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水先

 助けた礼として森の出口まで案内してもらう事になり、二人で草木を掻き分け練り歩いている。


 その前に燃えた木々を消化している姿を後ろから眺める事十分、ようやっとこっちの要件に移行してからの上記である。


 ただ何一つ喋ろうとしないのは何故だろうか。わざわざ俺の手を煩わせてしまった申し訳無さからだろうか。謙虚なのは良い事だがどうにも手持ち無沙汰になるのは耐え難い。


 ……話しかけてみるか。


「ここ暗いとこだよな、ジメジメしててさ。居心地が悪いったらありゃしねえよ。なぁ?」


 会話術としてまずは他愛も無い話から少しずつ入り込んで行く、そこから穴が開けば拡大して流れを掴む。

 これで一国を築いた俺が言うのだから間違いない。


「…………」


「……だんまりかよ。まぁ、どうでもいいけどな」

 

 盛り上げようとしているのに、返答すら無し。ご自慢の会話術も返答が一切無いのは考慮していなかった。


 案内してくれるそこそこ親切な奴だなとお思いはしたけれど、折角上がった評価がこれじゃあマイナス点。


 ……そもそもなぜ俺がこんなゴミみたいな努力をしないといけないんだ。


 アホらしい。止め止め。喋りたくないならもうそれでいい。

 

「…………私の故郷を悪く言わないで」


「あ? 何て?」


「…………」


 まただんまりを決め込む。聞こえなかったから聞き返しただけなのに、繰り返す事すらしないのか。

 中々難儀な性格をしているな。


「もう少しでかい声で喋れよ、それかそのボリュームで喋るんならせめて顔をこっちに向けろ」


「…………ひとでなし」


「あ……?」


 今度は聞こえた。口の目の前でこぼす様な音量だったが、何て言ったか明確に聞き取れた。


 その脚がいつまでも元気で動けれると思っているのか。


 前に前に出している足が、いつまでもな。


「うっ……」


「おいどうした? いきなり倒れちゃってさ、もしや脚でも挫いたか?」


「またやったわね……っ!」


 女は倒れた体を上半身だけ起こし、その生意気な赤い目で睨んできた。証拠が何も無いのに俺がやったと決め付けているのだ。

 なんて疑い深い奴なんだろうか。俺は悲しいよ。


「その邪悪な力を使ったわねと言ったのよ! ……この悪魔!!」


「大きい声で喋れるじゃねえか、今度から聞こえる声で喋ってくれよ」


「う゛ぅ……、う゛う゛ぅ…………」


「角、出てるぞ。足の挫きが直ったら教えてくれ」


 ……全く、こんな事でいちいち怒るなよ。器の小さい種族だな。まぁオーガは短気って聞くしな、仕様が無いか。


 座ってるようじゃいつまで経っても出られないぞぉー? 俺を退屈で殺す気ですかぁー?



――――――――。



 結局、立ち上がるのに十分近くを要した。


 弱体化をこの女に使うのは二度目というのに、耐性の欠片も見せないのだからしょうも無い体の構造をしてるのだろう。


 目を細めながらゆっくりと立ち上がった。


「あ、もう行ける?」


「…………」


 特に会話も無くそこから更に十分余り歩いて、ようやく、ようやーく出口に辿り着いた。


 もう少しろくな案内と言う物をして欲しい物である。歩くのが長く退屈だった。


「ここが森の切れ目よ……、右に行けば公道に出て、左に行けば海に出る……」


「そうか。ところでサンバークって国知ってるか? そこに行くにはどっちだ?」


「多分公道の方に出て……村を一つ通り越せば直ぐだと思う……」


「へぇ……」


「…………」


「…………」


「……それじゃあ私は……、これで……」


「いや、来てくれよ」


「え……? ど、どうして? 案内はちゃんとしたじゃない……、だからもう……」


「だってこれからどこに行けばわからねえし、お前が来てくれないと俺が困るから」


「いや、でも私……、もう帰して……」


「え、何で?」


 お……? 虫が飛んでる……。

 あいつの脚の方に……、一匹の虫が……、飛んで……、あ、張り付いた。


「ひっ……! わかった! 行くから! 私も行くからもうそれは止めて!!」


「え……? あ、そう?」 

 

 良い心掛けだな。 


 虫の羽を弱体化している間に気が変わったみたいだ。


 運も良いなんて、俺は神にも愛されているのか。


 国を築き上げただけあって、持ってる物は持っている男なんだな。と再実感。


 まぁ何はともあれ、案内してくれると言うんだからここは鵜呑みにしておこう。


「それじゃあ町に着くまでよろしくな」


「…………」


 俯いていて折角の挨拶も返答無し。

 感じのわりぃ奴。

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