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忘れ物

「まぁまぁ美味いかな、四十点」


 テーブルに並べられた有象無象の食物達に、かなり甘目のシュガーな採点。

 まぁまぁ美味しいと言うのも、凄く美味しいと普通に美味しいのちょうど中間に属する何ら特徴すら無い、もっと言えばその特徴の無さから逆に十点引いた計四十点を叩き出すほど普通の味。特に褒める所は無い。皿が質素で飾り気の無い所くらい。


「…………もう、その力は使わないで」


「おいおい、このパスタ辛いの入ってんじゃねえか……。 ちょっとコック痛めつける必要があるな」


 パスタには赤い何か、歯ごたえのある赤い何かが辛い刺激を出していた。


 この何かは何かは知らないけれど、辛いのだから良い物ではない無いだろうと予測する。


 今回の件は初犯と言う事で全治八ヶ月くらいで許してやろう。


 何せ俺は心が広い王様だから。


「その力は、誰も幸せにならない。皆を不幸にしてしまう邪悪な力なのよ」


「水ぬっる。冷たくしとけよアホがつっかえねぇ。この店潰したろか? お?」


 辛いしぬるいし特筆して美味しいと言えない雑な料理に腹ただしい気持ちを抑えるのに一苦労だ。


 水のぬるさは万死に値する。


 計四十点を与えた料理もこの水でマイナス五十点。存在する価値も無い。こんなのを食べさせられる俺の身にもなって欲しい所である。


「…………お金、持ってるの?」


「は? 持ってる訳無いだろ」


「……この後どうするつもり? 私も持ってないわよ」


「顔パスに決まってるだろ。何故俺が払わなければならないのか一向に理解に苦しむ」


「謝りましょう。これは確認を怠った私の不手際が招いた事態、お皿を洗うとかお店の手伝いをしてどうにか……」


「ふー……、ただ腹を満たしただけの料理だったな。……さて、行くか」


 満足はしていないご立腹の腹が満足したらしいので店を出る事にした。


 戸に手を掛けた所で、小太りの全身白い服を纏った愉快な姿の中年に止められた。


「お会計がまだですよ?」


「あぁ? ……うるせえなぁ。 これで良いんだろ?」


 自分のポケットから、価値のある物を手渡す。

 とてもとても、なくてはならない貴重な物。


「ちゃんと持っているのなら結構……、ってこれは……っ!! い、良いんですか!? こんな価値のある物を戴いて!!」


「あぁ、釣りはいらねえよ」


「あ、ありがとうございました! お気をつけてお帰り下さい!」


「おう」


 難なく店を出る事に成功した。

 「チーフ、何を貰ったんです?」「馬鹿! こんな価値のあるものお前に見せれるものか!」なんて後ろで聞こえる会話が実に子気味良く、うっかり小躍りをさせる程である。人間良い事をすると心が晴れやかになるものだ。


「お金、持ってたのね」


 金を持っていないと踏んでいたのだろう、何も食べなかったスノードロップが聞いてきた。

 しかしそれは、間違いの無い正しい予想だった。


「持ってねえって言っただろ? あれはただの石ころだ」


「……え?」


「脳を弱体化した、そしたらあの反応だ。さぞ珍しい宝石に見えただろうな」


 そこら辺に落ちていたと言ってもこの世界の一部だ。アルカリ金属、酸素、ケイ素、アルミニウム、叩けば価値の在る物に変わるのは違いない。

 なので問題無いと説明しようとしたのに。


「ばかっ!!!!!」


 目も覚めるような騒々しい町が、一瞬止まった気がした。

 隣で大声を上げるものだから、周りの住民が手を止めこちらにジロリと視線を飛ばす。


「な、何だよ」


「どうしてそんな事をするの! あなたは詐欺で人を騙すのに罪悪感を感じていないの!?」


「まぁ落ち着けって」


「はっきり言ってあなたは常識と! 相手を思いやる気持ちと! 罪の意識とがもろもろ欠落しているのよ!」


「うるせえよ、そんな大きい声出すな。イライラするから」


 口周辺の筋力を弱らせて黙らせてやろうか。そう思い実行しようとした。


 それに割って入ってくる愚行を撒く、愚かとしか言葉が出て来ない愚か者が一人出現した。


「いたぞ! 侵入者だ!」


 さっきの門にいた兵士と格好は一緒なので見間違いはしたが、声が別人なので別の奴なのだろう。個性が無さ過ぎてわからなかった。


 その声に応じ近くにいた兵士が群がってきた。次から次へ、餌を欲しがる雛鳥の様に口を突き出し言葉を投げてくる。


「動くな! 不法侵入の罪で身柄を拘束する! このまま逃げれると思ってくれるなよ!」


 言葉通り次々と鎧を着込んだ人間がやってくる。どれもこれも特徴と言う特徴をかなぐり捨てた無個性な連中ばかりがやってくる。

 なんて言うてる間にしっかり囲まれた。


 ……そういえばコックに罰を与えるのを忘れていた。

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