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嫌な人間を参考にして生きて行くのも、悪くはないのかもしれない

 王様の椅子に座りうつつを抜かしていた私に、これが罰だと言わんばかりの天誅が下った。この町の為に何かをしよう何かをしようと考えている間に、町の異変に気付く事が出来なかった。そんな私への天誅。


 暴動が何だって起こったのかわからないけれど、窓から見える限りの人々が憤怒に満ちている事だけはわかった。思い思いにお城に怒りを投げつけて、感情に身を任せている人達相手に、私がこの場を収めなければならないらしかった。アザレアさんとGMさんが協力してくれるとは言え、やはりただの私には荷が重い。


 だからこれからやる事は自己満足。普通の混血が迷った末出した回答。この行動が町の人達がどう取ってくれても文句は言わないし、言えない。暴動の切欠はアザレアさんが喧嘩に介入してしまった事とは言え、元はといえばユリー・フレゥールと、その前任の王様に対する不満が積もりに積もってこんな事になってしまった。だからその関係者である私が、仮だとしてもこの国の王様である私が、拭わなければならなかった。


「アザレアさん、GMさん、お願いがあります」


 こちらを見てくる二人に、一つだけ言わなければならない事があった。こんな私の仕様も無いわがままを聞いて貰う為に一つの頼みごと。


「私がこれからやる事が失敗するまでは手は出さないで下さい。先に謝ります、ごめんなさい」


「ちょっと意味がわかりませんけども、そんな悠長にしていられますの? 今にも乗り込んできそうですわよ」


「していられないから、賭けに出るんです」


 これ以上誰も傷付いて欲しくない。そんな願いが受け入れられる世界にしたい。もう二度とあんな男の様な人を出したくない。言葉だけで大きい事を言おうと、今は目の前の問題を解決する事が最優先。わかってる。だから私は今、止める為に城の正門に立っている。


「出やがったなぁ!」「お前らのせいで割り食ってんだ!」「ふざけんじゃねえ!」


 城から外に出た途端、町の人達が怒りの声を飛ばしてくる。恥も外聞も無く、頭に思いついた文字を口に出している人達は正直かなり怖い。全ての目線や暴言の対象になっているこの現状が怖い。気圧されそうになる程の熱い熱気に挫けそうになる。けれども、やらなければならない。


 私はゆっくり空気を吸って、負けない声で喋った。


「聞いてください! 私はこのお城の王様代理を務めている者です! どうか落ち着いて、私の話を聞いて頂きたく思います!」


 一瞬だけ、暴動が止まった。町の人々の興奮した気持ちを抑える為に、正門の前に立ち言葉を飛ばす。この人達は「責任者を出せ」と言う意味でこの場所に来たのなら、責任者が出ない事には止まらないと判断した。しかし、やはりと言うか呆気に取られる出来事に一瞬止まりはしたものの、その熱はまた燃え盛る。


「ふざけるなぁ! いきなり出てきて話を聞いて下さいなんて! 誰が飲めるかよ!」「お前らのせいで俺達はどれだけ苦労を強いられてきたと思ってるんだ!」「物事には誠意ってものがあるんじゃねえのか! しばくぞ女ぁ!」


 町の人々からなる罵詈雑言が飛び交う。それも想定内ではあるけれど、やはりこたえるものがある。この色めき立った状況を私がどうにか出来るのだろうか。……なんて弱気になっている暇があれば動かなければ。


「この町は病に掛かっていたのです! 上に立つに人間が上で毒を撒いていたのです! その毒は今この町にいません! そしてあなた方は言わばワクチンです、何事も自分達の力で災難を振りほどくことの出来る薬です! 今はまだ飲み込めないかもしれません、ですから私がいるのです! 水となり補助剤となる王様代理が……、いえ、代理であり王様であるこの私が! 町を綺麗にしてみせます! ですから手を取り合って進むべきなのです! 我々は……うっ!」


 ……痛い。頭にかなりの衝撃があった。何……? それに熱い……。痛い……。


「スノーさん……。血が……」アザレアさんが心配そうに言った。


「血……? ……あ、本当ね。でも、血だけなら大丈夫」


 頭が割れて脳でも見えているのなら問題があるけれど、ただ血が出ていると言うのならどうにでもなる。


 足元を見るとレンガが転がっていた。これを当てられたのだろうと思うとぞっとする。しかし何より恐ろしかったのは、これを平然と人に投げつけた町の人達。普通の人ならば死んでいる程の行動をこんなに簡単に実行する、その行動力が一番恐ろしかった。ここまでおかしくなるなんて思わなかった。それでも続けなければ。こんな事で止まれない。


「皆さんの不安もわかります! ですが手を取り合って生きて行かなくてはならないと言うのに、こうやって蹴落としあって何が生まれるのでしょうか! この町を統制する者もいなくなった、この町を脅かす者もいなくなった。そうなればこうして争ってる時では無いのです!」


「黙ってろ偽善者!」 「何を偉そうに喋ってやがるんだ! 殺すぞ!」 「お前らのせいで散々苦しんで来た事がわからないのか!」


 止まない怒号と投擲物。手当たり次第に投げてくるその物体はゴミだったり石だったり、はたまた鉄だったり。この人達は相手がどうなろうと何も考えていない。


「人は口が付いています! 手もあり足もあります! そうして言語を手に入れ、考える力があります! 私達は隣にいるそれぞれの人々と、手を取り合って生きて行く事が可能なのです! 私がこの場所にいるのは、幾重にもなる不幸を乗り越える為にあります! そしてそれは、皆の幸でもあります!」


 こうして語り掛けていると、あの男が国を崩壊させたその手前に演説をやっていた事思い出した。しかし演説なんてとても高尚な物では無く、まるで子供の考えた事をそのまま口に出している様な無意義な物だった。私は今、それと同じ事をしているのかもしれない。自分のわがままを貫き通す為の言語を発している、ただのそれだけ。ただのそれだけなのに、どうしてこんなに辛いのでしょうか。


「私がこうして生意気な事をしているのも、人々が傷付かず幸せになると言う目的の元でしている事です! 例えば人が倒れた時、その人がどうしても立ち上がれない時、それを見つけたあなたは何をしますか? 人によっては無視をするでしょう、人によっては手を差し伸べるでしょう。……そうです! 私達はどんな行動でも取る事が出来るのです! だと言うのに差し伸べる手を止め、その代わりがこの有様なのです! それがどう言う事かわかりなさい!」


「何でもかんでも言葉でどうにかなればなぁ! 争いなんて生まれねぇんだよ!」


「殺意を検知。王様代理、避けて下さい。」


 男がこちらに向かって走って来ていた事に気付かなかった。それをGMさんが教えてくれた。そうして私は傷付いた。


「……暴動って、刃物で人を刺すまでやるのね、驚いた……」


「……スノーさん、ここまで行くともう失敗だと思うのですけれど……、それでもわたくし達は手を出してならないんですの?」


「なりません……。これはまだ許容範囲です、失敗はしていません……」


「……わかりましたわ」


 有難い。私の願いを聞き入れてくれている。こんな馬鹿みたいな事に付き合ってくれている。


「な、何だよお前……、ちょっとは抵抗しろよ……、気持ちわりぃよぉ……」刃物を持った男が、後ずさりしながら言った。


「満足したのなら下がってください、このくらいの傷ならすぐに塞がります。……他に刺したい人はいるでしょうか! 人を刺し、傷付け、それで気が済むのなら、私は甘んじてこの町の案山子となりましょう!」


 言葉が通じないのなら肉体言語で語るのを選びましょう。意味は少し違って来るけれど、これもある種の会話術と信じて。こんな痛みで済むのならどれだけでも耐えてみせる。あの男が嫌った血は、こんなに役に立つのですと面と向かって言ってみたい。


 私の言葉に答える様にして、一人の男が名乗り出た。


「俺がやる、正直お前と言う個人に恨みは無いが、お前の立ち場に恨みがある」


 静まり返る正門の広場にて、一人の華奢な男が名乗り出た。苦しい思いをして生きて来たのだと察してしまうくらいに老け込んだ顔をしていた。


「大丈夫です、私があなたを受け入れます。……何か武器はもっていますか?」


「あぁ、あるさ……。ほら、カナンとの思い出の包丁だ。……ほら見ろよ、よく切れそうだろ?」


「カナンさん、ですか……。錆も無く、良い手入れをされていると思います。大事にされていたのですね……」


「……ぁ当たり前だろうがぁあああああ!!!」


 私は、目の前に移る殺傷道具に成り果てた刃物を避ける事はしなかった。避けなければ当たるのが必然で、痛い思いをしてでも逃げてはいけないと思ってしまった。いくら自分の体が傷付いても、それで誰かの為になるのなら後悔は無い。私の血は赤かった。


「あぁ……、カナン……、これでお兄ちゃんを許してくれるかい……?」


「……ぐぅ……っ。……な、何があったか存じ上げませんが……、これで満足して頂いたのなら、本望です……」


「……許す? ……カナンはまだ許すなんて言っていない、あの世のカナンはまだ許すと言っていない」


「それなら許されるまで、この体を貸します」


「それはそうだ、でないと報われない。……報われないんだってさぁあああ!!!」


「うっ……!」


 痛い――。痛い――。痛い――。これが王様になった痛みだなんて。ただ一言で王様と言っても、少しの事務作業と上に立つ者としての威厳を振り撒ければ、それで大任していると思っていた。それが王様のやるべき事だと思っていた。その考えは一切甘かった。こんなに苦しい課程があるなんて思いもしていなかった。この世界の王様は皆こんな思いをして王様になったのだろうか。だとしたら、私には厳しい職業かもしれない。


 ただの森で過ごしていた一般人がここに立っていること事態おこがましいのかもしれない。そう考えると、ユリー・フレゥールはお似合いだった。あの性格と自信と、上に立てるだけの力があった。あの男なら、こんな暴動なんて誰も傷付けずに一瞬で静めていたでしょう。それが無い私は、自分でも何をやっているのかわからなくなる様な止め方しか出来ない。……何をやっているのよ、私は……。


「これがカナンの赦しだ! 食らえよ偽善者ぁあああ!!!」


 男は今度は殺す気で私に刃物を振った。これがあの男の言っていた罰なのかもしれない。私がユリー・フレゥールの横暴を、体を張って止めていたら助かる人がいたかもしれないのに、私の力では無理と恐れて見てみぬ振りをしてしまった。その事に対するみんなからの罰。私は裁かれべきなんだ。……生まれ変わったら、また同じ混血が良いな。


「あれ……? 動かない……? どうした俺の体、どうしたカナン?」


「……? な、何……?」


「力が入らないよ……? カナン、もしかしてお兄ちゃんを怒っているのかい……?」


 男は泣きながら刃物を落とし、膝から崩れ落ちた。本当にそこにカナンと言う人がいるのかもしれない。私には見えないけれどその可能性もある。そしてこの光景に少し見覚えがあった。体に力が入らなくなるなんて、まるで私が味わった屈辱そのものだと。私の人生を変えたあの出来事に似ていると、思ってしまった。その感性は正しかった。


「……ユリー・フレゥール」


「久しぶりだな、スノードロップ」


 にやけ顔の悪魔が、悠然とそこに立っていた。

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