なんの話してたんだっけ?」

「七ツ役くんに告白する話だよ」

「あー、そうだった。それで、来週?」

「もちろん! まだ12月も始まったばっかだもん。告白すると決めたからには、早めにするんだから」

「おー、がんばれー」

「梓ちゃんってば、棒読みにも程があるよ……」



・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・



 わーお。今日もてんこ盛りだぁねぇ。

 そんなことを考えながら、教室のゴミをわさわさと集積所まで持っていく。寒いとちょいちょい休み時間に甘い物を取りたくなるよねー……なんて、透明なゴミ袋の中にチョコの包みを見つけて、一人うんうんと頷いていた。

 私もなんか甘い物食べたくなってきたなー。でも、お小遣いは無駄に使いたくないし、下手に本能に従って甘い物を取ると、下腹部に直結するしなー。


「ユズ」


 後ろから名前を呼ばれた。

 うん。あれだね。既視感があるね。声にも聞き覚えがあるし。

 ……っていうかね、私のことを「ユズ」って親し気に呼ぶ男子なんて一人しかいないんだ。

 あー、振り返したくないなぁ。でも、無視(シカト)するのはやり過ぎだよね、きっと。


 ちらりと廊下の窓を見ると、予想通りの人が映っていた。しかも、私と同じくゴミ捨てかと思ったら、何も持ってない。ってことは、これは偶然とかじゃないよね。向こうから話しかけるタイミングを計ってたってことだよね。そういうことなら、ここで無視しても、また似たようなことがあるわけだ。

 あぁ、面倒臭い。とっとと諦めてくればいいのに。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ