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二文字の判断

「だって他に行く所無いですし」


「暇だったから」


 今から国に攻めに行くと言うのに、何故来るかを聞いた二人の言い分がこれだった。聞いといてなんだがアホかと思う。二つ返事で、はいと言えるのは良い事だが多分何も考えていないだけだろう。何かを考える頭があれば、こんな何の得にもならない事を受け入れる筈も無いのだから。


「これから何しに行くのかわかって言ってるのか? お前らに利点なんて特に何にも無いんだぞ?」


「攻め落としに行くって聞きましたけど、そういえば何故そんな事しに行くんです?」


「何故って、そこからか。無実の罪である俺を売り飛ばした、その張本人がいるからだろ」


「へ~……、ってあれ? もしかして記憶戻ったんですか?」


「あ? 記憶?」


 シダに記憶がどうこう言われる筋合いは無いが、そもそも何の話をしているかがわからない。戻るも何も失っていないのだから意味不明。


「あえ? 記憶喪失になってしまったんですよね?」


「はぁ? ……あぁ、そうか。いや、戻った」


「本当ですか!? おめでとうございます! 良かったです!」


「あぁ……、そうだな……。シダはもうちょっと賢くなった方がいいな……」


 思い出した、そういえば俺が記憶を失ったんだと勘違いしているんだった。しかし未だに認識を誤っているこいつが多少不憫に思う。素直に記憶が戻ったと信じた事にも驚いたし、他人の事でこんなに喜ぶのも驚いた。何だこいつ。やはり動物並の知性と感性を併せ持った不憫な生物なのだ。


「出来る事なら賢くなりたいですねぇ。……あ、それならオウサマさん、私に字を教えてください! 字が書ければ何にでも力になれます、いいわば一騎当千と言う奴ですよ!」


「正しいかどうかわからん例えを出すな。字なんてそこ等辺に書いてあるのを模写すればいいだろう。好き勝手にやってろよ」


「それも参考書があれば可能ですが……。あるのは調理器具だけなのですよ」


 周りを見渡しながらそう言った。食べ物を探した挙句出て来たのがフライパンとお玉と、肴にさえならなさそうなゴミばかり。調理器具で学習が出来ればあのコックも有能な男になっていただろうとは思う。


「お願いします! 私に学を教えてください!」


「うるさいうるさい! 目的が達成したら教えてやるから! とにかく今は俺の用事から済ませるんだ!」


「良いんですか!? やったー! 生まれてこのかた勉強のべの字も無かった人生に、とうとう春が舞い込んで来ましたね!」


「……お前そんな性格だっけ? いや、記憶喪失と言えば、犯罪者も名前覚えてないって言ってたな?」


 無言で外を見ていた名無しの男に言った。呼ばれた事に気付いていないのか、少し間を置いてからこっちをみながら答える。


「いきなり過ぎて僕びっくりだね本当。しかし、いやぁ参ったねぇ、王様から直々に名前が貰えるなんて光栄だなぁ」


「フィルムに包んだ様な喋り方しやがって、お前のそう言う所本当嫌いだわ。お前の名前は今度から折れたナイフだ」


「うわだっさ、何それだっさ。期待して損した、もうちょっとマシな名前無かったのかい? そのダサさはさすがにセンスを疑うよ」


「名前の無い奴が偉そうにしやがって……、自分で好きな名前を付けろ。呼びやすい名前にしろよ」


「別に何だっていいんだけど、それじゃあ折れたナイフから数文字とってレナフでどうだい? こっちのほうがさっきのより幾千倍マシだ」


「対して変わらねぇよ、しかも覚えにくいし。あ? イナフ?」


「僕は名前なんて要らないからね。それに比べそっちはたいそうな名前をお持ちな事で? え? 王様さん?」


 王様さんとは一体誰の事だろうか、俺では無い存在しない男の名前を呼ぶなんて、相当頭が狂っているに違いない。ナイフを持ち歩いている時点で既に狂っているが。


「それではこれから、俺の考えた作戦を伝える。それと、お前はタナフで良いな?」


 タナフと言うダサい名前の男は「ナンデモイイデース」と投げなりに答えた。


 お互いに呼びやすくもした所で、これからやる事を二人に説明した。ここから出て、そして町に着いてからの作戦。「三人で大丈夫ですか?」とシダに言われたが、大丈夫じゃ無いから作戦を立てたのだ。まず町に着いたらタナフに悪さをしてもらう、そうして町の住民の注目を浴びて、去り際に「俺はあの城の者だ」と言ってその場から逃げる。それを繰り返す。


「それが何の意味があるんです? それではまるで悪者は私達みたいでは……」


「そんな訳あるか、連帯責任と言う言葉を知っているか? 責任とは関係者全員に伴う物だ、よって問題無い」


「そういう物なのですか? 物知りですね!」


「そうだろう。これをやる意味は、少し騒がせて混乱させるだけが目的だ。よってこれも問題無い」


「なるほど。何か悪さをしている様な気がしていたんですが、これなら安心ですね」


 これで町の住民はどうにでも出来るだろう。後はアザレアだけどうにかすれば良いが、あいつが一番謎と言える。何を考えているのかわからないし、飛んでくる弓を察知して掴むほどの身体能力、スノードロップとは違うタイプの化物。……なのだが、多分あいつはどうにでもなるだろう。確信は無いが、あの手で手を緩める思われる。他にはGM-3とかいうメイドがいるが、ポンコツだからいてもいなくても一緒。


 そうしてアザレアとメイドを突破して、ようやく合えるスノードロップ。あいつのわがままのせいで俺がこんな場所に飛ばされたのだ、一切合財を吐くまでは俺は引かないと決めた。


「それで?」


「どうしたイナフ」


「僕の名前はイナフなのか? タナフなのか? どうでもいいけど、攻め込む目的は?」


 攻め込む目的と言うのを聞いてきた。俺はただスノードロップの思いを聞く、と言うのが目的なのだが、よく考えたら少し意味がわからないかもしれない。俺を売ったあいつに対する罰を下す、と言うのも何とも良い難い。それにスノードロップ一人のためだけに行く訳では無い、それに加担したアザレアや、俺のやる事に反対した町の奴らだって同罪なのだ。だから俺がやる事は。


「復讐」


 その二文字が頭の中を駆け巡るばかりだった。

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