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スノードロップ

「あぁここか、町の近くの村って。すげぇ質素で貧乏臭そうだ」


 歩いて歩いてまた歩いて、心が二つに分かれてしまいそうな苦痛苦悩苦難を乗り越えなんとか辿り着いたは一つの村。人が住んでいるのかよくわからないくらいにボロボロめいた家々が連なる、言ってしまえばゴーストタウン。どう見てもヴィレッジなのにタウンとは片腹痛い。


 こんな村に着くまでに、道中よく分からない生物や盗賊に襲われたりしたけれど、ほぼ無敵としか言いようの無い完璧人間の俺にはなんら関係の無いアクシデントだった。目に入ってしまえば勝ちが確定するのだから、負ける訳が無い。これで負ける奴はアホだ。


「うわぁ……、看板くらい立て直せよ。入り口の顔だろうがよ……、意識が低いわ」


「…………」


「で、何でお前はさっきから喋んないの?」


「……何で私達は、こんなに見られてるの?」


 こっちが聞いたのに逆に質問されてしまった。


「俺が質問してんだよ」


「…………その質問を袖にしてでも、優先して聞きたい事があるのよ」


「失礼だと思わないのか、他人を蔑ろにして自分を最優先とするその考え方。 ……それとも、舐めてるのか?」


「…………どの口が言っているの」


「この口だよ。見えるか? この王の口が言っている」


「……わからない、知らない」


 あぁ言えばこう言う。器量の小さい言い訳でその場を凌ぎ、難癖付けてこの場を逃す。

 そういう女だと、今わかった。

 しかしこうやって分析している時にも邪魔は横から入ってくるのだからやってられない。

 

「こ、ここから出て行け! 疫病神め!」


 一人の若者。目の前に立ち塞がり、一本の槍を携えてこちらを睨む。


「……あ? 初対面が初対面の人間に何やってんの? それ、危ないから下ろせよ」


「初対面では無い! 俺を忘れたか独裁者!!」


「捨て台詞が過ぎるぞ。そんな下品な喋り方をする底辺を俺は知らない。下がれ」


「な、何ぃ……!? てめぇ……、自分の物差しで全てを計るなよ……?」


 知らないし覚えが無いと言う事を正直に言っているのに、何が駄目なんだ。理解不能なんだ。

 こんな村人、本当に知らない。ただの言い掛かりで八つ当たりをされている。


「お前がいたから……、お前がいたからあの町は……、そしてこの村はおかしくなった……、お前さえいなければ……」


「どけよ、農民」


「……恨みはある! 安らかに死んでくれぇえええええ!!」


 一心不乱。字にすればこの四文字が思い浮かぶ様な必死の形相で槍と共に体当たりを仕掛けてくる。


 目の前に立ち塞がる物は全てを突き刺し、邪魔する者は誰であろうと関係無い。そういう力意気が槍から伝わってくる。 


 けど、伝わるだけでは相手を殺す事は出来ない。


「俺を知っているのなら、こんな事は無駄だって分かるだろ。途方なんだよ」 


「……くそが……っ!!」


 槍は一定の場所から、まるで紙の様に槍はひしゃげている。それを心臓に立てようが紙と同等の強度の物で攻撃されても効く訳が無いのだ。


 最早ただの棒を持っているだけの農民の腕を掴み、そして腕を見る。そこそこに鍛えているらしい腕っ節だが、その腕も強度が落ちれば簡単に果てる。


 腕を握ってみた。そうすると肘と手首の間に、もう一つ関節が出来上がった。


「次は右腕だ。その後は両足、その後は……、まぁ今回は四肢だけで許してやろう」


「え……? あ……。え……? 腕……。俺の腕が……? あ、……ああああああああああ!!!」


 前腕にある二本の骨が腰を落とした。


 無礼な犯罪者に対する罰と仕打ち、四肢の骨を折られる程度で済まされるのだから感謝して欲しいまである。


 それじゃあ次は右腕だな。


「止めろ! それ以上クロート兄ちゃんに手を出すな!」


 その声は、家の窓から上半身を乗り出し抗議してくる少年だった。


「……ざ、ザック!? 馬鹿野郎! お前出てくるなって! 言っただろう!?」


「に、兄ちゃんからその手を離せ! は、離さないと……、離さないとどうなっても知らないからなぁ……!!」


 矢の射出装置、ボウガンを向けて言葉を飛ばしてくる未発達の子供。


 威勢だけはいい少年だが、矢も入っていないし弦すら引かれていない物を向けられても脅しにすらなっていないけれど、仮にも矢が入っていたら大変だ。


「あのアホはお前の弟か?」


「ち、違う……っ! 関係無い!」


「じゃあ、問題無いな」


「……何っ!? 違う!! 弟だ! 止めろ!! 止めてくれ! ……お、おい君! 連れの者だろう!? こいつを止めさせてくれ!!」


 連れの者?

 あぁ、雑種か。ただ見ているだけのそいつに話し掛けたのが間違いだったな。一体何が出来るものか。


「…………ごめんなさい、今の私では……」


 何に対してかよくわからない謝罪の言葉を返すだけの事しかしなかった。


 さて、先にあの子供から罰を与えるか。

 

 多分あそこ辺りを弱体化すれば……。


 家の支柱とその周りの地面を一瞥した。そうすると二秒後には、強度を落とした基礎が自重に耐え切れずメシメシと音を立てて壊れ始めた。それに続き上に乗っかっている壁や天井、家全体も後を追い崩れ出す。


 中にいた少年は家の異変に気付き、周りを見渡しながら慌てふためいているその顔を、瓦礫が覆った。


「う、嘘だろ……? お前……、何やってんだ……? 仮にも王ともあろう者が……、……何をやったんだ!!!」


「何をって、王に対しての愚行を……お?」


 目の前にいたクロートとか言う男は、俺の話すら聞こうとせずに一心不乱にゴミに向かって走り出した。


 折れた腕でゴミを掻き分け、折れていない腕でゴミを持ち上げ、折れれば楽になる心でゴミを漁り出し、瓦礫に埋もれた子供の名前を呼びながら漁っている。


「何だよ一生懸命になっちゃって、俺はあぁはなりたくないな。さぁ行こうぜ、まだ本来の目的が終わって無いからな」


「…………ごめんなさい……、ごめんなさい……」


「ん? おい……、どうしたんだ?」


 何故か俯き、泣きながら謝っていた。

 破片でも飛んで来たのだろうか。


 怪我をしたら痛いものな。泣くのも仕方が無い。

 案内をしてくれる親切な者が怪我をして、反抗をして来る者は怪我だけで済む。


 なんて不平等な世の中なんだ。

 そんな理不尽な世界は俺が変えて行かなければならない。


 王の役目を果たさなければならない。

 その為には、早く町に帰らなければ。


――――――――。


 村を出るまでに村人から何らかの眼差しを全身に浴びた。


 歯向かって来る火の粉を、王自ら払う事が出来たのだから尊敬されても仕方が無い。手下に守ってもらう軟弱な王とは一味も二味も違う、俺は味付けどころか素材からして違うのだから。


 罰せられる程の行為をした犯罪者には、少しの容赦と少しの赦しを持って罰を与える、それが俺のルール。


「そういえばお前、名前は何て言うんだ?」


「…………」


「名前は?」


「…………」


「ん、あれ? 名前を聞いてるんだけど」


「…………スノードロップ……です……」


 スノードロップ。

 とても寒そうな名前だな。

 雪が、落ちる。


「にしてもこのまま歩くのも面倒臭いな……、まだ結構距離あるしなぁ……」


 あれをやってみるか。

 調整が難しいからまだまだ試験運用が必要な不完全な物だけど、まぁ大丈夫だろう。


「……? ……また私に、何かした……?」


「気付くのが早いな、体重を軽くしたんだよ」


「……どうして……?」


「空を飛びたいと思った事って無いか? ……こうする為にだ!」


 雑種の……いや、スノードロップの腕を取って地面を力強く蹴ると、その反動で体が浮く。

 実に五メートルばかり。


「こうして行けば早いだろ?」


 跳ねて行けば歩く必要も無い。


 この浮く様な感覚が嫌で嫌で仕方が無いけど、背に腹は変えられないと言った所で。


 こんなに風当たりが良く星空が綺麗なのに、スノードロップは怯えた様な表情なのが気にはなる。

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