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俺に味方しているのは、力ではなく俺自身しかいなかった

 俺は生まれながらにして、弱体化と言う特異体質を持っていた。それに気付いたのは十五の時、むかついた相手と喧嘩をしても全戦全勝だった事を不思議に思って、調べていた所この力を発見した。思えば昔から飛んでいる蝶は地に落ち、掴んだ花は枯れ果て、硬い物は破壊し、無茶苦茶だった。


 誰にも負けないし誰にも理解出来ない、そんな最強の力を持った選ばれし人間。そんな完璧超人でも弱点の一つだってある事に気付いたのは、数分前だった。視界に入らないと弱体化出来ない、それは知っていたから遠距離攻撃をされないような行動を取っていたのだから。……まさか弱点を握られる、と言うのがこれほど厄介な事になるなんて思いもしなかった。こんな無敵な力をかざそうとも、使えなければ無力になってしまう。それがどれほど愚かか、わかってはいなかった。


「スノードロップよぉ、お前が俺に勝てた事が一度でもあったか?」


「勝とうとしていなければ、当たり前の話よ」


「それは俺の力を知っていての発言か? 俺に勝とうとした事が今まであったってのか?」


「勝てなくとも、勝てるまで何度も、何度も、何度もあなたを止める」


「自分から今回は負けます、とでも言っているもんじゃねえか。それが仲間を振り回しているだけと言う事に気付けよ」


「それについては謝ります」


「謝って俺に慈悲でも貰おうって言うのかよ。……それならハンデをくれてやろう、それで満足か?」


「……ハンデ?」


「俺はこの力を使わない。スペシャルな人間がスペシャルな能力を使わない、それは立派なハンデだろう」


「……あなた、死にたいの?」


「スノードロップ程度の人間に、俺を殺されるんならな」


「人間……、人間ね……。そう、わかったわ。それでお願い」


「まぁ、それでもこの俺が負けるなんて事はありえないけどな。お前、俺だけならまだいいが今まで誰かと戦って勝ったと言う事があったか? 負けてばっかりのイメージしか無いお前に、俺が負けるとでも?」


「今日は一段と良く喋るのね」


「会話をしに来たんだから、当たり前だろ」


「私とは真逆ね、私は終わらせに来たのよ。……アザレアさん、GMさんも、これから何が起きても手を出さない事をお願いしたいんです」


 了解とばかりに頷く敵二人を尻目にした。


「だとしたら言ってる事とやってる事がめちゃくちゃだな、最初から会話なんてしなければそれでいいだろうにさ」


「行きます。ユリー・フレゥール」


「……かかって来いよ、劣等種風情」



 …………。


 ……あれ。


 ……あれ? こんなに雲が晴れてたっけ? 星が良く見える。……星が見えるって何だ。俺はあいつを見ていた筈なのに、どうして空を見上げているんだ? は? 首を上げた記憶なんて無いぞ。どうなってんだこれ。


 不思議な事ってあるもんだな。重力の向きでも変わったんだろうか、空に重力がかかるなんて面白い話だ。空に落ちるか、空の向こう側って何があるんだろうか。


 いや、何故俺は寝転がっているんだ。……痛いな。何かあごが痛い。気がするだけだろうか、すっごい痛い。


「……いってぇ」


「そうでしょうね、痛いのは人間だって証拠よ」


「……俺は一瞬で寝てしまう特技を身に付けてしまったみたいだな」


「人間は一瞬では眠る事は出来ない、何か衝撃があれば話は別だけれど」


「は? どう言う事だ?」


「あなたは多分、力だけが先行して他の箇所が置いてかれているのよ。……今まで一緒に居てそれがわかった」


「……また意味のわからない内容を喋りだす。少し会わない内に変わったか?」


「そうね。変わる事が出来た、と言うのが正しいかしらね。私も、あなたも」


「全く意味わからん」


 何で寝ていたかは知らないが、起き上がることが出来るんだから問題は無い。最近ろくに食べてなかった気がするし、立ちくらみか何かが働いたんだろうとは思うが……。この不快な感じ……。


「さぁ、それじゃあ始めようか。俺とお前の決着って奴を」


「あなたは理解出来ていないのね。……今度は見える様にしてあげる」


「何……?」


 拳が目の前に来ているのに、当たるまで気付かなかった。避ける、なんて動作は危険を察知してから自動で発動する反射神経の様な物。危険だと理解する前に危険が迫れば、身を任せるしかなかった。


 鼻が熱く、赤い血がぽたぽたと下に落ちるのをぼんやりと見ている事すら、理解するのに時間がかかった。


「……殴られたと? 俺が?」


「私が殴ったのよ、あなたが嫌うこの化物の腕で。二回殴られてようやく把握したのね」


「……はは。……ははは! あぁ、殴られた。そうだよな、そりゃそうだ。こんだけ痛けりゃ殴られているだろうな。でも間違っている箇所があるぞ、俺は別に劣等種を嫌っていた訳じゃない。……ちょっと興味があっただけだ」


「ちょっと興味があるものに暴言を吐くのが人間のやり方?」


「今日は一段と良く喋るな」


「これが最後なんだから、当たり前でしょう」


 さっきの会話を嫌味たらしく繰り返して言って聞かせる、なんて性格の悪い女だろうか。今まで殆ど喋ってこなかった癖してこんな時だけ好き勝手喋る。そんな奴は。


「俺にやられてりゃいいんだよ!」


 お返しに顔を殴ったつもりだったが、顔を横に逸らされて空を切るだけとなった。


「人を殴った事が無いでしょう、動きが見えるもの」


「はぁ? ……いってくれるじゃねえか。それなら、これはどうだよ!」


 憎たらしく突き出た角を掴んで、引き寄せて膝まで持って行った。俺の膝の皿とスノードロップの鼻頭が正面衝突をくれてやるように、勢い任せにやってやった。ありもしない事をでっち上げて生意気な口を聞く奴に対する、我流の成敗法。名づけて頭蓋骨クラッシュ。


「参ったか? やっぱりその程度なんだよお前は、誰にも一生勝てはしない」


「……やっぱり、喧嘩すらもした事が無かったのね。荒々しく勢いだけに任せた膝の使い方。……おかげで鼻の骨が折れたわよ」


「……とか言っておきながら、もう治ってるじゃねえかよ。……化物が」


 曲がった鼻を元の位置に戻した瞬間には出血も止まり、内出血で青くなった肌も元通り。何の言い訳も無い、人とは掛け離れた単純な化物の姿がここにはあった。


 攻撃しても回復されたんじゃ話しにならない。徒労もいいところだ。


 だったら。


「だったら治らないまでボコボコにしてやるよ!」


 右手を繰り出し、左手を繰り出し、時には蹴ったり足技も欠かせない。まるで舞う様に人間のなりそこないに攻撃を加え続けた。自分でもほれぼれする様な流れる攻撃が出来る、こんなに舞踏家の才能があるのならもっと早く気付くべきだった。戦闘力もあるし権力もある王なんて神に等しい存在じゃないか。なんなら俺が神を殺してやろう。そう言う事を言って見せれるくらいの、俺は純粋な天才なのだと、天に中指を立てながら言い放てる存在なのだ。


 こうやって攻撃を一切止めず、反撃も許さない怒涛の攻めを繰り出せる事自体が才能と言える証拠。何故こんなに愛されているのだろうか、何故こんなに俺だけに力が集まってくるのだろうか。天才過ぎて涙が出て来る。


 ……なんて、今までの俺なら考えていそうだが……。


「……はぁ。……はぁ」


「もう終わり?」


「……本当に嫌な奴に成り下がったなお前。……わかってるよ、お前のその回復力異常な事くらい、これが無駄な事くらいな。…………う゛っ!?」


「お返しよ。私だって、ちゃんと痛いんだから」


 ……腹を殴りやがった。今までろくに暴力なんて振るわなかったくせに。……くそ、みぞおちに入った……。


 ……あっ。


「う……、お……、うおぇええええ!!」


 …………くそっ! まださっき食ってやった米が残ってたのか、とっとと消化されてろよ。俺の血と肉になるくらいの役に立つ事も出来ないのかよ、この出来損ない……。


「……くそがぁ! ふざけるのもいい加減にしろよ!」


「……無理でしょ」


「あ!?」


「力を使わないあなたが、私に勝てる訳無いじゃない」


 言い切った。言い切りやがった。


 いい気になりやがって、俺がちょっと温情を見せてやれば調子に乗りやがるその姿勢は無性に腹が立つ。


 力なんて使わなくても、こんな奴に負ける訳が無いんだ。


「俺が何故、王と言われていたか知っているか……?」


「そう呼ばせていたんでしょう。自分を王様だと思い込んで、自分が偉いと信じきって、自分が選ばれた人間だと調子に乗っているからそうやって破綻したのよ」


「……黙れよ劣等種がぁ!」


 胸倉を掴んで殴ってやった。生意気な事を言っている化物を黙らせる為にやった。と言うのに、一切動じないのだから嫌になる。


 何て思っている矢先、オレがさっきやった事をやり返してきた。頭を掴んで、足まで持って行き膝を俺の鼻っ柱に叩き付けて見せる。


 自然と涙が込み上げて来る痛みと、熱い液体が鼻の中から美味しいクリームよろしくとろりと滲み出て来た。


「ぐっ、……あぁ……。てめぇ……」


「……自分でも不思議に思うのよ。恨みがある人間に対しては、ブレーキなんてほとんど効かせるつもりが無いって事に」


「……化物アピールしてんじゃねえよ!」


 一発。二発。三発、もとい散発。何度も殴って見せるが、それを受けたり避けたりしてかわしてくる。


 当たらないし、当たった所で直ぐに回復する。意味が無いとわかっていながら、それでもムカつく相手には手を止める訳にはいかなかった。


「ごめんなさい」


 スノードロップから謝罪の言葉が聞こえた。その言葉が耳に入って、頭で何を言ったか理解した時には体は吹き飛んで宙を舞っていた。と理解した時には岩壁に体を預けていたのだから、さすがに一つ学習した事がある。


 こいつ、こんなに強かったのか。今まで回復力だけが取り柄だけのどうしようもない混血だとばかり思っていたかが、中々どうして勝ち目の無い能力ばかりを取り揃えてしまったんだ。不のバーゲンセールか?


 俺はこんな奴に負けるのだろうか。劣等劣等と馬鹿にしたあいつに負ける。……それは無いだろう。俺を騙して、他の奴に売って自ら王の座を奪い取った奴だぞ? それに負けるなんて、王としてのプライドが許しはしない。


 だから、前言なんて無かった事にしてもしてやれば良いんだ。無かった事にすれば約束を破った事になんて、そもそもならないんだからさ。最初からそうすればよかった。


「どうやっても私には勝てない、あなたはこれから償いをするのを」


「……いい気になるな、と言った筈だぞスノードロップ」


「それは負け惜しみ? ……うっ!」


「これは勝ち惜しみだ。勝つのが惜しくて惜しくて仕方が無い。この力を披露するのがな」


「……もちろん、本気で使わないなんて思っていなかったわよ。それでも、変わったんじゃないかって。……少し、信じてたのに」


 使い勝手が良い。視界に入れるだけで相手を無力化出来るなんて最高だ。こんなの持ってれば負けるなんてありえない。目の前の女も、あんなに荒ぶっていたのに悔しがってぶつぶつと何か言う事しか出来ない無様な姿になっているのは少し面白い。


 俺はやっぱり誰にも負ける事は許されない人間だったのだ。王が王たる所以は絶対王者だから言える事、強いから、誰にも負けないから俺なんだ。


「さぁスノードロップよぉ、これからどうする? 体中に力が入らなくなったお前がこれから何をする?」


「次のチャンスに掛けて、あなたを倒します」


「そうかよ。……アザレア、お前は良いのか? これは不公平極まりないだろ? お得意の介入をしなくていいのか?」


「スノーさんが決めた事ですので、わたくしは見守りますわ」


 いつものと変わらない顔で、平然とそう言った。


「お前仲間にも見捨てられたな?」


「アザレアさんは仲間思いの人よ、そうでなければ加担しているでしょうね」


「あ?」


「……私は本当に、化物なのかもしれない」


 そう言いながら、スノードロップは二本の足で立ち上がった。全身に力が入らないはずなのに、はずなのにゆっくりと力を入れていた。


「お前……、何で立てるんだ?」


 この力にも時間制限はあるし、その時間が過ぎれば強度は元通りになる。が、それでも五分以上は効き続けると言うのに、こいつは十秒そこいらで立ち上がったのだからおかしいって話だ。


「何度も何度も、あなたの弱体化を受けてきた屈辱の証でしょうね。耐性が出来てしまった」


「……んなわけあるかよ! 無敵の俺の力に対処法なんてあるわけ無いだろ! 耐性だぁ!? ふざけんのもいい加減しろよ!」


「私を化物にしてくれてありがとう、ユリー・フレゥール」


「真顔で何言ってんだ劣等種がぁ!」


 さっきからずっと使っている。弱体化をし続けている。それでも足を止めずに歩み寄って来る名誉化物。


「来るな! よるな! 近寄るなよぉ!」


「……さよなら」


 体のどこに激痛が走ったのかもわからない痛みを感じて、意識を落とした。 

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