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別の意思

 ある男は、怒号を上げながら連行されて行った。その間ずっとこちらを睨んでいたのを思い出し私は思う。


 本当にこれで良かったのだろうか。


 自称王様と名乗るその男は誰からも信頼されず、誰にも尊敬されていないにも関わらず、それに気付かず自分は優秀だと思い込み自分の立場を利用し好き放題する男だった。尊敬も信頼もされずに当たり前と言える裸の王様、連行されて檻に入れられた方が反省もするのかもしれない。


 かもしれないけど、これで正解だったのか。他人に頼んで他人の力を利用し、自分の手を汚さず目的を達成する。これが本当に私のしたかった事なのか。あの男の、ユリー・フレゥールの去り際の顔が脳裏に張り付いて離れない。


 終始、私を睨んで怒りに満ちたあの顔が。


「体調の不備を検知。どうされましたか? 王様代理。」


「……その呼び方は止めて、私は仕方無くやっているだけで、王様なんて柄ではないの」


「仕事でお疲れですか?。 でしたら食事を用意しますので休息に入る事を推奨します。」


「疲れている……? 私は疲れているの……?」


「そう判断しました。」


「……うん。そうかも、しれない……、ありがとう」


 この目の前に置かれた大量の書類、それが片付くまで何時間かかるかわからない仕事量。忘れていたけれど、確かに疲れているのかも。


 王様がいなくなり、この国を統制する人間が不明な状態にあった。町の人達は多分、王様なんて存在は求めていないかもしれないけれど、それでも管理する人間が必要だと思い私が王様の代わりをしているのだけれど。……思ったより大変だった。次から次に摘まれていく問題、過去の王様がやった表沙汰になっていない不正、確認不足や不備だらけでちらつく書類の修正、交易の管理、税の管理、管理している場所の管理、一向に終わる気配が無い。


「……あの人は、今までずっとこれをやっていたのね……」


「声量不足を確認。もう一度お願いします。」


「ご飯食べてくるわねって言ったの」


「了解しました。本日のメニューは食料庫の破損によりあまりもので作りました。」


「うん、ありがとう。食堂ってここの下よね?」


「はい。」


「あなたも休んだ方が良いかもしれない、右肩から煙出てるもの」


「水道管の改修の際に損傷しました、お気遣いありがとうございます。メイドには自動修復機能がありますので間接ならば修復が効きます。武装は交換をお願いします。」


「自動修復……、凄いわね」


「アザレア様がお探しでした。」


「アザレアさん? ……そう、わかったわ」


 何かはわからないけれど、私からも話したい事があったから丁度良いタイミングね。この際はっきりさせないといけない、これからの事をどうするか。


 この書斎にはもう入りたく無いわね。入ると仕事が襲って来る。

 

「王様……。私が王様、ね……」


 代理とはいえ、森で静かに暮らしていただけなのにどうしてこうなってしまったの。私はどこで間違えてしまったの。


 どこでも何も無い。あの時お腹が空いてしまったから、あの時釣りをしてしまったから、あの時人間を釣ってしまったから、だから私の人生は反転した。反転させられた。あの男に。


 あの男が川になんて流されるから。多分横暴な性格の王様に国民が怒って流したんだろうと容易に想像がつくくらいには、真っ直ぐに捻くれている。


 あんなにギッチリ縛られていたのだから、色んな人に相当な事をして恨みを買ってい……、……どうしてわざわざ流したの……? 対象を弱らせるあの悪魔の力があったとしても、縛るところまで行けたのだからそのまま……、そのまま、殺してしまうなりしてしまったほうが確実なのでは無いの……?


 勿論殺害は推奨しないけれど、国中から恨むを集めていたのなら殺されていてもおかしくない、殺されて当然。


 ……とても優しい方々だったのね。それを生き埋めにしたのだから償う必要はある。その為に私は……。


「あらスノーさん、御機嫌よう」


「……アザレアさん、少し良いかしら。食事でもしながらお話があるの」


「スノーさんからお誘いだなんて珍しいですわね。これはきっと王としての自覚が付いて来たんですわ!」


「とりあえず食堂に行きましょう、あのロボットさんが既に用意してくれているらしいわ」


「あの方GM-3と言う名前らしいですわよ?」


「多分それ名前じゃなくて型式番号とかその辺だと思うけれど、後々付けてあげましょう。人間らしい名前」


「そうですわね。それはそうとわたくしお腹が減ってきましたわ」


「えぇ、行きましょう」


 食堂へと向かう道、会話は一つも無かった。話す事は沢山あるのにお互いに口を開かず、ただただ事務的に足を交差させていく。


 アザレアさんは私に用があった筈なのに、それさえも言わずに真っ直ぐと。


――――――――。


「あら、中々斬新な料理ですわね」


「料理……、というか……。一応料理だけれど……」


 机にずらりと並べられたそれは、人が食べるには好ましくないお粗末な物だった。好む好まないは置いておいて、真っ先に出てくるのは食べても大丈夫なのかと言う疑問。


 そこ等辺にいたずらに生えている様な草を煮込んだり炒めたり、盛ってあったりで調理はされているのだけれど料理とは呼べない怪しい品々。本当に食べれるのか半信半疑が止まらない。


「もう食料が完全に無いって事ね……、草を食べるしかない程に」


「食べてみたら美味しいかも知れませんわよ?」


「……そうね、折角作ってくれたのだから頂きましょう」


 アザレアさんは私と対面になる形で席に着いた。これなら話がしやすいと思う。


 恐る恐る口に運んだ料理は料理としての体裁は保っていた。不味くは無いのだけれど正直に言うと美味しくも無く、作ってくれた本人に申し訳無くなるくらい当たり障りの無いお腹を満たすだけの料理だったけれど、雑草を料理にまで昇華させたと言う振り幅が美味しく感じさせた。


 いえ、美味しく感じるのは多分、私の為に作ってくれたって事にかもしれない。食料が全く無い状態で料理を作り上げたのだから、これを美味しくないとは口が裂けても言えない。これは美味しい。これは美味しい。


 特にこのみじん切りにされた雑草を練りこんでからっと上げた揚げ物なんて、私じゃ絶対に思いつかない一品。口に入れるとほろほろと崩れながらも上手くまとまり、それらを包むようにして巻かれた雑草が程よく弾力を生み見事な調律を生み出している。と思う。多分。


 ……やっぱり駄目ね。ちょっとは楽しい気分で会話をしようと思ったけれど、私の気持ちは崩れ落ちるばかりでちっとも纏まらない。


 これを聞かない事には、自分の中で納得が出来無い。これを確認するまでは、自分が信じられない。


「あ、これ七折り茎ですわね、珍しい。スノーさん、この話知ってます?」


「話し?」


「これを恋人と一緒に七回折れば、百年の恋もビンタで終わるってお話しですわよ」


「ふふ……、何よその逸話」


「それにこの千年杉の幹の葉、これにも一つお話があるんですわよ。これには生きる為の栄養が沢山入っていると主張してきた学者がいましたの、けれどこれを食べ続けて数週間で栄養失調になってしまい倒れて寝込んだらしいですわ。でその時言ったセリフが「次は布団の研究でもしよう」」


「あははは! ……はぁ、完全に懲りたって訳ね」


「えぇ、完全に足を引きましたわね。ではでは続きまして、この落ち楽花についてのお話を……」


「……アザレアさん」


「あら、もしかして既にご存知でした? 中々博識ですわね。それでは高発破と低発破が花を付ける条件については……」


「アザレアさん、これで……、これが……、本当に正しかったのだと思う……?」


 こんな事を聞いたって、何にもならないのに。正解かどうかなんて、知ったところで過去は変わらないのに。


 無駄だと知りながらも、聞かずにはいられない。


「……? 主語が抜けていますわよ?」


「私が成り行きでこうなってしまって……、自分が気に入らないと言う理由だけであの男を追い払って……、こうして誰かの作ってくれた料理を食べてて……、それで、死んでしまった人達は報われると思う……?」


 この国で誰も望んでもいない王様に自ら名乗り出て、あの男の好き放題が許せなくて、暢気に暖かいご飯を食べている、そんな自分が正しいとは思えない。


 あの男のせいで何人も不幸になり、挙句不幸になる事さえ出来なくなった死んでしまった人達が沢山いるのに、その男に付いて回った私がこんな所で足踏みをしているのがとても正しいなんて私は……。


「……いえ、さすがにこの料理に毒草は入っていませんわ。他に中毒性の強い草も見当たらない様ですわね。……つまり、この料理は安全ですわ! お気を確かに!」


「……ふざけないで!! あなたはユリー・フレゥールの事が好きだったのでしょう!! どうしてそう飄々としていられるの!」


 どうして私は。


「あなたはあの男の行き過ぎた言動を見過ごして! 止める事すらしなかった! 平等で無いという理由だけで!」


 何故私は。


「平等平等と損得勘定で物を考えて! それで不幸になった人間もいるのよ!」


 こうやって怒る事しか出来ないのだろう。


「あなたが協力してくれていれば! もっと早くあの男を止める事が出来たかもしれない! それなのに……! もう少しは他の人の事も考えてよ!」


 何故こうやってでしか触れ合う事が出来ないのだろう。


 自分でも恥ずかしくなるくらいの八つ当たりをしていると思う。別に怒鳴る事でも無いし、私の説明の仕方が悪いだけで、気を使って食べられない草が入って無いかの心配もしてくれた人に、ただ自分が気に入らないと言う理由だけで当たっている。


 自己中心的な物の考え方しかしていない最低な人間だ。……私はあの男の言っていた様に化物なのかもしれない。他人を不機嫌にするだけで、結局何も出来なかった化物。


「……えぇ、好きですわ。今もその気持ちは変わらずあります」


「だったら……!!」


「だからわたくしは信じています。帰って来ると」


 帰って来る。目の前にいる女性の自信のあるこの言葉に、何故だか確か不安を感じた。


 帰ってきてしまったら、また同じ事が起きてしまうのではないだろうか。真っ先にそう思ってしまった。


「……あの男も……、フリー・フレゥールも……、改心して帰って来るかな……」


「えぇ、立派になって帰ってきますわ。……何せ、わたくしの未来の旦那様ですもの!」


 ……そうね。あの悪魔の様な歪な力も、考えようによってはいくらでも良い事に使える。病気の改善だって出来る、争いを止める事も出来る、天変地異だって多分止めようと思えば止めれるかもしれない力を持っている。


 今までの事を反省してこれからに向けて生きてくれれば、償いながら生きてくれればそれでいい。


 ……それが多分正解なんだと、私は思う。


 アザレアさんに怒鳴ってしまった事、ちゃんと謝ろう。

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