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固めた意志

「な、何で……! どうしてこんな事になっているのよ!」


 お城に向かって様々な物を、まるで自分の意思だと言わんばかりにぶつけられる。それは物だけでは無く、言葉や感情と言った得体の知れない投擲物。ペンキや食べ物、王を出せとの掛け声、怒っていますと表現している地団駄、曇った顔の民、生い茂った負の感情、それらが合わさって出て来る闘争心。何が人をここまでさせるのか、それは私が「人間」では無いからわからないのか、それすらもわからない。私の理解が及ばない所にいるのだろうと思う。


「大量の憤怒を検知。怒りの感情を現していると思われます。」


「それは見ればわかります! どうしてか知りたいの!」


「メイドの拙い知識ではわかりかねます。」


「あ……、いえ、怒っていることは……ごめんなさい。GMさんは何も悪くないのに……」


「問題ありません。」


 こんな時に、考えなければならない時に、また同じ過ちを繰り返してしまう自分が嫌いになる。こんな八つ当たりを繰り返すだけの王様なんて、いないほうがマシだ。……だから、……だからあの男は居なくなった……? ……あの男の力があればこんな暴動、一瞬で終わらせられるのに……。……自分で追い出しておいて何を言っているの私は……。この状況は自分でどうにかしなければいけないのよ、自分のお尻は自分で拭いて回らなければ、私の力不足のせいで見殺しにするしか無かった人達に顔向けができない。考えるのよ、どうすれば正解なのか、感傷に浸るのは後でいい。


「アザレアさん! 少しでもこの城への進行を遅らせる事が出来ますか!」


 まずはこの城に攻めてこようとして来る人達を止める事が最優先、あの人達はこの町の一番の象徴と呼べる城と、この町を統制している上の人間を落とすのが目的だと思うから。


「遅らせる程度ならばいけますわよ、何なら止める事だって可能ですわ」


「止める……? それは、……血を出さずに?」


「それは難しいですわね」


 わかっていた。アザレアさんは異様に強いけれど、どこか考え方がおかしく加減の効かない人だって。それでも止められると聞いた時は一瞬期待したけれど、町の人を傷付けるやり方ではさらに暴動が膨らむだけ。間違っている。全てを無傷でやらなければ、それはまた争いを呼ぶだけの火種にしかならない。


「町の人を傷付けるのは駄目です。私達がするべきことは、無傷でこの場を治めることです。……それでお願いします」


「この数を相手に、それは厳しくありませんこと?」


「そうでしょうね」


「えぇ、相手は怒っていて何をしてくるかわからない状態にありますわ。人数も膨大。それを無殺生でやるなんて、……それは、不公平ですわね」


「だとしても、やらなければならないのよ」


 あの人達も怒っているだけで、簡単に人を痛めつけて殺めるほど、人間が愚かでは無いと信じたい。一部の人間がおかしいだけでこの町の人達はきっと大丈夫。話の通じる者同士であるならば、最大の武器は言葉が通じる事。話し合えばきっとわかってくれるはず。


「……出来るだけ頑張ってみますわ。ちょっと仲裁に入っただけで大変な事になってしまいましたわね、とりあえずわたくしは正面の扉をお守り致しますわね」


「不肖ながら、私メイドも、武装はほとんど使えませんが何とかしてみます。少しは力になるでしょう。」


「そうね、二人ともお願いします。私も出来るだけ、皆に問い掛けます。それだけではどうにか出来るなんて思ってはいな……、……え……?」


 今……、アザレアさんは何て言ったの……? 私は聞き逃しはしなかった。アザレアさんから出た言葉が、運よく耳に引っ掛かってくれた。するりと零れてしまいそうなくらい、さらさらな言葉をうっかり逃してしまう所だった。私はもしかしたら、とんでもない爆弾発言に火を付けてしまったかもしれない。


「アザレアさん……? ……ちょっと仲裁に入っただけ……? って何……?」


「え? いえ、二時間くらい前の話ですけど、何か喧嘩しているようでしたのでただ止めに入っただけですわよ? 何せ片方が一方的にやられていて、不公平だったもので」


「……それから?」


「勿論、不利な方に加勢しましたわよ? それからは優勢な方を、やられていた方と同じくらいの見た目にしただけですわ」


「……それで?」


「わたくしの素性を聞かれて、この城の人間だと言ったら「お前らも結局同じか」って何故か怒られてしまって。そこから怒りが伝播して行って、何故かこんな事に。思い返しても正直意味がわかりませんわね」


 他の人が喧嘩をしていて。一方的な喧嘩だったからそれにアザレアさんが加勢をして。勝っていた方を同じくらい痛い目に合わせて。素性を話したらこの城の人間とわかった途端、そこから不平不満が広がっていって。――現在に至る。


 あぁ……、なるほど。確かに意味がわからない。どうしてわざわざそんな事をしたのか、何故広がって行ったのか、どの関係性でこの城が狙われるのか、一切理解が出来ない。……唯一わかる事は、この騒動の原因がアザレアさんにあるって事。


「な、何て事を……、してくれたの……」


「そうですわよね。わざわざ怒る事無いですわよね。わたくしはただ、喧嘩を止めようとしただけなのに」


「……っ! 誰のせいでこの状況になったと思っているの! わざわざ怒る事は無いって? そんな喧嘩にわざわざ首を突っ込む必要がどこにあるのよ!」


 またやってしまった。


「スノードロップさん?」


「怒りを検知。王様代理、疲れているのなら椅子があります。」


「そのわざわざのせいで町の人達全員が怒る結果になっているのに! それでも同じ事が言えるの!? 皆を苦しめる最悪の王様がいなくなったから、私達が変えて行かなければ……! 私が良い方向に導いていかなければ……!」


 また怒ってしまった。こんなのあの男と何も変わらない、力があるか無いかのわずかの違いしかない。こんなのでは良い方向なんて導ける筈も無い。本当はアザレアさんが完全に悪い訳では無いのは理解している。町の人達の今までの不満が溜まっていて、それが今爆発しただけの事なのに。それでもトリガーを引いたと言う事実が気になってしまった。


「優先順位が違います。今は怒る事ではなく、暴動を止める事が優先だと思われます。」


「…………こんな私が、やっぱり王様なんて無理だったのよ……。勝手に代理になって、勝手に降りるなんて、馬鹿丸出しよ……」


「優先順位が違います。今は悲観する事ではなく……」


「……この状況で誰も傷付けずに止めるなんて出来る訳無いでしょう! 誰かが絶対に傷付く! 誰かが悲しむ!」


「情緒の不安定を検知。落ち着く事を提案します。」


 ……落ち着いているわよ。私は落ち着いている。無理難題を出して二人を困らせて、それでも私は落ち着いている。これが自分の本性なのかもしれないと理解できるくらいには。


「それじゃあ、どうすればいいのよ……」


「スノーさんが呼びかければ、きっと止まりますわよ。王様が代わって、これから良い国にしようとしている事を伝えればきっと」


「そんな話、聞く訳無い……。あの人達は二度騙されているのよ、最初の王様と、ユリー・フレゥールの二度……。そして今回の事で三度目。そんな耳なんて……」


「スノーさん、ここで何もしなければ、四回目になりますわよ?」


 ……四回目。ここで私が何もしなければ、いくら代理とは言え裏切られたら、もう町の人達は誰も信じられなくなる。今まで騙されてきた反動でこうなっている、それならば、今までの反動を帳消しにするよう事をすれば。


「無傷で止めるというのならば、それが出来るのはスノーさんしかしませんわ」


「……そうね、こんな所でくすぶっていても何にもならないもの。出来る事があるのなら、やるしかない。……それじゃあアザレアさん、正面をお願い!」


「了解しましたわ!」


「GMさん何が出来るの?」


「武装はほぼ使えませんが、ブースターの燃料がまだあります。撹乱ならば可能です。」


「それでお願いします。……誰も傷付けないで」


 今ままでの王様がやってきた二の舞にだけはしたくない。私がここで、負の連鎖を止めてみせる。こんな私でも出来る事はあるんだと、自分に教えたい。

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