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遭遇

「本当に不思議な力ですね」、陰気臭い暗い廊下を進みながら獣が言った。


 正直混血の化物は関わりたくない程下劣な生き物ではある。それもこれもこんなよくわからない場所に放り込まれたせいで、こう脱走するハメになったのだ。利用出来るのならしておこうと思って連れているまでで、何の感情も湧いていない。

 

「ほら見てください! あんなにブッスリ刺されたのに痛くない、血もほとんど出ていないです。これを不思議と言わず何と言いますか!」


「そりゃあ俺が力を使ってやったんだ、止まらなければ廃り落ちるってもんだ。……まぁ、その見た目よりかは不思議じゃねえけどな」


「その見た目? って、私の事ですか?」


「頭頂部辺りから耳が生えて、全身体毛に覆われて、それでいて全身のパーツが人間と同じの奴をおかしく無いとは言わせねえよ。お前どこの化物との混血だ?」


「いえ、わかりません。気付いた頃にはずっと働きっぱなしでしたので、詳しい事はちょっと」


「ふーん……」


 知らないのか、つまらない奴だな。別に興味も無いから追求する必要も無いから、わからないのならわからないままでいい。


 化物と人との混血なんて忌み嫌われる存在の昔話なんて、そこら辺に生えてるキノコより価値は無い。


 どうせウルフか何かの混血だろ。人間とはよくもまぁそこまで異種交配が出来る種族だな、たくましいと言うか何というか。そのせいで不要な種族が増えてしまったと気付かないのか。こういう半獣が存在しているのも、スノードロップみたいな化物がいるのも、ほいほいほいほい子孫を増やしているからそうなっている。王の仕事に付いたらこいつらも間引いて行かないと。


「何か思い出しましたか?」


「は?」


「記憶喪失です。どこまで忘れているのですか? お名前とかも覚えてないのです?」


「他人に聞くならまず自分からだろ? 教養も無ければ一般常識も無いのか?」


「あ、それが常識なんですね、ごめんなさい。でも私は名前がありませんので……、あ、でもたまにドレイとかコジキって呼ばれてました、何かかっこいいですよね」


「……お前それ意味知ってて言ってるか?」


「いえ? どう言う意味なんです?」


 奴隷。乞食。両方ともゴミと同様に近い人物に使う言葉。知らないのなら特に教える必要も無いが……。


「何の意味も無えよ、無駄だからそれは使うな」


「あれま、それじゃあ名前どうしましょう。ずっと他の人の名前を聞けないのはちょっと辛いです」


「名前なんて無くてもどうにでもなる。現に今どうにでもなってるだろ」


「なっていないですよ、あなたの名前が聞けないので私は困っています」


 何だって良いだろ、名前なんて。どうせ世界中の人間を知る事なんて無いのだから、一でも二でも適当に数字を割り振っておけばそれで構わない。識別さえ出来れば何だって良い。


「王様だ。今後俺の事はそう呼べ」


「オウサマ……、良い名前ですね!」


 ……やはりと言うか何というか、こいつも相当一般常識に欠けている。他の町の事は知っていてもそれ以外はからっきしの無知っぷり。


 こんなのを連れて歩いていたら脱走どころじゃ無いな。足を引っ張れてさっきの檻に逆戻りなんて馬鹿な話は御免だ。


「ところでオウサマさん、これからどこに行くのです?」


 特に追っ手も来ていない。多分まだ騒動に気付いていないだけだろうが、それでも下手な行動は出来そうに無い。


 こいつが道を知っていれば簡単な話なのに、知らぬ存ぜぬの一点張りで役に立たない。


「オウサマさん? 聞いてます?」


 右も左も人が入っていない檻が続くばかりで手掛かりになるものも一切無し。壁を壊して進んでも良いが、騒動になりそうな事は出来る限り避けたい。


 となると……。


「あ、誰かの足音が聞こえますよ」


 どこか一人でいる兵士を捕まえて尋問するか。さすがにメイドみたいに自爆はしないだろう。


 最悪こいつを盾にして何とかするか。


「オウサマさん、前から誰か来てます」


「……一応他の方法も考えておくか」


「オウサマさん!」


「あ!? うるせえよ!!」


「誰か歩いてきてますよ、鉄の音がするので多分憲兵さんです」


「あぁ? そんなのどこにいるん……」


 ……そうか、そう言えばこいつは獣が入っているんだったな。野生が入っている。


 その二つ生えたデカイ耳はどうやら伊達では無いらしい。


「距離は?」


「壁に響いててよくわかりません」


「……お前、使えるのか使えないのかはっきりしろよ……」


「でも近いですよ? ほら、そこの檻に隠れましょう! 見つかりたくは無いでしょう!」


「いって! 押すな!」


 確かに俺も聞こえてきた、微妙に金属の擦れる音と足が一定のリズムで鳴らす音。


 少し離れたところにいるのを目でも確認出来る。一人の兵士が周りを見渡しながら歩いている姿がしっかりとある。


 しかし、見つかったのはあっちだけでは無いらしい。


「だ、誰だ。誰かいるのか……?」


 声を聞かれてしまったのだろう、かなり警戒している様に見える。これだけ大声を出せば当然と言えば当然なのだが、さすがにアホ過ぎる。こいつやっぱりいらない気がして来た。


「あ、バレてますね」


「お前がうるさいからだ」


「オウサマさんも大きい声出してましたよ?」


「あ!? 俺のせいだって言うのか!? 自分がやった事を棚に上げて他人のせいにするのがどれだけ愚行か、一から十まで教えてやろうか!?」


「しー! しーです! ……あ、ほらこっちに近づいてきますよ!」


「……別に静かにする必要はねえよ、現状に限ってはむしろ都合が良い」


 あの向こう側にある燭台を弱体化して床に落とす。


 ……そうだ、そうして注意が逸れた所でもう一つ落とす。俺達とは逆側を向かせて、後はあいつの筋力の弱体化。


 そうすれば。


「動くな、首の骨をへし折るぞ」


 他に応援を行かせる事も無く、気絶もさせない捕縛方法。


 こう言う時にイメージトレーニングをしていて正解だった、今の俺なら空から隕石が降って来ようとも逃れられる自信がある。


「な、何をする……!」


「黙ってここの道を教えろ、余計な動きを見せたら殺す」


「何だと!? い、言えるものか……! そんな事……!」


「拒否出来る立場か! お前の命は俺が握っていと理解しろ!」


「……だ、だれだか知らんが、こんな事をする奴にろくな人間はおらん……! 脱走者ならば投降しろ! 今ならまだ……ぐっ!!」


「これ以上俺を怒らせるなよ……? 黙って吐けば済む話なんだよ、その小さい器のせいで命を無くす事になるぞ」


「そ、それでも脱走者に情報を与える訳には行かない……! 我々は悪に屈さず正義に生きる、人間だ!」


「あぁ!?」


 こんな腐ったような場所の通路なんて、そこまで機密にする程の情報でもないだろうに。自分の命と引き換えに、守らなくても良い情報を抱え込んでいる所謂ただの馬鹿だ。


 挙句罪の無い人間に対し脱走者と吐き捨て殻に篭る。どうしても言うのならお望み通りこのままへし折ってくれても構わないんだが。


「あの、手荒な行動はちょっと……。平和に行きません……? 平和に……」


 そういえばこいつもいたな。あまりに生意気な行動を取るものだから敵かと思ってしまった。


 どうして俺の腕を掴んでいる? 何故止める? こいつ等は俺を投獄させた奴らだぞ? ……考えただけでストレスがたまる。


「黙ってろ雑用の分際が!! 俺が何をしようとお前には関係無いだろうが!!」


「ひっ……! あ……、ご、ごめんなさい……。  ごめんなさい……。     ごめんなさい……」


 もうしませんから、ごめんなさい。と言ってその場で縮こまってしまった。


 ガタガタと震えこちらと目を合わせず、一点を見つめて動かなくなってしまった。


 ちょっと怒鳴っただけでこうなってしまった。


 耳もたたみながら汗も出してしまった。


 何をやっているんだこいつ?


「いやさすがに小さくなりすぎだろお前。謝罪するのは良いが、黙っていればそれで良いんだよ」


「その娘、もしや雑用係か……?」


「らしいな。だとしたら何だ? そこらの雑兵風情が一端に語る事でもあるってのか?」


「この娘は怒鳴ればこうなる、ここでは周知の事実だ。それを知らないと言うのなら、本当に脱走者だったと言う事か」


「……ちぃっ!! この俺が何も知らない訳が無いだろうが! お前ら程度が知っている事なんてなぁ! 王の頭に入れるほどの価値も無ねぇって言ってんだよ!!」


「恥じる事は無い、ここでの常識なんて知らなくて当たり前なのだから」


 この世には死んでもいい人間と死ぬ価値も無い人間がいる。死んでもいい人間は何も生産性を生み出さず王の役にも立たない穀潰し。


 対し死ぬ価値も無い人間とは、今目の前にあるこのゴミの事だ。


「っ黙れぇえええ!!!」


 ゴミとは人に非ず。知識をひけらかす者は空気を吸う資格も無い。


 気付いた時には壁だった物の残骸と、動かなくなった一人の男が目の前にあった。


 この件に関してはこいつが悪いんだ、こいつが俺を馬鹿にするから。それでついついやってしまっただけで俺は悪くない。王に向かって何も知らない奴扱いをした人間など、力任せに壁に叩きつけられて然るべきなのだ。


「……これで他人を見下すとどういう事になるのか、わかっただろ……?」


 そこで永遠に眠ってろ雑魚が、一生俺の前に姿を現すな。懺悔と後悔の中で自責の念を潰して消えろ。


 …………しかし、俺は壁の方にまで弱体化を使ったか? いくら怒りに任せ人間を頭から叩き付けたと言っても、石製の壁が一部分完全に抜ける程の腕力は持ってはいない筈だが。


 しまった、あいつに道を聞きそびれた。


 …………いや、まぁあのままでも吐きそうに無かったしどうでもいいか。そんな事より今は……。


「おい」


「ごめんなさい……。ごめんなさい……。ちゃんとしますからこれ以上は……」


 このまま動かないこいつをどうにかしなければ、こいつの聴覚を持っていかないと面倒事に巻き込まれる。利用出来る物は潰れるまで利用していくのが俺の信条なのだ。


「お前さぁ、ちょっと大声出したくらいで抱え込んで何? 人間より音に敏感なんだろうけど、だとしてもそれはやり過ぎだろ。怒鳴られたから許してくださいアピールのパフォーマンスか?」


 一部の生物には、死んだ振りをして難を逃れる方法があると聞くが、今こいつがやっている行為が正にそれなのだろう。相手に自分を弱く見せ敵対する意思が無いのだと伝える、そうやって逃げる為に。


 今までの人間はそれで騙せたかもしれないが、俺は騙せない。


「立てよ、さっさと行くぞ。こんな所いつまでも居たく無いんだよ」


「ごめんなさい……。すみません……。出来る事ならば、お手加減をお願いします…………」


 何だこいつ、腕引っ張っても立ちやしねえ。算段を見抜かれたと言うのになんて強情な奴だ。


 こいつの体重を弱くして、無理矢理連れまわせば解決する事だからそれで良しとしよう。無礼講カウンター一つ目だな。三つ溜まったら魂が天に帰れ無いと思え。


「待ってよ、この死体をここに置いて行くつもり? そんなまさかびっくり仰天、簡便して下さいよ」


「あ?」


 誰だ……? さっきの雑兵とはまた違うこの声……、どこかで聞き覚えがある様な、どこか殺意が込み上げて来る様なこの声。


 この声は……。そうだ、この声は……。


「やぁ、久しぶりですね。お腹の傷は大丈夫かな?」


「……はっ! 無様な姿だな。あのだっさいナイフは大丈夫か?」


 俺をナイフで刺した人間なんて忘れる筈も無い。


 そんな奴が鎖に繋がれ牢に入れられているのだから、笑っても仕方が無い。

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