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民の見えない不満

「困っている人がいたら助けてあげなさい、それはきっと私たちの為になる」。私の頭に残っている記憶の中のお母さんが、微笑みながら語りかけてくれたのを覚えている。


 助け合う事が私たちの生きる方法なのだと、そう教えられてきた。けれどこの言葉には引っ掛かりがあった、どうして私たちの為になるんだろう? お母さんに聞いた。


 何も答えてくれなかった。聞いた途端顔から笑みが消え、目を逸らし口を摘んだ母の姿があった。子供心に「しまった」と思ったのを覚えている。多分聞いてはいけない事だったんだろうと察し、反省をした。


 今にして思えば何故黙りこくったのかわかる、簡単な話だった。私が人間と言う種族ではなく、所謂「雑種」と言われる混血。多種多様の混血がいて、それを認めている人間も多数いる一方で一部の人間が異様に嫌っている、というそれだけの話し。


 嫌われるのも多少は理解も出来る。外は人の様な見た目をしていながらその実、中身は人とは掛け離れた存在なのだから。そもそも森で暮らしていた自分にはどれほど嫌われようがその実感は無く、あまり関係が無いと思っていた。


 しかしその実感が出たのはある日言われたセリフ、「劣等種」。そう言われたのが何故か物凄く頭に来た。そう言ってきた男は、雑種、劣等種、混血、と様々な言い方で私を馬鹿にして、そのせいかうっかり人前では出すなと言われて来た角とこの赤い目を惜しみなくふんだんに披露して、挙句手が出てしまうほど怒ってしまった。


 私はそこで、世界を何も知らなかったのだと思い知る。人間がこれほど混血を嫌っているなんて思ってもいなかったし、戦闘種族オーガの拳だろうがものともしない人間がいる事、それに私の人生の道が崩壊し始めている事に一切気付かなかった。知らなかった。


 けれど、私はこの人生が間違っているなんて思いたくない。あの男が、ユリー・フレゥールという人間が存在している事を知れた。私がやらなければならない事を見つけられた。


 それだけで、良かったと思える。


――――――――。


「昨日は枕を濡らしていましたが、体調は問題無いですか。王様代理。」


「…………部屋に入ったの?」


「はい。深い眠りにはつけていました。」


「それなら大丈夫よ、良く寝ているのは健康の証拠。私は大丈夫」


「お体を壊さない様にお願いします。王様なのですから。それとこの体の武装の修理をして頂きたいのですが」


「いきなり話が飛んでよくわからないけれど、……え? 武装?」 


「はい。計二十箇所以上の武装が使用不可にあります。」


「なんて物積んでいるのよあなた……。……えっと、もしかしてここにいたメイド達全員がそんな物を積んでいたの?」


「多少の誤差はありますが大体そんなものです。」


「私たちはかなり危ない橋を渡っていた事に、今気付いたわ。……そういえば他のメイド達を見ないのだけれどどうしたの?」


「はい、メイド達には豚足豚野郎に何か危険があった場合の情報漏洩保護の為、自爆機能が付いています。」


「自爆したって事ね。……あなたは?」


「機能全般の一時停止を行っていた為、発動しなかったのだと思われます。」


「そう……。とりあえずあなたのメンテナンスは私がするわ」


「出来るのですか? 失礼ながらメイドの体は割りかし複雑ですよ。」


「そうでしょうね。いくら複雑怪奇な代物でも、それでもやる人がいないのだから私がやるしかないのよ。……全部、私がやる」


「ありがとうございます。それとお客様です。」


「……それは先に言って頂戴ね?」


「いえ、今感知しました。町の方々が集団でこちらに来ています。」


「集団? それってどういう……」


 何かイベントでもあった? そう聞こうした私の口を、無造作に開けられた扉の音で掻き消された。


 そこには少し焦った様子のアザレアさんが立っていた。どうしたの? 聞く前に私の発言は遮られた。


「スノードロップさん! 大変ですわ!」


「な、何? そんなに大慌てで……」


「沢山の人が集団で攻めに来てますわよ!」


「…………え?」


 集団で攻めて来る……って? ちょっと言っている意味がよくわからないのだけれど、どういう因果でそうなるのか理解が追いつかない。攻めるってどうして? 敵対していると言う事? いや、でも……。


「とりえあえず窓から外を見て下さいませ!」


「え? あ……、そうね。見ない事には対策の立て様も無いわね」


 何か問題が起これば対策を立てなければならない、何故そんな事になるのかを考え対処する。それが王様の仕事。


 しかし何故そんな話になってしまったのだろう。税の過剰徴収は対策したし、溜まっていた書類も捌けて来ている、だというのに。


「え……?」 


 私は、人間と言う種族を見くびっていたのかもしれない。私にも幾分か人間の血が流れているとは言え、中身は殆ど人以外の血。それ故に私とは到底、永遠に理解のし合えない生物なのかもしれない。


 事実あの男は私を化物と否定し、貶した。あんな横暴で最低な人間は世界にたった一人の悪なのだと思っていた。だから止めようとした。


 けれどそれは間違いで、似たような横暴で最低な人間がそこかしこにいるのだと、窓からの景色を見てそう思った。


「何、これ……」


 町が丸々一つ、怒り狂っていた。


 鬼の形相で何かを叫び、手に取る物手当たり次第に投げ込み、批判する様な内容の旗をかかげ、暴言、暴力、暴走、暴徒と化した町の人間一人ひとりが暴挙をかざして城に対し進行していた。王様のいる城に。

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