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「そう言う人生もありかもしれないですね」そう言う答えが欲しかった。

 どうして、何故牢が無数にある建物の上に小屋があるのだろうか。建物の上に小屋が建っている、のならまだわかる。屋上へ出る為の階段を上って出た先が小屋の中とは、理解不能だ。最早ここが入り口で作られたのか出口で作られたのか、俺には皆目検討もつかなかった。しかも家具もそこそこにあり、普通の家となんら変わりない。


 日の光が漏れている窓から外を見ると、そこには平原が広がるばかりで何も無い。あるのは鳥の鳴き声と、風で揺れる草の音くらいだった。


「はぁ……、はぁ……、待ってくださいオウサマさん……、ここ、階段、凄い長くて……。どうして、そんなに、すいすい行けるんですか……。……って、あれ? 室内? 屋上? あれ?」


「あぁ、疲労を弱体化してたから。と言うよりこれはどうなってんだ? あんな小汚い場所がここの下にあるとは思えないくらい、のどかと言うか、平和ボケしていると言うか」


「……ふぅ、足が痛いです。もしかしたらカモフラージュの意図があるのかもしれませんね。もしくは食料調達の為とか、緊急避難先とか、色々考えられますが……。……あ」


 まぁ確かに、こんな小屋の下に監獄があるとか誰も思わない。見向きもしない。特定の意図があって作ったのかはわからないが、割かし多様性はあるのかもしれない。むしろあんな酸欠になりそうな密閉空間で何か起きた場合、こういう避難先が無いと逃げ遅れた兵が死ぬだけだ。無いほうがおかしいのかもしれない。


「光……」


 雑種の女が言った。呟く様に、漏らす程度の小さな声で。


「え?」


「光……、……光ですよ! 光なんですよ! これが!」


「あ? いや、そうだよ、光だって。だから何だ」


「そうですね、これが光なんですよ! あぁ、あったかい……、ふふ、あはは! ぽかぽかする!」


「はぁ? な、何言ってるんだお前……。これただの光だろ……」


「えぇ、ただの光です。でも、こうやって太陽に晒されるのは幸せな事なんです。私は八年ぶりに浴びましたから、尚の事です」


「八年!? 今まで何やってんだお前!?」


「ずっとあの牢で働いていましただけです」


「八年……、それにしては道を全然知らなかったんだな」


「殆ど同じ事の繰り返しでしたから、不思議がるのも仕方が無いです」


「嫌味で言ったんだ」


 八年もの間、あんな場所でずっと働いていたのか。汚い狭い暗いの三点がこれでもかと言うくらいに詰め込まれたあの場所で八年、俺なら自殺してしまいそうになるかもしれない。俺はその時何をしていたか思い出せないのに、今の今までずっとやって来たこいつを、ほんの少しだけ感心した。俺以外の人間に対し感心などした事が無かったけれど、初めてそう思えた。


「……お前、名前無いんだったっけ?」


「名前ですか? はい、ずっとその場その場の適当で呼ばれて来ましたよ」


「じゃあお前の名前、シダってどうだ? 前に俺の国の周りに生えていた草の名前。枯らしても枯らしても、どこかから生えて来る生命力から取ってな」


「シダ……、シダ……、私の名前……?」


「いや、雑草みたいなだなと思ってさ。それが嫌なら……」


「……シダ! 私はシダなんです! 始めましてオウサマさん! 私はシダです!」


「やっと呼びやすくなったな、二文字だし尚更に。それと俺の名前は他にあって……」


 続きを言おうとした時、横から別の男の声が飛んで来た。それは俺の腹を刺した奴だった。


「あ゛ぁ……。あ゛ぁ……。何故僕がこんな目に……、こんな階段を……。くそがぁ……。早すぎなんだよお二方……。長過ぎでしょうよこれ……、畜生がぁ……」


「お前、大層な事言っておきながら体力全然無いんだな……」


「う、うるさい……、僕は君達と違って、普通の人間なんだ……。大体何だここは……、アホか……」


 普通の人間は牢に入れられない筈だが、つまりお前は普通じゃ無い人間だ。とは言わなかった。どうせ言った所で、何の利益にもならないだろう事は目に見えていたから。それに、こんな奴どうでもいいから。これほど理由が揃っていていながらにして、これ程酷い罵倒があるだろうか。俺がこれをされた暁には、生涯欠片と見せた事の無い憤怒の表情をお見舞いするだろう。


 考え方を少し変えるだけで、今までとは打って変わった様だ。口に出していた事を心の中で留めるだけで、こんなにも変われる。俺は変わった。変わったんだ。これならスノードロップだって俺を……、俺を……? 俺は何を思おうとしたんだ? あんな王を売る様な反逆者に、一体何を思って欲しかったんだ? ……変わろうと急ぎ過ぎたせいでまったくおかしくなっているな、落ち着こう。……俺は、どうして変わる事を急いでいるんだ……? 俺は自分で言った内容を自分で処理する力を失ったのか? そんな馬鹿な話あってたまるか。ただのストレスの溜まり過ぎだ。


「あの、オウサマさん。今日はここのままここで休みま……、ま……、……ふぅわ~~あ。……失礼しました。ここで休みませんか? 新鮮な出来事ばかりで疲れちゃって」


「ぼ、僕は見ての通りだ……、これ以上動ける様に見えるのなら……、目がおかしいか、頭がおかしいかのどちらかだね……」


 疲労が溜まっているから休暇をくれ、とそう言うことらしい。まぁ、俺も疲れているし良しとしよう。……休暇と言えば、あのコックも同じ事を言っていたな。でも、あいつは俺の嫌いな物を把握していなかった無能だったから、不休未給で然るべき、問題は無かった。……と思う。


 人は疲れたら休みを取りたがるものだ。いくら弱体化の力で疲労を弱められると言っても、どこかで回復させないと徐々に溜まっていき、次第にパンクする。……って事は、あのコックは既にパンクしていた? それなら効率が悪くなるのも頷ける。……あの時は正しいと思ってあぁしたが、あれは間違っていたのだろうか。


「お前らなんて置いて先に行っても特に問題無いんだけどな、これからやる事もあるし、まぁいいだろう」


「やったぁ! 実は私、この家気に入っちゃいまして。はぁ~幸せ」


「そうかそうか良かったな。で、ちょっと聞きたい事があるんだけど、答えてくれ。……あー、例えば、例えば休みも無し、家にも帰れずで死ぬまで働いた料理長がいたとする。それが自分だったらどうする?」


 何を聞いているんだ俺は。


「私も給料無しで働いて来ましたが、そもそも「働く」では無かったので、働けるだけ幸せだと思います。働いてお金が貰えるって体験した事が無いのですが、好きな物が買えるって、きっと幸せなんでしょうね」


「いや、金は出ないとして」


「えぇ……。それはちょっと、嫌ですね……。死ぬまでですか……? …………う~ん、オウサマさんなら、どう思います?」


「は? 俺?」


 俺ならどう思うかなんて、考えた事も無かったからそんなの言われた所で。


「……俺なら、相手より上に立とうとする。弱体化があればどうにでもなるから」


「その力は、「死ぬまで働いた料理長」は持っていたのですか?」


「これは、俺だけしか持っていない」


「そうですよね。オウサマさんならどうするか、ではなく。オウサマさんならどう思うか、ですよ。ちなみに私ならその状況はかなり嫌かもしれません」


「そんなの俺だって嫌に決まっている」


「多分、誰も良いとは思いませんよ。だって横暴で理不尽過ぎですもん、この質問」


「横暴? 理不尽? そいつが無能だったとしてもか?」


「それなら契約を切れば、双方納得出来る結果になる筈です。休みも無し、お給料も無しで永久に働くのは、奴隷ですよ、それは。それでも止めさせないのは何かしらの理由があったんじゃないですか? 例えばその人じゃ無いと駄目だとか、もしくは認めていたとか、あるいは……」


「……もういい! 黙れ!」


 これ以上の無駄だと思ったから止めさせた。どうして自分が怒鳴ったかは自分でもわからないままにその場を静めたし、沈めた。何故か話を聞いている内にイライラしてしまい、感情が先行したんだろう事はわかるが……。


「……この質問にはきっと、深い意味があったんでしょうね。私が馬鹿だったばっかりにわからなかったです、ごめんなさい。……やっぱり、怒鳴られるのは怖いです」


「いや、違うんだ。疲れているから、俺も……。だから、これは違う、俺じゃない。」


 やっぱり、俺のやった事は間違っていたのか。あの時は正しいと思ってやったが、今にして思えば多少の疑問も残る。挙句聞けば、横暴で理不尽だと言われた。それを否定しなかったのは、多分奥底で認めているのかもしれない。スノードロップにも言われた似た様な事を言われた。俺を否定するのは、俺が否定されるような事をやっているから。だとしても、何が正しくないかなんて……。


「なーに言ってんだよあんたらは、馬鹿丸出しかい? 会話が意味不でまるで理解不能、正気とは思えないねぇ。もう寝ろよお二方」 


「何だよお前その喋り方、馬鹿丸出しか。……とりあえずこの小屋は借りてしまって、もう寝るか。一応階段も封鎖してからな」


 こんな事、深く考えていても使用が無い。まずは目の前の目的を、自分の国に帰る事を先決にしてからでないと、考えが纏まる訳も無い。俺は失敗していない、失敗していない、そう思いながらも、どもかで引っ掛かる様なこの感覚。


 あ、そうだ、寝る前にしておく事があった。引っ掛かりはこれだったか。今だ名も知らない犯罪者の体を弱体化した。


「……おいおい、僕の体に何をした? 動けないぞ?」


「寝てる間にまた刺されたらやってられんからな、縛らせて貰うだけだ」


「こんな事に力を使うなんて、信用無いなぁ? 僕達もう仲間でしょう?」


「アホか」


 壁に掛けてあった紐で、ゴタゴタ言うのを尻目にゴミを括る様にして縛り上げた。


 あんな質問するんじゃ無かった。そう思いながら、よくわからない小屋で寝床に着いた。

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