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異動

 結局、俺のやっていた事はまた間違っていたのかもしれない。さっさと壁を破壊して出れば良いのに、その後有象無象に集団で追われるのを嫌って正攻法で出ようとしたこと。俺はこの判断が間違っているなんて思いたくない。けれど、こうなってしまった以上正しいなんて言い切れないのかもしれない。それでも正しいと思いたいのが人間であり、王の考える事だ。俺はいつだって正しかった。あの時も、あの時も、あの時だっていつだって。俺が間違っている訳が無いのだから。


 しかしこんな事を考えている場合では無い、現状をどうにかしなければならないのだ。何が間違っているか、何が正しいかなんて自分のさじ加減で変わる。俺のさじは果てしなく大きい。すくえない物なんて無い。そんな俺だから、この現状だって簡単にどうにか出来るんだと、信じてから一切疑わない。


「囲まれてるって! また反響してて複数に聞こえるってだけじゃねえのか!」


 囲まれてる、なんて不明確な判断を下した動物に語る。ただ音が聞こえているだけでは、勿論誤差だって生じる。俺が知りたいのは、誤か正かの正しい方。


「それも含めると通路いっぱいにいることになります! ……だから多分、今はそこまで多くは無いと思います!」


「……思います思いますって! 不確定が過ぎるんだよ! 報告はちゃんとしてから行わないと、困るのはこっちなんだ! わかるか!? わかった所でもう遅い!! ……おい犯罪者! お前はここの道を知っていると言っていたな! この上はどうなってるんだ!」


 現状、この動物の耳は役に立たないと判断をした。何人いるかもわからない、ただ人がいるだけですと言われても、そうですかとしか返答の余地は出ない。人がいるのはわかりきっているのだから、欲しいのは明確な情報だ。


「僕にもちゃんと名前ありますよぉ。名前は……、……えぇっと、あれ? 何だったっけ? ねぇ、僕の名前何だったっけ?」


「う、え、は、ど、う、な、っ、て、る、ん、だ!」


「それが僕の名前? そんな訳無いか。屋上だけど?」


「屋上? この上が? ……そうか、屋上なら。……いや、屋上だからって、どうしようもないか……。……ちっ! もっとろくな情報は無いのか!」


 質問を遅延した挙句出た答えが屋上と言う、自分でも考えれば二秒で至りそうな結論を平然と言うこいつに、怒りが湯水の様に湧き出る。

 

 屋上からどうしろって言うんだ。降りるだけなら造作も無いが、こんな不を形にした様な場所だ。逃げるのを想定しての、迎撃システムくらい搭載されているだろう。さすがの俺も弱体化の力を使う前に的にされれば、体中穴だらけで空気の通りも良くなると言う物。つまりそんな分の悪い賭け、やっていられるものかよ。何か他の方法は……。


「大体何をそんなに恐れているんだい? そのおかしな力を持っているのなら正面から突っ切ればいいじゃないか。……それとも、何か弱点が?」


「……うるせぇな! 無ぇよ! あったら何だ!」


「あるのならば、隙を見て殺そうかと思いました。僕の目的は元よりそれだけなのですよ」


「あぁそうだったな! お前は初めて会った時から殺人を目的に行動してたよな! 路地で出会ったときから、牢にぶち込まれるまでの今まで! ……おかげでお前に対する怒りを思い出したよ。腹、まだ治って無いんだぞ?」


 こんな奴を利用しようとしたのが間違いだと気付くのに、まさかここまで時間がかかるなんて。ここを脱出するのにこいつは不要なんだ、


「止めて下さい! 今こんな時に喧嘩なんて!」


「いつどこで後ろから刺してくるかわからない奴を! 平然と放置する方がどうかしている!」


「……ど、怒鳴ったって……! これから何が起こるかわからないんです! それに備えるのが先決でしょう!」


「だったら正しい音を伝えろ!」


「正しい音……? 音程を伝えろって言っているの……? 字も読めないのに私が、調律なんて……」


「楽器を鳴らせと言っているんじゃない! 下の階にいる人数を聞いているんだ! 正しく伝えればそれで……っ! ……何の音だよ!?」


「これ、爆発の音です!」


「これからもそれくらい正しく聞き分けて欲しいものだな! ……爆発だと!?」


 気付く頃には、階段の通路から煙がもくもくと広がっている最中だった。それは瞬く間にこの部屋を制圧し、空気に取って代わった。どうでもいい言い合いなんかしていながら、結局得た物が混乱だけ。もう少し為になる時間の使い方をするべきだったんだ、していないから厄介事に纏わり付かれる。


「ゴホッ! ゴホッ! ……オウサマさん、階段から複数の足音がします。間も無く攻め込まれます……。ゴホッ!」


「攻め込まれるだけならどうにでもなるんだけどな……」


 本当に嫌なのは、集団で追われた挙句遠距離武器を持ってこられる事。対象を見ないと使えない俺の力には、相性が悪すぎる。大体慢心もいい加減にしないと殺されるのは自分だと、気付くのが遅すぎなんだよ。……認めたくないが、俺より強い奴がいる事を知ってしまったから、この感情だ。俺が最初から力を使っていればこんな場所に放り込まれる事も無かったんだ。何が犯罪者、何が大量殺人者だ。証拠も無い癖して自分の言いたい事は言いたいだけ言い放つあの態度、目上の人間にする態度じゃないだろう。全くふざけている。こいつらも、あいつも。煙に囲まれて嫌気が差しているって時に、思い出すなよこんな事。そもそもだ、どうして俺がこんなに悩まなければならない、回りが勝手にやって俺がそれに巻き込まれただけだ。こんなに感情が揺れるのも、他の奴らが王である俺を軽視してきたから飛び火した。


 ……慎重にやっていればこんな場所で足踏みをしなくても済んでいたのではないか……? ……いや、だとしてもいつかはスノードロップに売られる運命だったのかもしれない。……そんな運命あるか? 無いとすれば説明も付かないが……。違うか、それなら……。……あぁ、そうだ。わかった。


「……間違ってるとか、正しく無いとか……。今の俺がどうとか何とか諸々……。……知ぃった事かぁああああああ!!!」


 階段とその通路にある天井が崩落した。崩落させた。そのお蔭で通路は完全に塞がれ、誰かが入る頃には数時間という時が必要なくらいに壊してやった。たった一本しかない下に降りる通路も、こうして壊せば気分爽快。


「ははははは! 小さいことで悩みすぎだろう俺は! あぁ、すっきりした。これで良かったんだ、これが正解だったんだ! そもそも問題が間違っていたんだ! ははは!」


「これ以上煙を増やさないでくれよ……。僕は汚いのは苦手なんだから……」


「あらら……、ボロッボロですね……。オウサマさん、これからどうします? これなら確かに誰も追って来れませんが……、って言っても私達も上に行く階段しか残っていないですけれど……」


「上に行く階段が残っているのなら上に行けばいい。何があるか見てないんだから、決めるのはとりあえず行ってからにすればよかったんだ」


 俺には力があるのに、何を躊躇っていたのだろうか。危険があるのなら壊していけば良い、遠距離で攻撃されるのを恐れているのなら遠距離で攻撃出来ないようにすればいい、たったそれだけの簡単な話なのに、ちまちまちまちまちまちまちまちま、賽の川原の石でも積んでいるかのような無駄な考え方をする必要があっただろうか。


 ぽろぽろと自分の感情に訴えかけて、挙句出て来たのは悩みとこんがらがった考えだけ。いらなかったんだ、ゴミだ、今までの俺はそこ等辺の無礼な奴よりは少しマシ程度のゴミ。過去の自分を馬鹿に出来るだけの余裕すらある。けれども俺は俺だ、細かい所は変わってしまおうと、大まかなところは変わらない。俺は今まで何をやっていた? 目の前に壁があったらどうしていた? 真正面から壊していたか? そうではない。屁理屈を企てて横から突破していくの俺なんだ。それが自分の今まで自分のやってきた事だ。だからそれは変わらない、本筋はそのままの代わりに、細部を変える。


「さぁ、上に行くぞ。……上に、上に行くんだ。これからは上に……」


「格好付けてるんじゃないですよぉ、所詮あなたも犯罪者なんですからぁ、もっとそこ等辺のメリハリって言うんですかぁ? 自分が犯罪者と言う自覚を持って、もっと折り目を付けて喋ってくださいよぉ」


「今が最高に折れているし、今が最高に格好良い。それで良い、それが良い。もう知った事か、何故なら俺は無敵なのだからな! はっはっはっはっは! ……おいお前! 次ナイフを持ったらその指、どうなってるかわからんぞ? その腰に付いているダサい袋にナイフを戻せ」


「ふぅ、もう少し隙を見ないと駄目ですねぇ。……ところで敬語止めていい? あなたは敬うに値しない人だからなぁ、そもそも名前しらねえし」


「お前が死にそうな時に教えてやるよ、どうせここ出たら二度と合わないだろうけどな」


 そもそもの話をするのなら、そもそもこいつと一緒にいる理由が無くなった。屋上に出て逃げると決めたのだから、この建物の内部なんか知っていた所で糞の役にも立たない。糞はまだ肥料で役に立つ、それより下の情報なんて、電気を通す柱は上に行くほど細いと知った時以来のいらなさっぷり。雑用係りだった女の方はむしろ外部の方が本領を発揮するだろうが、最早こいつはどうしようもない箸置きのすらなれない存在。しかもうるさい。


 それでもこの役立たずを連れまわしているのは、王の温情と言う物を見せておく必要があるからだ。この馬鹿野郎の刺した腹が、どれほど偉大な腹だったかを教えてやる。俺と言う存在を腹いっぱいに教え込ませてやる。


 また目的の増えた野望を叶えるべく、階段を上り、牢屋だらけで臭い建物の屋上へ上がった。ずっと暗い場所にいたせいで、薄めにしなければならないくらいの明るい光が目に入ってきた。しかしこれはどうした事だろうか、外は明るい時間帯だったのかなんて考えが一瞬でなくなってしまった。てっきりミサイルだのレーザーだので打ち抜かれるものばかりと思っていたのだから、驚きもする。どうして屋上に出たはずなのに、俺はまた地面の上に立っているのだろうか。


 階段を上がると、そこはただ小屋の中だった。

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