そこにいれば誰かが拾うだろうと言う考え
俺はこの町に来た理由を一応果たせた。スノードロップをあの森に誘導すると言う、たったそれだけの為に俺の城に戻ってきた。ただ城には入らずに、目の前に倒れていた雑種と少しの会話をしただけだけど、今はそれで満足している。
まるで人を知ろうとしている様な。そう言っていた。ある事無い戯言を吹いてかく乱でもしようと言うのか、そう解釈をしたが今になって記憶から這い上がってくるこのセリフ。何が言いたかったんだろうか。
「あ、おかえりなさいオウサマさん。どうでした?」
「あぁ、元気だった。大声出して荒れ狂って何事かと思うくらいに元気だった」
「それは良かったですね!」
「良かったのか……?」
「そんなに大声を出せると言う事は元気って事ですよね?」
「何箇所か刺されてたけどな」
「えぇ!? 大丈夫なんですかそれ!?」
「お前はいちいちオーバーだな。どうせあいつの事だ、明日には綺麗さっぱり塞がってるだろうよ」
「えぇ!? それはそれで大丈夫じゃ無いですよ!? おかしいですよ!?」
「おかしんだよあいつは。最初に会った時から、さっき会った時までずっと」
「仲良しなんですね」
「どこが」
「相手の事を良くわかっている所です」
「何にも知らないね」
「知っていますよ」
「しらねぇって言ってんだろ。あいつはどうした?」
「タナフさんですか?」
「そんな変な名前だったか?」
「オウサマさんがそう呼んでいましたよ? あれから帰って来ませんね」
「別に帰って来なくても良いけどな」
数時間前にタナフを主軸に作戦を実行した。それからあいつは帰って来ていない。作戦と言っても、町の住民にちょっかいかけて「あの城の者だ」と言って回るだけの簡素な代物だけど、それでも暴動になるくらいに混乱を招くのは予想以上だった。
町の連中の恨みは怒りとなってあの城と、あの城にいる者に向けられる。ただのそれだけで後は勝手に崩壊していく。何かの間違いで町の連中が俺を攻撃しに来たらさすがに厳しいかもしれないから、裏を打って先に機能不全に陥らせる。と言うのがうまく行き過ぎた。さすが俺が立てた作戦と言える。
「探します?」
「上手く行かなかった時の為に他の作戦もあったんだけどな、こう成功してはあいつも必要無いからな」
「でも私達、もう仲間でしょう。迎えに行って上げるべきでは」
「取捨選択を正しく行っているだけだ」
「もう、意地張っちゃって。後で仲間に入れてくれ何て言っても知りませんからね」
「言う訳無いだろアホか」
「それじゃあ私は探しに言って来ますね」
「二時間以内には戻れよ」
「はい!」
と言っていたのが二時間前の話で、あれから二人とも見ていない。見ていないからと言ってなんて事はないし、どうでもいいし、関係も無いし、知らない。だからどうした。だからどうしたと言う事ではないが、少し暇が出来たし探してもやってもいいだろう。
いや犯罪者の方は本当に心底どうでもいい、だがシダは有用な耳を持っているからいても困らない、だからちょっと探しに行くだけで、本当はどうでも良い。どうでもいいと言うのはそこ等辺に転がっている風で飛ばされそうなゴミ程度にどうでもいいのであって、それ以上の風で飛ばないゴミ以上の価値は無いと言う意味のどうでもいい。もしくは、「金と銀どちらが良いですか?」「銅でも良い」くらいにどうでもいい話をしている暇があるくらいどうでもいい。はたまたもう一つの案として……、どうでもいいか。
とりあえずシダの行った先を歩いていれば何か見つかるかもしれないが、そもそもあいつは獣みたいな体毛が生えている混血だ、適当に歩いていたら噂くらいされそうなものだが。
「おい、体毛の生えた女を見なかった? 混血だ」
「……ちっ! 黙ってろよ! こっちは攻め込むのに準備がいんだよ! 忙しいんだよ!」
「あ? お前その口の利き方は何だ? 俺はここの王様だぞ?」
「だからなんだ! 俺達はそんな制度を廃止する為に一致団結しているのだ!」
「あぁ!? てめぇいい加減にしろよ! 廃止出来るわけ無いだろうが! それを決めるのは王だろうが!」
「良いねぇ! その意気込み! さっきの暴動の失敗により今や町の半分は意気消沈と化している! そんな中でその意気込みは好ましい! さぁ、残った戦士達と一緒に城を攻め落として王を倒そうぜ!」
「……」
人はアホになる。脳を虫に食われて考える力を無くし、聞く耳も持つ価値の無い仕様も無い事をここぞとばかりに言い放つ。こいつは王に対して王を倒しに行こうと言っている、そんなのおかし過ぎて片腹痛くなってしまう。攻めてどうする、占領してどうする。少しは自分のやっている愚かさを知って貰いたい。
ただ俺みたいに力があるのなら別の話で、占領もするし攻め落としもする。それは力があるものにだけ許されるのだから、こいつのように多を使って一つにするやり方では駄目。てんで駄目。個の力を強くしていかなければすぐに根元からポッキリいって、立ち直れなくなるくらいの大損害を残す事になる。それがスノードロップと言う馬鹿だ。あいつが弱いから、町の連中から反感を食らい暴動が起こるのを止められなかった。力があれば止められたのに、弱いばっかりに。
挙句自分に力があると過信して他の人は手を出さないでくれと来た。それをアザレアから聞いた時は思わず顔が引きつった。だってそうだろう、あそこにいるべき存在でもないあいつが、どうしてあそこまで体を張る。シダだってそうだ、混血ならどこかしら人より優れている点があるはずだ。あの優れた耳を使えば人を出し抜けるかもしれないのに、それをしなかった。そこが腹が立つ。個の力でどうにかしようとするあいつが、個の力でどうしようともしないあいつが、考え方が極端な混血が、全く腹が立つ。
「知ってるか? 今アジトで仲間達がもう一度けしかける為に準備してんだ。武器だって集めたんだぜ、元々暴動がこんなに早く思っていなかったからな、使っていない武器だって沢山ある。それを一度に使えばどうなると思う? ……くひひ。……想像しただけでおしっこ漏れそうになっちまう」
「お前らが攻めたところで、アザレア一人にも勝てねえよ」
「勝つことが目的では無ぁい! 我々が反逆の目的は! この王制度に対する不満から来ているのである! 誰かが上に立つこの不満が私達を動かす! 俺を! 私を! 僕を動かす! それがクーデターと言う物だぁ!」
「気持ち悪いなお前……、何人いるかしらねえけど勝手に殺されとけよ」
「仲間にならないの?」
「考え方が下に行き過ぎていて着いていけない」
「残念」
「お前俺の用事が終わったら真っ先に追い出すからな、地下で死ぬまで労働でもしてもらう」
「……あ、思い出した」
「そのまま忘れてろ」
「さっき言ってただろ、体毛の生えた女って。思い出したんだよ、そういえばさっき角材の強度とか確かめたかったから、試しに殴った奴だ」
「……は?」
「人を殴ったら罪に問われるだろ? でも混血なら大丈夫だって、そんな雰囲気あるじゃん。ところでこの辺に川とか無かったっけ? 攻め込む前に食事取っとかないとだからさ。……何だよ怖い顔して、おっかないなぁ」
今日はもう夜になっていた。辺りは暗く、街灯が点いている時間帯。とても視界が悪くなり、目に映るものの色だって変わって来る。手に付着した液体の色は黒く見えていた。明るい場所で見れば全然違う色なんだろうけど、俺には黒く見えていた。
何故か無性に腹が立ってしまった。前々から腹が立っていたからそこまで変わりは無いが、何故か目の前の男の発言が引き金となって。俺の周りからは鉄の匂いが漂っていた。
男は話を聞きだした後、近くの川に放り投げて、それで終わり。これと言ったことは何も無い、それだけの話。薬屋の裏に体毛女がいるらしいので興味本位で行ってみた。言葉通り、確かに怪我をしている見慣れた人がいた。
「あ、オウサマさん……、こんにちは……」
「そう言う時はこんばんはって言うんだ」
「勉強になりました……、やっぱりオウサマさんは物知りですね……」
「何でお前怪我してるんだ」
「ちょっと、転んでしまっただけです……。オウサマさんだって、体の至る所に何か付いてません……? 血っぽい何か……」
「ちょっと転んだだけだ」
「あはぁ……、おっちょこちょいですねぇ……」
「ちょっとお前の体重弱めるぞ」
「ダイエットするほど重く無いです……、よ……? あ、体がかるーい……」
シダの首根っこを掴み、そのまま引きずる様にしてある場所に向かった。王のいない城。
スノードロップ達がいる城の正門を、近所迷惑かえりみずな大音を立てて破戒した。まるでこのいたずらはこいつがやりましたよ言わんばかりにシダを置いて、俺はその場を後にした。
これで邪魔者はいなくなった。この状態なら、あいつとの会話も広がると言う物。あいつが何を考えているのか、どうしたかったのか、混血の考え方が知れる。人ではない何かが、何故そうなったのか知れる。どうしてか俺はその事が知りたくて仕方が無かった。




