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演説

「よっしゃー! 着いたー!」


 跳ねて行くこと五分足らずで到着。


「待ってろ国民! ……あ、そうだ。案内してくれた礼をくれてやらないとな」


「いや……大丈夫……」


「ちょっと時間かかるけど、最高の光景を見せてやるよ」


「……それが終われば、私は帰れるの?」


「ん? そりゃそうだろう」


 何をおかしな事を聞いてくるんだ、用が終わればそれで済む話なのに。

 今溜め息も吐いていたし、多分疲れてるんだろうな。


 これは疲れも吹き飛ぶ様な絶景にしてやらないと。

 久しぶりに、「頑張る」と言うことをしている気がする。


「あのたっかい塔が見えるだろ? 山の隣にある、あれ。 もう少し体重軽くしてさ、上るんだ」


「……なら早く行きましょう」


 そんなに楽しみにしてくれているのか。

 笑顔の無い奴だけど、景色にはうるさいタイプか?


 ……意外と、……意外と嬉しい物だな。

 頑張ると言うのも悪くは無い気がしてきた。


――――――――。


「これが……、その景色……?」


 塔の上、見張り台より更に上。

 意味も無く高い物件を建てたかったので意味も無く建てた物件だったが、まさかこんな形で役立つとは思わなかった。


「これじゃあまだロウソクの立っていないケーキだ。ロウソクはこれから立てるんだ」


「…………?」


 空は白み始めてきてはいるが、人はまだ寝静まっている時間帯。

 こんな状態じゃあ最高の景色とは言えない。

 だからそれを見越して、下の見張り台から拡声器を持ってきた。

 材料は整ったから、後は少しクリームを乗せるだけ。


 拡声器を手に持ち。

 息を吸い。

 国に告げる。


「「サンバーク国民の諸君、ここに立つ私はサンバーク国王ユリー・フレゥール・サンバーグである。遠く晒された死の淵より舞い戻り、皆の下へ五体満足帰ってきた事をまずこの場を借りて申し上げる」」


「あなたは……、何をしているの……?」 


「まぁ見とけよ」


 町の住民も重いまぶたを擦り、姿を現し始めた。既にこちらに気付く者も少なくない。

 これならば、問題無く始められそうだ。


「「日も昇っていない朝早く、何の通達も無しにこの様な場を開いたことは申し訳無く思う。しかし騒がずに聞いて欲しい。この度、我が国であるサンバーク。その国民の一部が反乱を起こし、この王である私を縛り上げ、あまつさえ川に捨てたのだ。王である私をだ。 ……それなのに、だと言うにも関わらず、この国は寝静まっているではないか。 …………しかし、これは数時間前の出来事。国民の皆が知らなくても無理は無い。だから、私の糾弾はここから本題へと入る」」


「まさか……、演説……、をしているの……? 今……?」


 後ろに居たスノードロップは疑問の意を示すものだから、それに応え頷いて見せた。

 続く言葉は国民に対し向ける。


「「私は平和な国を作ろうとした。日々の争いや闘争は消え失せ、静かで素晴らしい国に仕上がったと心から思う。……だが、それはどうやら思い違いだったらしい。事の発端、根本の話をすればこの事件の切欠は私にある。国の内情にも気付けず、テロを起こす人間をみすみす逃してしまった王である私の責任だ。しかし、今回の件について首謀者に罰を与えようにも、私に歯向かった人間の素性を私は知らない。……だからと言う、私はこの国の王であり、全ての責任を持ち国民の頂点に立つ人間なのだから、やらねばなるまいと心に誓った。……この事から、今を持ってして国民全員と、そしてこの国を滅ぼす事と決めた」」


 町中のざわめきが聞こえる。

 殺したと思っていた人間が帰ってきて、演説を始めたのだから騒ぐのは当たり前だ。


「ふぅ……、どうだった? 俺の晴れ舞台」

  

「…………国を滅ぼすって、全てのルールを変えて奴隷だらけのディストピアでも作るつもり……? それが、あなたの言っていた最高の景色なの……?」


「そんな面倒臭い事するかよ。…………直ぐに終わるからもう少し見てろ」


 俺はこの見晴らしの高台から、町全体を見渡した。


「……もういい加減にして、この行動は行き過ぎているのよ。正直言ってつまらな…………、……何をしようとしているの? …………あなた、まさか……。 …………え?」


「ほら来るぞ、最高の景色が。良ーく見とけよ、なんせ一回しか見れないんだからな」


「……本当に……っ!? ……それは止めなさい!!! それだけは……っ! それだけはしてはいけない事なのよ!!!」


 言い終わりと同時に、町全体に大きな一本の亀裂が入った。

 その大きな亀裂から亀裂が入る。そのまた亀裂が亀裂を電波させて行き、しばらくもせず町中が無数のヒビと化した。

 町の下にある地面全体を、弱体化したのだ。


「うそ…………、遅かった…………」


 次の瞬間には、町全体が砕け、地の底へ崩落した。

 その後には誰の悲鳴も残っていなかった。


「…………なぁ、スノードロップ。俺さぁ、また国を作ろうと思うんだ。今度は反乱も争いも無い、犯罪者なんて言葉が無くなる位に完璧な世界を。……だから、俺と一緒に来ないか?」


「…………あんなにいた生物が……、建物が…………、一瞬で…………」


「聞いてる?」


「…………私が…………、私が正さなければ…………、私が、やらなければ…………、でないとまた…………」


「おーい? スノードロップー? 返答が無いと困っちゃうぞー?」


 美しい光景に見惚れてしまったのだろうか、ずっとその場を見ていながら動かない。

 ここまで喜ばれるとさすがに嬉しい気持ちにもなる。

 柄にも無く頑張ってみた結果がこれだと、素直に嬉しいと言える。

 こんな大穴を空けた甲斐はあったと言うものだ。

 

 そこから数分、じっくり景色を堪能した女がやっと口を開いてくれた。


「…………わかったわ、私も手伝う。そうすれば……」


 返答は承諾。

 つまり、これからは。


「そうか、じゃあまた一から始め直しだな。 それでは、これからよろしく頼む。スノードロップ。」


 今になってやっと起き上がった寝ぼすけの太陽が、俺達の新しい門出を祝ってくれている様だった。

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