カウントダウン
そういえば、最初のお正月はお互い仕事がギリギリまであったから疲れ切って特にどこが出かける元気もなく、人混みが落ち着いた頃に初詣に行ったんだったな。
2回目のお正月は、少し仕事に余裕が出来たのでせっかくだから一緒に年越して日の出を見てから初詣に行くことになったんだったかな。その後は、解散してお互いの実家でそれぞれ過ごした気がするな。母親がどんな人なのか見てみたいと目を輝かせていたが、まだ俺は見せる段階ではないな、とまた今度な、と適当に話を聞き流していた。
一緒に年越しするのは、以前適当に歩いてたどり着いた丘で2人でテントを立てて、お酒を持っていくことにした。
いつもはテレビを見ながら、歌ったりして過ごしているので、こんなにも静かなのは僕にとって初めての経験だった。
この丘は2人でゆっくり話したいときに何度か来たんだ。
着くとロザンヌがいつものように現れて丘で黄昏ているようにも見えた。
「ロザンヌ?」
「あ、ごめんね。じゃあ行こう、渉」
ロザンヌは少し元気がないようにも見えたが、多分気のせいだろう。
僕は果てしなく呑気なのであった。
なぜロザンヌが腑抜けた返事をしたのか、やはりこの時の僕には分かっていなかった。
「留美、寒くないか?」
「うん、ありがとう。大丈夫よ。」
僕たちはせかせかとテントを立てて、時が来るのを待っていた。
そして、2019年1月1日0時がやって来た。
「あけましておめでとう。なんか2019年ってさ、なんとなく未来感が少しずつ出てくるよね。」
「たしかにそうだな。そろそろドラえもん現れるんじゃないかって子どもの頃考えてた時が着々と近づいてる。」
「でも、何も変わらない。まぁ自動車とかは少しずつ新しくなってるかもだけどね。なんかさ、2019ってキリ悪くない?私さ、2015とか2018とかなんかキリ良くて好きだったな。」
「あーなんかわかるかも。」
和やかな時間が過ぎて、それからも日の出まで楽しく話していた。
つもりだった。
《私、この丘本当はあんまり来たくないんだよな。勝とキスしちゃった夜のこと思い出すし、あれから勝はもうすっかり連絡来なくなってホッとしてるけどね。》
僕たちはこの年明けからも何度もこの丘に来ていた。
その度に留美は思い出していたのかもしれない。
ふと、彼女の顔を見ると少し辛そうな顔をしていた。
暗かったからか、初めてのことでウキウキしていたのか、相変わらず僕は気付いてあげられなかった。
《でも、渉と一緒にいれるならもう何でもいい。私はこの人に一生ついていくんだ。》
なんと、留美はそんな覚悟をして僕と付き合ってくれていたのか。
僕には彼女を幸せにする覚悟が全然足りていなかったんだ、絶対にそうだ。
結婚は30くらいだし、まだまだだと思っていた。
でも、弁解を一つさせてもらうならそれが男女の違いなのかもしれない。
ありがとう、留美。
こんな僕と付き合ってくれて、幸せだって思ってくれて、ついていこうと思ってくれて、たくさんの笑顔をありがとう。
「ほんと、こんなのについていこうだなんて彼女さんは見る目がなかったのかしらね。」
「言い過ぎだぞ、ロザンヌ」
「あら、そう。最近調子乗ってるのよ、彼女の心の声聞いて嬉しくなっちゃって。
「そんなことないさ。幸せを噛み締めてるんだ。」
今日のロザンヌは少し嫌味ったらしい。
そして、強い口調で僕は怒られた。
「そんな幸せを噛み締めてる時間があるならなんで振られたのか考えなさいよ。」
完全に逆ギレというやつだ。
僕は言い返してしまった。
「ロザンヌだって考えてないだろう。文句ばっかり言って、なんだよ。」
「誰の彼女なの?誰が幸せにすべき彼女なの?」
「幸せそうにしてるじゃないか。」
「それが何も分かってないって言ってるのよ。」
「これからまたわかることもあるだろう。」
「聞くことばっかりで、考えることはもうやめたの?そんなんならこんなツアーやっても意味ないわ。」
図星というやつだった。
聞くことで、甘えて、自分の力で考えることを最近は疎かにしていた気がする。
「ごめん。ロザンヌ。」
「次回からはもっと気を引き締めなさいよ。」
「ごめん。ありがとう。」
理由が分かれば復縁出来るかもしれないんだ。
必死に頑張ろう。
彼女が言ってくれたのは、どういう意味なのか、僕はその日のうちにもっと気付くべきだったのだ。




