アザレアは信用なら無い女だと、俺は終始言っている
ここにも久しぶりに来た。色々ごたごたがあったが、始まりはこんな湿気た所からだと思うと少し億劫になる。
この森に足を踏み入れては見たが、特に変わっていなかった。森が三分の一くらい炭になっていたが、それもサイクロプスが放った光線のせいだった。燃え広がった火はスノードロップ一人で必至に消化していた、俺は何もしなかった。
こんなに広い範囲燃えていたのかと、ただそう思った。そういえばサイクロプスは何をしているんだろうか、角を折ってからはどこかに走ってしまったが、あんな巨体じゃあ隠れる術も無いだろうに。
月明かりだけだとやっぱり結構暗いな、どうしても視界が狭まる。何か持って来るべきだったな。
なんて思っていた拍子に、足元が疎かになっている所を草木が襲ってきた。顔からこけてしまった。
「いって……」
その時何かが通過する音が聞こえた。俺の、さっきまで頭のあった場所を、何かが通過したのは気のせいだろうか。
少しして乾いた音が森全体に響いた。物を弾いた時にする、乾いた音。
「……狙われてる。あ、俺狙われてる……? ……ふざけんな!」
この森も誰も居ない内に誰かが居ついたか、それとも新種の生物か。どちらにしても立ち止まる事は許されない。
五秒に一回は何かが俺を目掛けて飛んで来る。その一回一回の威力も大木を破壊する程度。つまり当たれば致命傷。
こんな下種極まりない事をする奴は、見つけ次第足の指の爪を剥いでその箇所に針で刺してやる。と言う思いを持って走るも、相手が見えない事にはどうしようも無い。弱体化の力を使うには対象を視界に入れなければならないのに、これでは暗い上に距離が離れていてどう考えても無理だ。だから腹が立つ、姑息な手を使って相手を追い詰めるやりかた。
……いや、自分が弱いという自覚があるから遠距離での攻撃を仕掛けている。この物体が飛んでくる方向に向かえば、良いんだろうがこの森の中だ、直ぐにまた逃げられる。……こう言う場合ってどうすれば良いんだ? 力を使えばどうにでも出来るが、そもそも使えない場合は何をすればいい。
とりあえず飛んで来る方向は解っているのだから、壁を作るんだ。樹を何本か折ってその影に隠れれば……、飛んで来ている物は樹を破壊するんだぞ? そんな物を壁にした所で二発目には俺を貫いているかもしれないのに、そんな危険な賭けやっていられるか。
冷静になれ、誰にも負けない最強の力を持っているんだろう。……川の中に逃げ込む! ……出て来た所を狙い撃ちにされる。……上に逃げ、……ても月明かりに照らされているのだから格好の的だ。……地中。ろくに動けるのか? 息が出来るのか? 地中に潜って目の前にある土を弱体化し続ければあるいは……。
あるいは何だ。岩壁でも壊して岩を盾にするか? 岩壁がどこにあるんだ? ……遠距離から狙われている場合って、何をすればいいんだ。俺だって生身はただの人間なんだぞ、こんな威力の弾が当たればどうなるかなんて……。
……死ぬ? ……死ぬだって? いや、まさかこの俺が死ぬなんて、そんな凡人と同じなんてあり得ない。あり得る訳が無い。俺は選ばれた人間で、王になる存在で、事実王になっていた。何で今こうして、走って見えない何かから逃げている。そんなみすぼらしい行動を王の俺にやって見せろと言う気か。……俺は選ばれた人間だ。俺は誰にも負けない完璧な人間なんだ。……こんな弾、真正面から止めてやるよ。
次の弾から五秒後だ……、……三、……二、……一。…………で今度は飛んでこないのは何故だ。……あいつら舐めやがって。……俺を舐めやがって……! あいつら!
「いい加減にしろよ! 遠くからコソコソコソコソ! そうやって撃っていればどうにか出来ると考えている辺りがお前ら一般人の思考の限界なんだよ! そうやってれば王の座から降ろせると思ったのか!? そうやってれば安全な方法だと考えたのか!? ……それはそうだろう、一番簡単な方法だもんな。回らない頭を手で無理矢理回して出た答えがそれだもんな。だから実行に移せたんだろうよ。……だろうと! その程度で、王と言う物が足を引くかどうか! 王と言う物が一般人の頭脳で考え得れるレベルの、粗末な存在で無い事! それを王手を持って教えてくれる! この森全体潰してやるよ!」
昔に一度だけ、どうやったかは知らないが、視界に入れなくても周囲の物を弱体化出来た事がある。それを今やってみせる。王がやって見せる事で下は動く、上がやって見せる事で下は恐縮する。こんな意味の無い草木が生い茂るばかりの森なんて、俺が壊す。
そう決めて目を閉じてから一分は過ぎただろう。自分では特に何をしたと言う意識は無いが、目を開けると周囲五メートルくらいの木々は枯れていた。下を見ると銃弾が十発そこそこ転がっていて、そこで現状を理解した。やはり俺は天才なんだと言う事を。
何だかんだと言っても、やはり俺は選ばし人間なんだと信じて疑わない結果が、新しい力を目覚めさせる。
……だから何だと、俺は言いたい。こんな力があったからと言って対話になるのか。冷静になって考えると特に無駄では無いのかと思う。……結局何がしたんだ俺は。何か、面倒臭くなってしまった。考えるのが。ここに立っているのが。このまま撃たれたらどうなるのだろうか。疲れが消えるのだろうか。それはそれで面白い。スノードロップとは会話もしたと言えばしたし、もういいか。
……このまま、撃たれてみようか。
「それが、あなた様の答えですの?」
「……どう思う?」
「変わりましたわね、色々と」
「そうだろうな。一瞬死んでも良いかと思ってしまった辺りは、確かに自分でも誰だと言いたい」
「でも、わたくしはそれでも好きですわよ」
「あぁ、……そう。……で? 何?」
「お呼びで無いと言った感じですわね、参りましたわねこれは」
「また不公平不平等と、自分の個性を振り撒きに来たか?」
「えぇ、あっちは三人、こっちは一人、それは立派な不公平ですわよ」
「……だと思っていた。さっきから撃ってるの、スノードロップ達なんだろ?」
「さすがあなた様ですわ! そこまでお気づきになられるなんて!」
「どこでテンション上がってんだお前」
「GMさんも殆ど直りましたわ。スノーさんに機械の技術を教えて間もないのに、あそこまで仕上げてくるなんてセンスがおありですわね」
「本当に余計な事しかしないな、アザレア」
「お久しぶりですあなた様、未来の花嫁アザレアですわ」
あいつは俺の意思とは反して、本気で殺しに来ているんだな。会話なんてそもそもする場所を持たない、持とうとしない。
こうやってアザレアと会話してる間も、多弾頭ミサイルで攻撃してくる容赦の無さ。
「これ全部あのロボットがやってるのか?」
「えぇ、凄いでしょう!」
「嫌になるくらい凄いな」
目視で捕らえきれないほどの量を一度にぶつけて、弱体化の力をそもそも封じる。スノードロップの今の感情がどう言う物か伝わってくる、どれだけ俺の事が嫌いなんだ。
「……何だその顔を、目をひん剥いて」
「素直に褒めるなんて、初めてみましたわ」
「……あのロボット、アザレアなら止めれるか?」
「止めろ。と言われればわたくしはやりますわよ」
「そうか、助かる。……あのロボット止めろ! 俺はスノードロップと対話する!」
「わかりましたわ! お任せあれ!」
そうミサイルを止めながら、返答した。
ここまでやって、嫌われた人間が何をしようとあまり良い結果にはならないだろうとは思うけれど、それでもやりたいと思えた。初めて心が動かされた様な気がする。
あいつは面と向かって、ちゃんと会話をしてくれるだろうか。
無理だろうな。




