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弔花

 久しぶりに戻って来たこの地のぽっかりと空いている地面を見ても、特に何とも思わなかった。ここにはサンバークと言う国があったが、それも今は穴の底で瓦礫となっているだろう。


 何人もの人間が死んだのか、考えた事も無かった。この下も見えない穴の底で、あいつも、あいつも、あのコックだって動かない肉塊となって魂だけが蠢いている。そんなに悪い事だったんだろうか、王に逆らって反逆を犯した奴らを纏めて処罰するのは、スノードロップがあそこまで否定するくらいいけない事だったのだろうか。正直よくわからない。


 用事が終わったらまたここに来よう。


「あなたもここに来たのね」


「スノー……、ドロップ……」


 良く見覚えのある女が後ろに立っていた。


「ねぇ、覚えてる?」


「……何を」


「あなたがこの町の王様だった時、癇癪を起こしてこの町をつぶした事」


「……覚えてないね」


「そうでしょうね、あなたはそう言う人よね。照れ隠しか知らないけれど、覚えておきながら覚えていないと言う」


「何が……」


「そうやって人の気持ちも考えず、思った事を口に出す所よ」


「……何でお前はここにいる、待ち合わせは森だった筈だ」


「あなたと同じ気持ちよ。恥ずかしながらね」


 ついでに見ておきたかった。そう言う理由でここにいると、そう言いたいらしい。それにしてもこの態度、出会った時と同じ無愛想な態度。


「怒ってるのか?」


「……そうね。でも、そう言うことが気付ける様になったのね。正直、驚いたわ」


「俺は気遣いの出来る人間だと自負しているが、……お前はそうは思っていないらしいな」


「笑えない冗談ね、気遣いが出来るのならこの世界に花が増えていたでしょう。あなたはそれを摘み取ったのよ」


「……意味わかんねぇよ」


「もっともっと言いたい事はあるけれど、これ以上はあの場所で話しましょう。私の故郷を「あの場所」としか認識していないあなたにはどうでもいいんでしょうけれど」


「嫌味を良く言う女になったな」


「化物から女になったなんて、とても昇格したのね」


 本当に嫌味を良く言う。


「……また後でな」


「そうね。……スノードロップの花を、あなたに捧げます」


「花? あぁ、俺は花の管理は苦手でね、すぐに枯らしてしまうんだ」


「そう」


 そう言って一輪の花を崖に落としてから、西の方角に去っていった。結局何から何まで何を言いたいのか何なのか、よくわからない化物だった。いつにもまして不機嫌だった、会話をまともにするつもりが無いのだろうか。こんな状態で、森に言った所でまともな会話になる訳が無いんだろうな。


 もしかしたらあいつは俺の事が嫌いなのかもしれない、今までこんな事考えてもいなかったが、そういえば笑顔の一つも見た事が無い気がする。結構歯向かってきた事も多かった、自分との圧倒的な力の差があるにも関わらず向かってきた。知能の無い動物でも、野生の感と言う物で強者には立ち向かわないが、それでも向かって来たのは動物以下の野生しか無いのか、もしくはただの馬鹿なのか。……あるいは、身を挺してまでやらなければならなかったからなのか。


 この三つ目の考えが出て来るまでどのくらい掛かったか、あいつは基本的に誰かがどうにかなった時に行動を起こしていたのに気付くまで、相当の時間を要した。……ならなんで俺に付いて来た? 反抗してまで、どうして俺と一緒にいた……? ……それを聞く為にわざわざ待ち合わせなんて面倒臭い事をしたんだ。


「花を捧げます、ね」


 捧げたから何だと言う話ではあるが、確か弔いの意味を持っての事だったかな。死者への手向けとして、その手に持った花をそばに添える。死んだ人間にそんな無意味な事をしたって仕様が無いだろうに、やる意味なんて無いだろうに。それをすればどうにかなるのか? 何かわかるのか? ……丁度良い、このタンポポの花を使って故サンバーク民に対して王から花を授けよう。


 こんなの気持ちの問題だ、気持ちの篭っていない人間がやった所で意味が無いのはわかっている。だから一応やるだけだ。


 崖の前に立って、自分の思う弔いをやってみた。


「久しぶりだな、サンバークの国で生きた諸君。ユリー・フレゥール・サンバーク改め、ユリー・フレゥールがこの地に戻ってきた。国を崩壊させた人間に対し何か言いたい者もいるだろう、しかし俺は一つの意思を持ってこの場を無くした。それは反逆を行った人間に対する報復の為だ、誰が主犯かなんて俺は知りはしない。名乗り出ろと言っても、醜い擦り付け合いが勃発し新たな火種が生まれるだけだろう。だから連帯責任として全員に罰を与えた。……これは少しやりすぎだったかもしれないと、最近になって思い出した。俺は罪を与える悪魔じゃ無いし生を承る天使でもない、ただ地位があるだけの一人の人間だ。その地位を高く見過ぎていたのかもしれない、お前らとは違う、同列に語られるなんて一生の恥だ、そう思って生きて来た。……はっ! 笑える話だ。一人でこんな事を言ってるんだぜ? そこ等辺でむしった花を片手に、そこも見えない穴の前でぼーっと突っ立って。今までの俺なら馬鹿馬鹿しくて出来た話では無かった。でもな、人間じゃ無い奴らと話してて不思議な感覚が襲ってきたんだよ。言葉には出来ないんだけどな、何かこう……、人とは違う何か……、それがどうしても知りたくてまたここに戻ってきた。……何て言おうとしただっけな。……あ~。……す、すまなかったな、こんな事になって。これ……、花だ。俺が悪かった」


 そう言って崖に花を落とした。これでどうにかなるなんて更々思っていない、だから気休めと言うか、これに特に意味は無いけれど一応やってみただけだ。スノードロップはこうしたから、同じ事をやってみせただけだ。


 今度あいつの顔を見たら、何故か上手く話せなくなっていそうな様な気がした。


 あいつ、一人で来るよな。

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